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 私の住んでいる街では、ちょっとだけ知られた祭りがある。街の歴史と火をテーマにした祭りで、9月の最週末に2日間開催される。

 巨大な火起こし装置(木製の、凄い大きな奴)を使って、どのチームが一番速く火を起こせるかを競うイベントがあったり、クラブや学校の楽隊のマーチングが演奏しながら行進したりと、割と雑多で楽しい祭りだ。


 小学校の高学年になってからは、友達と一緒に会場を歩き回って、屋台のたこ焼きとかチョコバナナとか食べたり、ぼったくり寸前のくじ引きをやったりして、祭りを満喫している。

 去年は志鶴ちゃんと美春ちゃん、早苗ちゃんと4人で、浴衣を着て歩き回ったっけ。

 学校の同学年の子達を見かけたり、クラスメートがダブルデートっぽく4人で行動してるのを見かけて、心の中でニヨニヨしてみたり。噂になってる先輩カップルが堂々と手を繋いでるのを見た時には、「おおー爆発しろ!」と呟いたり。


 祭りの会場には、市内の中学校美術部が作った大きなランタン灯籠が飾られていて、夕方になると明かりを灯して練り歩く。内側から光るランタンは、昼間見たのとは雰囲気が全然違くって、風情というか情緒というか、見ていると不思議な気持ちが湧き上がってくる。

 美春ちゃんと陸斗は美術部だから、夏休みに一生懸命作ってたんだろうなぁ。



「今年は誰とお祭り行くん? 何着ていくん? 浴衣着るん?」

 関西のオバちゃん化する母の言葉遣いに突っ込んだら負けなので、そこは無視する。

「優と陸斗と、あーちゃん」

 香月優と川島陸斗は、小学校からの友達だ。イケメン少女の優に、ちょっとばかりパリピの入ってる陸斗。

 あーちゃんこと阿須賀あすか天音あまねは、親同士が友達だったのでお互い物心ついた時からの付き合いになる。いわゆる幼馴染ってやつだ。

「なかなか珍しい面子じゃね…って、あれか、ゲームか。今時の子どもはSNSでつながるっていうやつか」

「文明の利器万歳」

「夜な夜なグループ通話しやがって。この現代っ子め」

 あーちゃんは二つ三つ隣の市内にすんでるから、優と海斗とは、学校とかの直接の繋がりはない。よく遊ぶスマホゲームで、チームを組んだ入りしてるうちに仲良くなった。

「今年は浴衣は着ていかないの? おかーちゃん着付けるで」

「どうしようかなー。あーちゃん浴衣まだ持ってないって言ってたからなぁ」

「かーちゃんの浴衣なら余ってるぞ。何なら弟子の分もあるぞ」

「優には是非着せたいが、あいつは全力で拒否るな」

「えー。似合いそうなのにー」

 優はうちの母親を師匠と呼ぶ。理由は謎だが、母の無意識の顔芸が過ぎるからじゃないかと予想してる。なので母は優を弟子と呼んでいる。実の娘を飛び越えて生まれた師弟関係だ。ちょっと訳が分からない。

「冗談は置いといて、あーちゃんママに母の浴衣着させてOKが聞いておくよ」

「よろしくー」

 その後、親同士で話が付いたようで、二人で仲良く浴衣を着てお祭りに行くことになった。優にも着せたかったけど、丁重に固辞された。無念。



 祭りの当日、朝から母に浴衣を着付けてもらって会場へ向かった。途中で着崩れないようにと、しっかり結ばれた帯のお陰でお腹が若干苦しい。

 屋台で焼き鳥や焼きそば、チーズダッカルビを買って、食べながら会場を歩き回った。陸斗が買ったばかりのチーズダッカルビを落として、奇跡的に一回転して地面に着地したのには笑った。中身が無事で良かったと思う。

 相変わらずの人の多さで、2~3時間で飽きてきたのでサクッと移動しカラオケへ行った。陸斗を一旦部屋から追い出し、あらかじめ準備していた普段着に着替えると、お腹周りの解放感が半端なかった。しっかり結びすぎだ、母よ。

 スマホの某アイドル育成ゲームの歌とか、お気に入りのアニソンを歌い、途中で陸斗と優が踊りだしてあーちゃんの腹筋を強制ライザップさせたりして、たっぷり3時間を過ごした。それでもまだ時間があったので、近くの公園まで足を延ばすことに。

 ターザンロープがある公園で、気が付いたら割とはしゃいで遊んでしまっていた。ちょっと前まで、ロープにつかまると足が浮いたのに、油断すると足が地面につくので、スピードに引きずられて大惨事になる。ターザンロープの終点まで勢い良く運ばれて、ガツンと止まると今度は身体が投げ飛ばされそうになって、どのみち大惨事になるのがめちゃめちゃ笑えた。


「やばいこれすぴーどやばい」

「ちょっ、止まんねぇ! 持ってかれる!」

「やめてwww腹筋辛いwwww」

「これこんなに危険な遊具だったっけwwww」


 優や陸斗がロープにつかまって流されて飛ばされかけるのを動画に収める。

 それをみんなで見てまた笑って。



 気が付くと、あたりが暗くなり始めていた。親からも連絡が入ってきたので『これから帰る』と返信を出す。

 来年もまた、こんな風にこの日を過ごせたら楽しいなぁと、夕暮れの街を歩きながら思た。

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