間章 〈死神〉に関してⅢ
「やあ、
社交辞令ではない。
本心だった。
しょせん、エゴイズムに
東吾は一人でも多くの〈
彼らを人ならざる存在だと認めたくはない。
目の前で変貌した兄を、今も人間なのだと
兄さん……。
べつに特別な人ではなかった。目立つ人ではなかった。どこにでもいる普通のサラリーマンだった。子どもの頃も、とりたてて胸の温かくなるようなエピソードはなく、むしろ、ケンカばかりしていた。いつも東吾が
そんな兄だったから。
それなのに。
目の前で化け物となり。
目の前で〈
悲しくて胸が
つまらない思い出が次々と。
プツプツと
居てもいなくても同じだ。そう思った自分が
兄とともに
しばらくは、どこにも居場所がなかった。
兄と会うことはできず、彼の戦いを止める術ももたなかった。
誰にも悩みを打ち
定期健診の結果から〈
だが、ようやく苦しい日々は終わった。この場所に腰を据えることができ、兄との再会も
すべての苦しみを絶てたわけではないけれど。
分析官の立場から兄の
その上で、
「……」
「任務は順調かい?」
東吾は
すると〈
「……解りません」
東吾は、その反応をいまさら意外には思わなかった。彼はもう感情を学習し始めている。理解には
「例の三人について
「そのうちの一人、でしょうか」
「なるほど。それは任務における悩みかい?」
「解りません……」
「そうかぁ」
これは少し意外な反応だった。
悩みがあるのを認めたのは、進歩であっても不思議ではない。あるいは、
一例目も感情と名前を
だが〈
東吾は胸の奥が
やはり、彼らは眠っているだけなのだ。人として必要なものは、ちゃんと持っている。
「相賀くんが、その子について悩むなら、思い切って話をしてみるといいよ」
「……話」
「大丈夫。身構えなくていい。なぜ話す必要があるかとか、何を話すべきかとか、
「理解できません。言葉は
「それもある。考えを
〈
「相賀くんは、近頃、色々と感じ始めているね。それが不可解で、時には気分が
ますます眉根のしわが深まる。鋭い眼差しは、いっそ殺意を向けられているように
しかし〈
「今日はこのくらいにしておくかい?」
「ええ、夜は短いので」
「はは、そうだね」
思わず笑いがこぼれてしまった。
〈
「夜は短い、か……」
確かにそうかもしれない。
二度と
気付けば
〈
その光を導くために、今、自分はここにいるのではないだろうか?
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