第16話 椿に毛虫
父が植木市で椿の苗木を二つ買ってきたのは、去年の十月ぐらいのことだったと思う。
それは、庭に対する目隠しとして、私がいつも使っている駐車場の、車のすぐ後ろに植えられた。
私は椿に向かって、バックで車を止めていたので、今日も葉っぱが青々と茂っているなあとしか思っていなかった。
父も、特に世話をすることは無くて、水かけをしている様子は無かった。栄養の少ない地面だったが、雨などを吸って、椿は生きていた。
そのまま月日は流れて、一月の中旬辺り、車を止めた時にサイドミラーを見てはっとした。
二本ある内の左側の木に、椿の真っ赤な花が一輪咲いていた。
私は車から降りて、早速椿の花を見ようと近寄った。
そして今度は、ぎょっとした。
咲き誇っている椿の花の中心部、黄色いおしべとめしべの中に、毛虫が群がっていた。それも、三匹。
私は、虫が平気なのだが、椿の花びらをむしゃむしゃしている毛虫が憎らしくて、その辺に落ちている棒を持って、毛虫を全部取っ払って、遠くに投げ捨てた。
ひとまず安心したのだが、しかし、まだ油断できない。
椿には丸い蕾がいくつもついていたのだが、その中の一つに噛り付いている毛虫を発見した。その毛虫も、葉っぱを食べている毛虫も、見つけ次第すべて排除した。
それから、家に帰ってきた後に、車から降りたら椿を見て、毛虫を取っ払うのが私の日課になっていた。
嬉しいことに椿は元気で次々と花を咲かせてくれた。しかし、それらすべてに毛虫が付いているのだ。花弁や蕾だけではなく、ガクにもついているから油断できない。
しかも、毛虫一匹一匹の大きさがまちまちだ。この毛虫の成虫が、ほぼ毎日この椿に卵を産んで、それがどんどん生まれてしまっているのだろう。
冬なのに! なんでこんなに元気なんだ! と思いながら、私は毛虫と戦い続けている。
そのうち、椿の花は、ぽとりとガクから花を落としていった。最初に落ちた花を見た時は、毛虫が茎を齧って落としてしまったのかと、驚いたものだった。
毛虫は、食べれば何でもいいのか、地面に落ちて茶色に腐っていく花にも群がっていた。
さて、もう一本の方の椿だが、そちらには花が咲く兆候を全く見せない。蕾らしきふくらみがあるのだが、それ以前に葉が黄色っぽくて、不健康そうな印象だ。
こちらの方には、毛虫が一匹も寄っていないので、むしろ余計に心配になってしまう。
最近、人の家の庭で、塀を超えるくらいに成長して、真っ赤な花を咲かせている椿の木を見つけた。
我が家にあるどちらの木も、あれくらい大きくなってほしいなと思う。その為に、私はきっと明日も毛虫を取り除くのだろう。
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