二章 夢と現
七年前。
それが〈
心とともに、記憶も喰われたからだ。
絶望の
あるいは感情を失くしたことに
希望もなければ、絶望もまたもたないのが彼ら――〈
「……」
報告書の作成を終えた〈
やがて〈
こうしている時間だけが、ゆいいつ彼を彼たらしめた。
心を黒く塗りつぶされた〈
模糊として
快活な少女の声だった。
それが彼を眠りに
『誰も――を信じなくても、あたしが必ず信じてあげる』
『だって――は、あたしのヒーローだから!』
ヒーロー。
そんな陳腐な言葉が、何故か
漆黒の心に、
どこからか忘れてしまった心を引きずりだされるような
今更、人に
それでも彼女の声や言葉を思い出すたび、人間らしい安らぎを覚えた。
作業じみた眠りより、心地好い
ピピピッ。
しかしその瞬間、彼の夢は破られた。通信端末の
『こちら〈
聞こえてきたのは女のものだったが、記憶の少女とは似ても似つかない
「こちら〈
『出撃だ』
訊ねる間もなく、要件は告げられた。彼女も〈
「ポイントは?」
『
「被害状況は?」
『現在、〈
〈
〈
〈
「だが、学校は人口密度が高い。〈
『すでに〈
「
『
この短時間のうちに〈
無論、迅速な行動の裏に、人心救助の大義はない。彼らはあくまで組織から下された
――
現場は
グラウンドに
ヘッドギアで目許を隠し、プロテクターで防護をかためた男たちは、見るからに
にもかかわらず、勇気ある教師の幾人かは、男たちに説明を求めていた。そこに容赦ない暴力がかえることはないものの「危険ですので、指示があるまで待機してください」の一点張りで、納得のいく答えもまた返ってくることはなかった。
一方、生徒たちはスラックスやスカートが汚れると
「なになに?」、「コワーい」、「なんかヤバくね?」
不安を表する言葉とは
そんなグラウンドの様子を一瞥した〈
「どういうことだ?」
開口一番、彼はたずねた。
女は〈
「……解らん。報告した通りだ。突然、〈
そう言うと女は、煙草をふかく吸いこんだ。顔をしかめ煙を吐けば、中で
「索敵は?」
「
「逃げられたのか?」
訊ねると〈
「そうとも言えるな。だが、足が追い付かなかったというわけではない。
〈
「被害状況に変化は?」
「調査中だが、今のところ〈
「……」
〈
本案件をどう取り扱うかは、〈
万が一の事態を考慮し、二人はその場に留まった。
携帯灰皿に煙草をつっこんだ〈
そして、
「ゲハッ……! ゴホ、ゴホッ!」
「
〈
〈
「ゴホッ……。仕方がない。これが私の役割だ。それよりも一つ
胸を
〈
「〈
〈
〈
しかしそれは裏を返せば、取得可能な情報が触覚的なものに限られることを意味する。あらかじめ高濃度の
「それらが〈
「なるほどな……」
彼女が妙だと言った理由は明白だった。
〈
〈
「〈
「ああ、だが一度は反応が
「ああ」
なんとも不可解な事件だった。
〈
「局長には?」
「報告済みだ」
「……」
しかし沈黙の直前に発せられたのは、やはり事務的な確認に
狩人は職分を侵さず、組織の判断を待った。
「はーい、みんな静かに」
命令は間もなく〈
彼は大人のあとに付き従いながら、とある室内に足を踏み入れた。
そこに待ち受けていたのは、一様に座した三十名ばかりの少年少女――。
「もう知ってる奴もいるかもしれんが、今日から彼がお前らと苦楽を共にすることになる。転入生のぉ……ん、自己紹介たのむ」
ここまで〈
「えっと、
そして、改めて生徒たちを見渡す。
その中に、事前に記憶した三つの顔があるのを認めた。
〈
クラスメイトとして校内に潜入し、彼女らの動向を監視する――それが〈
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