九章 屍肉喰らい
「
『不確実な情報は
「……」
〈
いかに感情の
彼は
メットの熱線暗視機能により紫に
その正面に、〈
ここは立体駐車場五階だ。
飛行能力をもつ〈
ここは
〈
だからこそ〈
「照合結果はまだか?」
『急いでいる。しかしターゲットの能力を把握できない以上、
その間にも壁の向こうでは、粘ついた殺気がざわめいていた。
「くぅ……!」
次の瞬間、駐車場全体が
大木を割ったような
障壁が破壊されたか。
〈
長くはもつまい。
〈
「……はぁ!」
そして、彼の得意とする形状は翼だ。
たたれた腕の断面。粒子が
この命ある限り、全身が
「〈
〈
「仕かけるつもりか?」
「このままでは、こちらがやられる。もう長くはもたんだろう?」
「うむ」
「タイミングは
「……
返答がかえるや、〈
「ヌッ……!」
外は天空。地をはるか
〈
それが二度、三度と
そして自らが月にでもならんとするが
駐車場へ向きなおった
視線の先、まったき漆黒の
〈
壁が
この一瞬間。奴は
〈
加速する。
加速し、加速し、加速する――!
一撃で
防止柵衝突の寸前。
〈
柵は紙切れのごとく
その時、
〈
「ヌアッ!」
衝撃波とともに粒子が散った。
眼前に闇が吹きつけた。
刃の腕が空間を十字に
「グガアアアアアアァアアアッゴ!」
粒子を固定した肩へ反動。肉にめり込み血をしぶく。
手応えありだ。
〈
床を転がり向き直る。
視線の先には。
黒き異形がたたらを踏むのが判った。
「……やったぞ」
〈
彼は
「……」
その胸に、
そこに返答は
『待て、戦闘態勢を、いや、犬? すぐに、救援ッ、あが、ああぁぁあああぁッ!』
おぞましい
耳にした瞬間、全身が
そして見た。
視線の先、犬の霧散した場所に。
「あれは、俺の……」
腕が落ちているのを。
「なッ、こいついつの間に。ぐあッ、ぎぃ、ぎゃあああぁぁあああッ!」
たて続けに背後から
漆黒の異形が。
巨大な
『……』
それが
〈
その背から生じた、鉤、錐、槌型の触手――
〈
「ガアァック!」
〈
〈
「……っ」
悠然と振り返るターゲットの
粒子を
――
『ターゲットはおそらく〈
「〈
〈
闇をふみ、光を
平凡な少年の
しかし黒き人影が次の街灯の明かりを受けたとき、粒子の闇は
暗視フルフェイスメット。カーボンファイバースーツ。漆黒のロングコート。
コードネームに
『七年前に誕生した〈
「特徴は?」
『鉤、錐、槌型の
「
『奴は自らが死をもたらしたものに命を与える。
「……」
〈
また非常に
ゆえに〈
「それにしても七年。今までなにをやってたのか」
皮肉にも同い年だ。
『さあな。欲求に
「……」
〈
〈
聞いたのだ。
背後でドルドルと重い
振り返れば、刃のような
赤い
『乗れ』
並走は一瞬だった。
〈
そして漆黒のモーターサイクルが、住宅街をおおきく抜き去り、国道へカーブしたとき、彼はまるで最初からそこに乗り合わせていたかのように
モーターサイクルは急加速する。
左右の景色は
そして見えてくるのは。
〈
〈
それはほどなく明かされた。立体駐車場五階から、頭部を撃ち抜いた弾丸のように、影が飛び出したからだった。
すぐに〈
充分だ。
倍率を通常に戻す。
その間にもモーターサイクルは、法定速度をゆうに
しかし正面の信号は赤だ。
今まさに、交差点へ進入するトラックの姿がある。
ブレーキは間に合わない。仮に間に合ったところで、車上から投げ出されるのは
ところが〈
「……」
〈
気が
無論、否だ。
モーターサイクルの直線上。
そこに
粒子によって
死の綱渡りじみたジャンプ台が。
次の瞬間、
大きく放物線をえがき、トラックの頭上を
まだ油断はならない。
〈
間もなく
首の抜けるような衝撃が二人を
〈
しかしスラロームのごとく
僅かな
その時、警棒の先端。弧をえがく粒子あり。
〈
たちまちおびただしい火花が、
その反動をうけて、〈
今やそこに駐車された車はまばらだ。
モールの内部はほとんど光が失われ、シャッターが下り、平面駐車場に
狩人たちは暗視機能をオンに切り
「俺はそろそろ行く。準備ができ次第
『
ごく簡単な連絡をおえ、〈
とたんに足許から突き上げる衝撃。
巨大なモールが揺れる。戦場はこの下か。
〈
〈
〈
獣どもを
すると、三本足の
すでにこの
三本足が振りかえる。
〈
前肢が振りかぶられる。
しかし敵の肉体には、明確な
接触の直前、欠けた前肢へと踏みこめば。
〈
それが地から突きたつ罠となる。
すべての足は地面から離れている。もはや、その
「ギラァ、ァ……!」
〈
間もなく全身が粒子に爆ぜる。べちゃりと肉塊の落ちる音。
休む暇はなし。
〈
一方、〈
どちらが〈
一方が
だが、なにより
あれが〈
この七年、狩人に
そして、今ここで
今、〈
〈
肩に担いだ
「……ッ!」
投げた。
刃は黒き月と化し、ビョウと空を裂いて〈
しかし周囲にはすでに目が満ちている。
〈
錐の
しもべを守るように弧をえがき、
鎌は
ところが〈
「ゲェリャアアオッ!」
奇怪な
槌型の触手が振り下ろされ、巨大な前肢が夜を削りとる。
逃げ場を与えぬ十字の構えだ。
〈
〈
「ギャアッゴォ!」
直後、〈
ところが
黒き肉は霧散。全体を見通す目が、頭上に命を感知したとき、すでに弾き飛ばしたはずの鎌が頭上から弧をうち飛来していた。
〈
すると、その軌道上に〈
彼の背後では、〈
今度こそ鳥の肉を
「……!」
その時、〈
咄嗟に、刃の腕を
腕からぬらりと光が伝った。鎌に反射し一閃した。
真横にふり抜かれた月色が、
「グラァオォォォッ!」
と同時に、〈
〈
そこに三本の尾が迫った。
周囲を紫の
煙が〈
それがたちまち万の黒き糸を編み、漆黒の支柱を
阻まれる
〈
さらに〈
防止柵をフックが噛み、影がくるりと宙を舞った。闇色のグローブで柵を破壊した闖入者が戦場の地を踏んだ。
一方、背中には
砕いたはずの肉体を霧散させ、頭上に出現したあの気配が、背中へとび移っていた。
「……」
三本の
ステップを踏み、上体を
だが、これでいい。
こちらへ注意を引くことで、〈
カツンと、地を打ち〈
〈
しかしその数瞬前、〈
〈
爪の間を
「ギョアアアアァッス!」
〈
〈
しかし足場となった〈
能力で鎌を呼び戻せば傷は与えられる。触手を断てるやもしれない。
だがタイムラグを生ずる能力の特性上、己が身を守る
勝機と見るのは
「グヌアァ……」
結果として、その判断は正しかった。
苦しみに悶えようと、〈
その
距離をとった〈
その圧倒的な質量は、夜気を穿ち猛進する!
〈
しかし不安定な足場、迫りくる柵に、勝機が
彼の身体は錐の触手に貫かれて
煙が渦をまき、出現した柱が〈
漆黒の巨躯は足を止めない。
人の
「ジャアアァアアアアッス!」
抵抗なく柱を破壊せしめた。
勢いそのままに柵もうち破り、衝撃で天井の一部が
間もなく〈
その黒すぎるほどに黒い輪郭が、
〈
しかし地に吸いこまれた〈
悪夢じみた逃亡を裏付けるように、〈
『〈
〈
その後〈
が以降〈
無論、戦場に散った
二度と動きだすことなく、夜だけが更けていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます