03

「関数なんて、将来いったい何の役に立つんだよ」

 数学のワークをやりながら、毒づいた。

 3日後に控えた中間テストに向けて、放課後に図書室で教科書を開く。ひとりではやる気が出ないので、佐土原さとはらひばりちゃんも誘っての勉強タイムだ。

「同感ー! 公式覚えても将来何に使うのって思うよね!」

 ほっぺたを膨らましてひばりちゃんが言う。開いたノートの上に突っ伏して、シャーペンでグリグリと数字とアルファベットを書き連ねては、覚える意味を見出せない公式に怒りをぶつけている。

 ひばりちゃんは小柄で、ふわふわしていて、小動物みたいに可愛い。

 一見すると大人しそうな雰囲気だけど、割と毒舌だったりして、そのギャップがまた萌える。

「くそう、数学なんて滅びちゃえばいいのに」

「ねー」

 ふたりで悪態をついていると、荒木司がやってきて「デート中?」と話しかけてきた。

「そうだよー」

「羨ましいだろう」

「いや別に」

 三次元に興味はないし、と笑顔で言い放つ。

「ふたりの関係性に萌える事はあっても、羨ましいとは感じない」

「萌えはするのか」

「百合万歳」

 三次元に興味ないんじゃなかったのか。それとも私らは二次元の住人なのか。二次元好きだけど。

「で? 何か用?」

「借りた本を返しに」

 そう言ってひらひらと本を見せる。表紙に描かれた男子高校生同士のイラストが、ジャンルを強く物語っている。

「うちの図書室、割と寛容だよね」

「誰かの私物じゃないんかい!」

「面白かったよ」

「この腐男子め」

「BL万歳」

「おいやめろ」

 清々しいほどに自分の趣向を隠さない。

「その先生の書くやつ、面白いよね。どうだった?」

 ひばりちゃんが横から参戦してきた。ブルータス、お前もか。

「控えめに言って最高でした」

「よし、借りよう」

「マジか」

 せめて中間テスト終わってからにと忠告したら、現実に引き戻すなと怒られた。




 図書室デートのお陰で、今回の数学はそれなりに良い結果で終えることができた。

 将来何の役に立つのかも分からない関数や公式は、これから先も増えるんだよなと思うと、憂鬱な気持ちになる。

「本っ当、関数なんて自分の将来に関係ないし」

 間違っていた問題を解きながら呟いたら、隣の席から荒木が真顔で言ってきた。

「将来必要かどうかじゃないんだよ。今、必要なんだよ」

 テストの結果を出すためにね。と。

 そんな正論、聞きたくねぇ! ってか誰が上手いこと言えと!


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