青春ログアウト
はむちゅ
01
髪を切ったのに、特に深い理由はない。ついでに長くしていた理由もない。
美容院が苦手だから、伸ばしていただけだ。
2年近く伸ばした髪は、腰の近くまで伸びていて、髪を洗う度に首が折れるかと思った。
母親譲りの毛量の多さのお陰でただでさえ重たいのに、濡れるとそれが倍になる(気がする)。
「そこまで伸びたら、せっかくだし髪の毛提供しようよ」
唐突に髪を梳かしにかかる母親が、思いついたように言った。
「なんだっけ、ヘアードネーション? せっかく伸びてるし、綺麗だしさ」
ただ切るの勿体ないじゃん! と、意識高いのか低いのか良く分からない発言をして、スマホでヘアードネーションをやってる美容院を検索し、予約を取った。
美容院はオシャレな人が行くイメージがあるし、何を話していいか分からないから、極力避けたい。が、これ以上長く伸ばしたら、自分の首の危機を感じる。
新学期も始まるし、いい機会だと諦めることにした。
肩より少しだけ上の長さを残し、バッサリ切った。
切った髪は40センチを超えるくらいで、少しずつ束にされていた。
割と艶のある焦げ茶色の髪の束は、我ながらなかなか質が良いと思う。
頭が驚くくらい軽くて、自分の髪の量の多さに若干引いた。首筋が涼しくて、何だかふわふわする。
母が「超似あうじゃん! 可愛い!」と、笑顔でサムズアップをしてきた。親バカだ。純度高めの親バカだ。そして言葉のチョイスが貧弱だ。
「髪洗うの、楽になるよー。乾かすのも早くなるしね」
くしゃくしゃと頭を撫でて、母が言った。
「お母さんもドネーションやろうかな。あと半年くらい伸ばせばいけますって、美容師さん言ってたし」
「いいんじゃね? 天然ウェーブかかってるけど」
「お母さんだって、昔は真っすぐストレートだったんだよ! ここ数年だよ! 急にウェーブかかってきたのは! なんでだ!」
「しらんがな」
母の髪は、昔は確かに真っすぐだった。なのに気が付いたら、髪の一部が天然パーマがかかったようになっていて、その事に母自身は気が付いていなかった。私が指摘して初めて気が付いたらしく、「マジで⁉」「マジだ!」「なんでだ!」と憤っていた。
この人は、子どもより子どもっぽいと思う。親だけど。
首筋を風が通る。その感覚が、ちょっとくすぐったくて心地よい。
この長さを維持するには、マメに美容院に行かないといけないらしい。コミュ障には敷居が高い。
悩むけど、まぁその時になったらまた考えて、今はこの軽やかさを堪能しようと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます