第9話 タイトルフェチはかく語りき


 四月から、「同題異話」というタイトル統一の自主企画をしているため、私には自分がタイトル大好き人間だという自負がある。

 小説でも、映画でも、音楽でも、アニメでも本当になんでも、真っ先に気になってしまうのがタイトルだ。個人的に、作品の中核をタイトルに求めている。


 そんなタイトルフェチが己の欲望をぶちまけて始めた「同題異話」も、参加者と閲覧者のお陰様で九回目となり、一日から今年最後の同題異話がスタートした。

 ここはもう、語るしかない。何をと問われれば、タイトルについての情熱だと、曇り無き眼で答える。


 だがしかしもしも誰かに、「好きなタイトルは?」と尋ねらると、私は何時間も何日も悩みに悩んで、結局結論は出せずに終わるだろう。

 そもそも、どんなタイトルが好きかというのは、日によって異なってくるような気もするし、私がまだ出会っていないタイトルもまだまだこの世にあるのも分かっている。


 ただ、そんなぼんやりとした状態では、「同題異話」を始められないので、タイトルの法則について考えてみた。




 まず、「文章型」タイトル。

 同題異話では、四月号の「春はまだ青いか」がそうだった。


 『吾輩が猫である』が、文章型で日本一有名だと思う。

 夏目漱石は元々『猫伝』というタイトルにしようしていたらしい。

 『猫伝』と比べると、『吾輩は猫である』は、猫なのに吾輩という一人称で、なんだか尊大な態度の猫がやすやすと想像できる良いタイトルに思える。描かれた当時の空気も感じる。


 時代性と言えば、『桐島、部活辞めるってよ』も素敵だ。

 十代同士の雑談の中に、ぽんと投げ込まれた一言のように感じる。

 もちろん、桐島が何者で、何の部活をしていたかを知らない読者にも、見ただけで「なんで?」と疑問を抱かせることが出来る。


 海外文学で言えば、『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』が最高だ。もう、この字面を暗唱するだけで、脳がびりびりと痺れる。

 「アンドロイド」と架空の生物「電気羊」の並びが、未来的なのに、不思議なノスタルジーを抱かせる。

 疑問文でクエスチョンマークがついているのも、この答えに迫っていく物語なんだろうなという予想ができる。


 このように、印象的なタイトルは、分かりやすいのにとっかかりがある。

 あまり見かけない文字の組み合わせ、情報の足りなさ、知らない単語、それらが、「つまりどういうこと?」と読者に本を取らせて、ページをめくらせるのだろう。


 ただ、説明しすぎるとおなか一杯になってしまう。

 ビジネス書は、結論をズバッと書いてしまっているので、「あー、そう」という気持ち以外が沸き上がって来ない。個人的な話だが。


 いわゆる、転生ものの長い長いタイトルも、それを読んだだけで「もういいです」と言いたくなってしまって、余り好みではないのだ。

 ただ、文書型のタイトルはハマるととてもかっこいいのに、外すと途端に白けさせるので、無難にまとめてしまいたいという気持ちも分かってしまうのだが。




 次に、「登場人物名型」のタイトル。

 これが一番多いのかもしれない。漫画でも、「ドラえもん」とか「サザエさん」とか有名なものがあり、小説でも「ハリー・ポッター」シリーズや「シャーロック・ホームズ」シリーズなどが挙げられる。


 この人が主人公、または物語の中心ですよ、と最初で示してしまうから、非常に入りやすい。

 人物名と別の単語を組み合わせることも出来るので、バリエーションもまた多い。


 また、変化球もつけやすい。

 『鋼の錬金術師』は、主人公の異名だが、これだけでインパクト大だ。

 「鋼? 錬金術師?」と思わせた時点で勝ちである。




 最後に、「単語型」のタイトル。

 これが実は一番難しいのではないかと、個人的には思っている。


 何千文字もかけて描かれた物語を、たったひとつの単語にまとめてしまうなんて、勇気が必要なことだと思う。

 小説を書いたことのある人なら共感してもらえると思えるが、「〇〇と〇〇」や「〇〇の〇〇」というようなタイトルにしてしまう方が、圧倒的に楽なのだ。


 タイトルで、こう来たかー! と思わせられたのは、『火花』だった。

 由来は最初、主人公のコンビ名「スパークス」からだとは思うのだが、読んだ後にはこれだけではないと、確信する。いろんな要素を絡めた上での「火花」なんだと、納得できる。


 音楽では、ポルノグラフィティが、単語タイトル界では最強ではないかと思っている。

 「メリッサ」という曲内で、メリッサという単語は一言しか出てこないのに、これ以上のタイトルは思いつかないくらいにハマっている。

 「アゲハ蝶」「ジョバイロ」「アニマロッサ」などなど、この曲を表すのはこの単語だけだという自信が、タイトルから満ち溢れている。


 一言だけでバーンと決まってしまう単語型のタイトルには、非常に憧れているのだが、その分考えるのが大変だろうなと思う。

 あと、イメージが広がり過ぎるので、同題異話には使えなかった。




 とまあ、色々書いてみたが、まだまだ書き足りない。

 『そして誰もいなくなった』や『あるいは牡蠣でいっぱいの海』など、接続詞から始まるタイトルの話とか、『夜は短し歩けよ乙女』などのパロディ型のタイトルの話とか、『風と共に去りぬ』や『ベニスに死す』などの古語の翻訳タイトルの話とか、タイトルについて語りたいことは山ほどある。


 それはまた別の機会に取っておくとして、今回はここで閉じさせていただこう。




 最後の最後に、自主企画「同題異話・十二月号」が開催中です。

 今回のタイトルは「星流夜」、読み方は自由です。


 どんなストーリーでもタイトルが同じだったから構ませんので、どうぞ、この三文字から想像を膨らませてほしいです。

 もちろん、閲覧のみでもお待ちしているので、気になった方はこちらから覗いてください。

 →https://kakuyomu.jp/user_events/1177354054887675905#enteredWorks


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る