第61話 賞を採るのは訳がある


 二〇二二年も下半期に突入した。その前に、この上半期の間に読んだ本を振り返る。

 今年の読書のテーマは、「受賞作」なので、芥川賞や直木賞を中心に、幅広い受賞作品を読んでいった。まずは、その一覧から。


一冊目  石川達三『蒼氓』(第一回芥川賞)

二冊目  西加奈子『サラバ!(上)』(第一五二回直木賞)

三冊目  西加奈子『サラバ!(下)』

四冊目  ヘミングウェイ『老人と海』(一九五三年ピューリッツァー賞/一九五四年ノーベル文学賞)

五冊目  多和田葉子『犬婿入り』(第一〇八回芥川賞)

六冊目  井伏鱒二『さざなみ軍記・ジョン万次郎漂流記』(『ジョン万次郎漂流記』は第六回直木賞)

七冊目  辻村深月『冷たい校舎の時は止まる(上)』(第三一回メフィスト賞)

八冊目  辻村深月『冷たい校舎の時は止まる(中)』

九冊目  辻村深月『冷たい校舎の時は止まる(下)』

十冊目  吉田修一『パーク・ライフ』(第一二七回芥川賞)

十一冊目 向田邦子『思い出トランプ』(「花の名前」「かわうそ」「犬小屋」は第八三回直木賞)

十二冊目 小林泰三『玩具修理者』(第二回日本ホラー小説大賞短編賞)

十三冊目 米澤穂信『黒牢城』(第一六六回直木賞)

十四冊目 村田喜代子『鍋の中』(第九十二回芥川賞)

十五冊目 ソン・ウォンピョン『アーモンド』(第十回チャンビ青少年文学賞/二〇二〇年本屋大賞翻訳小説部門)


 さて、こうして文学賞受賞作を読んでいく際に、偏りがでないようにしたいと決めた。そこで、この賞の本を読んだら、次はこの賞の本にするというルーティーンを定めた。

 まず、直木賞か芥川賞か、作者は男性か女性か、受賞したのは昭和か平成(令和)かを分類して、次に読む本はその分類と被らないようにする。例えば、『蒼氓』は、芥川賞で男性作家で昭和受賞の本なので、次に読むのは、直木賞で女性作家で平成受賞の本の『サラバ!』を選ぶ······という具合である。


 そして、芥川賞と直木賞を読んだ後は、それ以外の文学賞受賞作を一冊読むようにする。今回は、ノーベル文学賞やメフィスト賞などを選んでいるが、同じ賞は出来るだけ被らないようにしたいと思っている。

 このルーティーンは、芥川賞と直木賞が八冊、それ以外の文学賞を四冊読んで、計十二冊で一周する。この上半期で、何とか一周できた。上中下がある本も読んでいるので、全て合わせると十五冊を読んだということになったが。


 このペースだと、一年で二周したとして、二十七冊を読めることになる。しかし、私の一年の小説読破数を見ると、大体三十冊くらいなので、ちょっと物足りない。ここで、もう一周を加えるとして、そうなると三十九冊になってしまう……二周後は、芥川賞と直木賞だけで八冊分を読もうかなとも思っている。

 言い訳をすると、一冊目の『蒼氓』が結構ヘビーで、一か月くらいかけて読んだこと、家族のコロナ感染、そして私自身の罹患で、読書どころじゃなかったという事情もある。下半期は、健康に気を付けて、三十九冊、少なくとも三十四冊を目指して、頑張れ自分! と、無責任に言ってみる。


 ここからが本題なのだが、古今東西の受賞作を読んでいったことで、気付いたことがある。受賞作は、完成度がとんでもなく高いということだ。

 いや、あまりに当たり前のことを言っているのは分かっているのだが、実感したのは初めてだった。文学賞の最終候補に選ばれた時点で、十分傑作であり、そこから一番を決めるのは、もはや審査員の好みになってくるものだと思っていた。だが、実際に読んでみると、頭一つ抜きん出ているというのがよく分かる。


 例えば、第一回の芥川賞は、太宰治を差し置いて、石川達三の『蒼氓』が採ったのだが、ブラジルへ定住する前の日本人の農民たちの心情や時代の政治的背景などを、細やかに描いていて興味深かった。

 他にも、直木賞の向田邦子の『思い出トランプ』は、作者の勝手なイメージで、コミカルホームドラマかなと思っていたのだが、全く真逆の人間の卑怯さが描かれた怖い話が多く、度肝を抜かれた。この読書テーマではなかったら、きっと、読まなかっただろうと思ってしまう。


 他にも、完成度の高いデビュー作の『冷たい校舎の時は止まる』『玩具修理者』『アーモンド』や、「沖合いで老いた漁師が巨大魚と戦う」以上のことが起きないのに、ぐいぐい読ませるノーベル文学賞の『老人と海』など、こりゃあ受賞するわと唸ってしまう作品ばかりだった。

 知らなかった作家の名前でも、有名すぎて食指が動かない作品でも、「賞を採っているのだから間違いはない」と信頼して読む価値があるのだと思った。文学賞に関しては、問題点があったりもするのだが(特に芥川賞は女性受賞者が少ない傾向がある)、次読む本の基準として、一度踊らされるのもありではないかと、そう感じる上半期であった。

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