02
私の住んでいる街では、ちょっとだけ知られた祭りがある。街の歴史と火をテーマにした祭りで、9月の最週末に2日間開催される。
巨大な火起こし装置(木製の、凄い大きな奴)を使って、どのチームが一番速く火を起こせるかを競うイベントがあったり、クラブや学校の楽隊のマーチングが演奏しながら行進したりと、割と雑多で楽しい祭りだ。
小学校の高学年になってからは、友達と一緒に会場を歩き回って、屋台のたこ焼きとかチョコバナナとか食べたり、ぼったくり寸前のくじ引きをやったりして、祭りを満喫している。
去年は志鶴ちゃんと美春ちゃん、早苗ちゃんと4人で、浴衣を着て歩き回ったっけ。
学校の同学年の子達を見かけたり、クラスメートがダブルデートっぽく4人で行動してるのを見かけて、心の中でニヨニヨしてみたり。噂になってる先輩カップルが堂々と手を繋いでるのを見た時には、「おおー爆発しろ!」と呟いたり。
祭りの会場には、市内の中学校美術部が作った大きなランタン灯籠が飾られていて、夕方になると明かりを灯して練り歩く。内側から光るランタンは、昼間見たのとは雰囲気が全然違くって、風情というか情緒というか、見ていると不思議な気持ちが湧き上がってくる。
美春ちゃんと陸斗は美術部だから、夏休みに一生懸命作ってたんだろうなぁ。
「今年は誰とお祭り行くん? 何着ていくん? 浴衣着るん?」
関西のオバちゃん化する母の言葉遣いに突っ込んだら負けなので、そこは無視する。
「優と陸斗と、あーちゃん」
香月優と川島陸斗は、小学校からの友達だ。イケメン少女の優に、ちょっとばかりパリピの入ってる陸斗。
あーちゃんこと
「なかなか珍しい面子じゃね…って、あれか、ゲームか。今時の子どもはSNSでつながるっていうやつか」
「文明の利器万歳」
「夜な夜なグループ通話しやがって。この現代っ子め」
あーちゃんは二つ三つ隣の市内にすんでるから、優と海斗とは、学校とかの直接の繋がりはない。よく遊ぶスマホゲームで、チームを組んだ入りしてるうちに仲良くなった。
「今年は浴衣は着ていかないの? おかーちゃん着付けるで」
「どうしようかなー。あーちゃん浴衣まだ持ってないって言ってたからなぁ」
「かーちゃんの浴衣なら余ってるぞ。何なら弟子の分もあるぞ」
「優には是非着せたいが、あいつは全力で拒否るな」
「えー。似合いそうなのにー」
優はうちの母親を師匠と呼ぶ。理由は謎だが、母の無意識の顔芸が過ぎるからじゃないかと予想してる。なので母は優を弟子と呼んでいる。実の娘を飛び越えて生まれた師弟関係だ。ちょっと訳が分からない。
「冗談は置いといて、あーちゃんママに母の浴衣着させてOKが聞いておくよ」
「よろしくー」
その後、親同士で話が付いたようで、二人で仲良く浴衣を着てお祭りに行くことになった。優にも着せたかったけど、丁重に固辞された。無念。
祭りの当日、朝から母に浴衣を着付けてもらって会場へ向かった。途中で着崩れないようにと、しっかり結ばれた帯のお陰でお腹が若干苦しい。
屋台で焼き鳥や焼きそば、チーズダッカルビを買って、食べながら会場を歩き回った。陸斗が買ったばかりのチーズダッカルビを落として、奇跡的に一回転して地面に着地したのには笑った。中身が無事で良かったと思う。
相変わらずの人の多さで、2~3時間で飽きてきたのでサクッと移動しカラオケへ行った。陸斗を一旦部屋から追い出し、あらかじめ準備していた普段着に着替えると、お腹周りの解放感が半端なかった。しっかり結びすぎだ、母よ。
スマホの某アイドル育成ゲームの歌とか、お気に入りのアニソンを歌い、途中で陸斗と優が踊りだしてあーちゃんの腹筋を強制ライザップさせたりして、たっぷり3時間を過ごした。それでもまだ時間があったので、近くの公園まで足を延ばすことに。
ターザンロープがある公園で、気が付いたら割とはしゃいで遊んでしまっていた。ちょっと前まで、ロープにつかまると足が浮いたのに、油断すると足が地面につくので、スピードに引きずられて大惨事になる。ターザンロープの終点まで勢い良く運ばれて、ガツンと止まると今度は身体が投げ飛ばされそうになって、どのみち大惨事になるのがめちゃめちゃ笑えた。
「やばいこれすぴーどやばい」
「ちょっ、止まんねぇ! 持ってかれる!」
「やめてwww腹筋辛いwwww」
「これこんなに危険な遊具だったっけwwww」
優や陸斗がロープにつかまって流されて飛ばされかけるのを動画に収める。
それをみんなで見てまた笑って。
気が付くと、あたりが暗くなり始めていた。親からも連絡が入ってきたので『これから帰る』と返信を出す。
来年もまた、こんな風にこの日を過ごせたら楽しいなぁと、夕暮れの街を歩きながら思た。
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