第53話 短編アニメ作家図鑑 井上涼 編
誠に勝手ながら、好きな短編アニメの作者を紹介するコーナーの第二弾。
今回は、五十音順の「い」で、井上涼さんがテーマ。
井上さんの代表作は、「赤ずきんと健康」である。最後に載せているのは、英語字幕版が本人のYouTubeチャンネルに上がってるものだ。
井上さんが金沢美術工芸大学に在学中に制作したこの「赤ずきんと健康」は、BACA-JA2001映像コンテンツ部門で佳作受賞した。ネット上でも流行し、パロディ作品も多く見受けられた。
「赤ずきんと健康」をはじめとする、井上さんの作品の特徴は、個性的な線で独特な動きをする絵と作詞作曲歌唱が本人による中毒性の高い歌だ。
例えば、社会人が抱く仕事中に帰りたいという気持ちを歌にした「YADOKARI」や、ぷっちょとコラボした「サラ毛ぷっちょ」などが挙げられる。
「短編アニメ作家図鑑」で紹介した青木純さんは、「ギャグセンスがぶっ飛んでいる」と紹介できるが、井上さんは「ユーモアセンスがぶっ飛んでいる」と言える。
「赤ずきんと健康」は、オオカミに食べられた赤ずきんが、主人公だから助かるのだと高らかに歌い、内蔵の精と出会っていきなりダンスをする。「サラ毛ぷっちょ」は、なぜかサラ毛が生えているぷっちょがアイドルを目指しているという、UHA味覚糖とのコラボ作品でも独創性を極めきっている。歌詞のセンスも素晴らしく、「YADOKARI」では、「スピリチュアルな象牙屋」というワードに痺れてしまった。
私は井上さんを知ったのは、たまたまつけていたEテレで、『びじゅチューン!』が流れたのがきっかけだった。世界中の美術作品をモチーフに、井上さんが自由に想像を広げて歌とアニメを作るという、井上さん本人の解説を合わせて五分の番組である。
私が見たのは、モナ・リザがOLのお局だったら? という内容の、「お局のモナ・リザさん」だった。非常に衝撃を受けて、一度見ただけで頭から曲が抜けなくなった。それからネットで調べて、「赤ずきんと健康」を知ったという経緯がある。
2013年にスタートした『びじゅチューン!』は百曲を超えて、今なお新しい曲が放送され続けている。現在は、DVDBOOKやCD化もされていて、ステッカーやキーホルダーなどのグッズも発売されている。
紹介されている美術作品は、斜め上の発想の歌とアニメになる。「なんにでも牛乳を注ぐ女」や「縄文土器先生」は腹筋にダイレクトアタックしてくる。個人的な話だが、縄文土器先生があん馬をするシーンで、私は必ず笑ってしまう。
井上さんの魅力の一つに、映像と音楽のシンクロの気持ち良さがある。それは、自身で曲も作っているからというのもあるのだが、元々あった曲に付けたアニメーションでも、それは遺憾なく発揮されている。
「HATOYA」は、静岡のハトヤホテルで開かれたドラァグクイーンのイベントのPR動画である。「Wanna Be A Tuna」は、PIMOというバンドの曲のミュージックビデオ。落ち込んでいる女の子のために、掌サイズの忍者たちが奮闘するというストーリー。
「Wanna Be A Tuna」は、これまで紹介してきた作品とちょっと趣向が違って見える。しかし、例えば『びじゅチューン!』でも、「保健室に太陽の塔」や「納涼シアター」など、心にしみわたる感動的な作品もある。
井上さんは、とても優しい目線を持っている。井上さん自身が会社勤めをしていた経験があるので、その時の心境が反映されている、プロジェクションマッピングを用いたアニメ「マチルダ先輩」や、奈良市から依頼で、ダイバーシティをテーマに作られた「バラバラルルル」は、アニメも歌も、じんわり温かい気持ちにさせてくれる。
井上さんは、ゲイであることを公表している。ちなみに、女装して人前にに出ることもあるが、それはあくまでパフォーマンスの一環である(実写ドラマ形式の「SFの魔女」シリーズも素晴らしいのでぜひ)
井上さんは、「やる気あり美」という、LGBT関連のクリエイティブグループに所属している。そこでの活動の一環として、自身やメンバーの体験談をもとに作った曲とアニメが「確信」である→https://www.youtube.com/watch?v=lVtWwMIjtCI
芸であることを隠している男子高校生の前に、ある朝、神様が現れて言った。「クラスに君と同じゲイがいます 誰だか当てられたら付き合えるよ」と。肌を一撫でしたら真実が現れるという羽を神様から渡されたその男子高校生は、一体誰がゲイなのだろうと思いながらも、試してみる相手を決めた。
この歌を聞くと、いつも泣きそうになってしまう。特に、ラストのシーンは様々な感情がぐわっとせりあがってくる。同性愛や異性愛とか関係なく、人を愛することの尊さを、真正面から訴えてくる、その優しさにやられてしまうのだ。
人の心の中にある、しんどさや痛みやモヤモヤに、そっと寄り添うような井上さんの作品が、すごく魅力的だ。もちろん、とことんシュールで、何も考えずにゲラゲラ笑える作品も大好きだが。
一度は丸と抜け出せない作家は数あれど、元気が無い時こそ見たくなる作家、と言われると、私が真っ先に思い付くのが、井上涼さんなのであった。
・紹介作品URL
「赤ずきんと健康」→https://www.youtube.com/watch?v=4bOBMJVFGpU&t=18s
「YADOKARI」→https://www.youtube.com/watch?v=pihhu5Mv0p0
「サラ毛ぷっちょ」→https://www.youtube.com/watch?v=8d1CfKeDstY&t=22s
「お局のモナ・リザさん」→https://www.youtube.com/watch?v=j_9EcGdaV6w
「なんにでも牛乳を注ぐ女」→https://www.youtube.com/watch?v=pia0iJLqzmA
「縄文土器先生」→https://www.youtube.com/watch?v=eNEGYBym3n4
「HATOYA」→https://www.youtube.com/watch?v=dxKgrkiWHUs
「Wanna Be A Tuna」→https://www.youtube.com/watch?v=K6PM8FGy8Gs
「保健室に太陽の塔」や→https://www.youtube.com/watch?v=YdjzqE4QjjA&t=2s
「納涼シアター」→https://www.youtube.com/watch?v=5PrxG1RELg0&t=2s
「マチルダ先輩」→https://www.youtube.com/watch?v=5GYAow5DOdU&t=30s
「バラバラルルル」→https://www.youtube.com/watch?v=Tnjxpa8I6ZY
「SFの魔女」→https://www.youtube.com/watch?v=JIVGy-KA4YU
「確信」→https://www.youtube.com/watch?v=lVtWwMIjtCI
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