十四章 決戦
薫が粒子を
それとほぼ同時だった。
「なに、なにこれ、あ、あぁ、きゃああああぁぁあああぁ!」
周囲の人々も異変に気付いた。うつむいて震え、
「うわあああああぁぁぁあああああぁぁぁッ!」
恐怖は次々と
「
しかし
「九条さん、九条さん!」
〈
すると茜音が、ハッと我に返るのが分かった。今、初めて光をみた赤子のように
「九条さん、逃げて」
〈
「あっちへ逃げるんだ」
「あ、あ……」
「逃げてくれ」
「なが、永田くんは……」
〈
「俺は、大丈夫だから」
「え、そんな――」
「行けぇ!」
引き止める声には耳を
人波をかき分け、
「……」
〈
覆った粒子が形を
フルフェイスメット。カーボンファイバースーツ。ロングコート。
黒ずくめの死神。
人波は早くもとぎれ始めた。
「ゲェェェエエエエェギャアアアアァァァッ!」
そして、まだ疎らに押し寄せる人々の頭上。
三本の触手がすがたを現す。
鉤、錐、槌型の
さらに広場には血だまりや
その数、五体。
「馬鹿な……〈
『そのようだな』
〈
たちまち視界を紫煙の霧が
なるほど。これが〈
〈
これまで奴らを取り逃してきたのは、奴らが索敵を妨害する能力を有していたからではなかった。単に自我をもっていただけなのだ。索敵網から逃れることさえできれば、あとは人間の姿に戻ってしまえばいい。そうすれば、再び網にかかったとしても〈
「いや、今はそれよりも……」
逃げ惑う群衆を尻目に、〈
黒き狩人と化した少年は、
彼女とともに
無論、それで奴の怒りがおさまるはずはなかった。
槌の触手が
振りかぶられた鉤は〈
「……!」
狩人は横跳びで躱す。
同時にホルスターから警棒を抜き
瞬時に、大鎌を真横にふり抜く。
しかし触手は力強く
たちどころに錐型の追撃。
鎌の側面で打って
その隙を
『……させん』
異形の
「ガアッック……!」
眷属が柱にかじりつく。意思なき獣は、それを破壊しようと遮二無二くびを
「ガガガアアアァッ!」
〈
魔物は苛立ちに
多量に、それも連続に柱を
『……ハァ』
通信の向こう、早くも〈
〈
「雑魚はいい。俺一人で
『しかし、相手は五体だ……』
「なんとかする。〈
『
雑魚を
敵は牙をもって応戦。
牙と刃がかち合い火花を
「……!」
〈
その背後、三体の犬が粒子のよだれを散らして
〈
「ガアアアァァアアック……!」
そこへ襲いかかる無数の爪牙に、〈
獣たちの背後に影は
転移した〈
「……ちっ」
ふり抜けず側転!
次の瞬間、〈
〈
眷属たちが反転する。隙をうかがい虚空の喉を鳴らす。
仕切り直しだ。
さっさと雑魚を始末するつもりでいたが。さすがに、そう上手く事は運んでくれないらしい。
三匹の一挙手一投足に注視しながら、慎重にすり足で間合いを計る。
その時、メットに
『こちら〈
と同時、黒い残像が斜め上空から一直線に
犬の背に
しかし致命傷ではない。
犬の体毛が嘲笑うように揺らいだ。
それを目の当たりにしながら〈
「グガアアァ……ァ!」
当然こうなる。
これが〈
「シャアッグッ!」
〈
「……加勢する」
そこへ頭部を
肩で切り
〈
「……」
そして今、四つの影が切り
〈
一方、〈
二体の犬は真横に弾き飛ばされた。
影と影が交錯し、〈
二人は蹴りの反動で回転し、それぞれの
死神の鎌と蟷螂の鎌が、〈
獣の
〈
同じく残心する〈
「連絡は行き
「〈
「増援は?」
「今のところ連絡はない。本ポイント内の〈
「
つまり、現地の〈
二体?
〈
最後の生き残りはどこだ。
辺りを眺めまわすも、〈
索敵に特化したのは、今回の
「しまった……!」
〈
〈
「ゲェェェッギィ!」
そこに
狂気を恐れるように
〈
その時、槌の触手が振るわれた。
カッと火花が散り、虚空に衝撃波が爆ぜる。虚しい銃声が轟く。
〈
異形の足型が刻まれる!
「あああぁあああぁぁああぁああッ!」
「たす、助けてええぇえええぇぇえ!」
同時に
〈
すると遠方に、
やはり、餌を連れてきたか……!
〈
一方、〈
「〈
『不可能だ。動きが
彼女はすぐさま通信チャンネルを切り
「こちら〈
『……』
しかし最後の〈
「おい〈
『……』
再度呼びかけるも反応はない。
その間に、〈
「ゲラガァ!」
超重量の突進。
むろん、受ける手立てなどない。
〈
待ち
彼女は斜めに跳ぶ。空中で身をひねり、追い立てる鉤を
弧をえがいた足が、波打つ触手を
そこへ襲いかかる錐。
もう一方の鎌が、側面から触手を叩き
〈
触手はそれを嫌って
姿勢を崩した〈
ゆえに彼女は、その刃を
「……っ!」
ところが、触手は
背後から迫る鉤。
万事休すか。
否。
この
しぶいた血の
そしてすぼめた口が血を吐けば、それはたちまち黒の輪郭に
鎌の双腕をもち、
粒子に
主の背後へ立ちはだかった蟷螂は、迫る鉤を上から叩き落とした。
間もなく〈
「ゲエエエエェエエエェエッ!」
憤激の咆哮。
鼓膜へ牙を突き立てられるような
しかし〈
敵の背に飛び移り、触手の根元へと馳せ、双腕を振りあげた!
一方、その数瞬前。
〈
タイルの地面を、犬の爪が削ったときだった。
一見すれば眷属が不利。
人を二人も
ところが、いざ
「……っ」
刃を引いたのは〈
犬は頭を
〈
無論、
彼の
空に
「ギャアアァッグ……ッ!」
鎌は狙い
犬は姿勢を崩し、
〈
しかし眷属の肩越し。
鏖殺の女王が、眷属の死もいとわず、真っ直ぐに突っ込んでくる!
「……なっ」
いや、違う。
巨躯の
三方に触手を伸長すると、
「ゲラァッ!」
跳んだ。
鉤でジェットコースターのレール支柱を
「……っ!」
〈
触手がそれぞれに
直後、〈
〈
刹那、吹き荒れる破壊の波!
タイルが砕け、めくれ上がり、
「……!」
〈
しかし――、
「ガハッ……!」
〈
彼女はすんでのところで蟷螂へとび移っていたが
衝撃の波にさらされた身体は、瓦礫の刃に裂かれていた。至るところから血が流れ、幾度も打ちつけられた臓腑の傷も
〈
倒れた眷属に刺さった鎌を抜き、首を
「戦えるか?」
適当な柵へもたせかけてやりながら尋ねる。
「……とても私自身は動けそうにない。だが、戦える。血があるかぎりは」
もくもくと
奴はすでに体勢復帰を終えたか?
しかし、どこからか飛来する黒い
「ゲエェエエエッギ……ッ!」
まだ満足には動けないらしい。
視界さえ
〈
〈
だが皮肉にも、〈
〈
それが意味するところは――。
「グゥック……!」
二人が奴の
今、粉塵の
〈
彼女は、口許に垂れた血の糸を舌で
「……悪夢を見せてやる」
それを吐くと、血を核に粒子が
その時、号砲は鳴らされた。
新たな弾道が虚空を
しかしその一撃は、槌の触手に弾きとばされた。
粉塵がゆがめば、ぬっと
〈
その時、〈
『こちら〈
まだ荒いものの残った声で、〈
『
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