魔王軍特別部隊破壊活動防止班
いぐあな
File.1 呪いの人形
1. 小さな魔女
これは私がある人達に聞いたお話。
この世界は水の中に浮かぶ沢山の泡の玉みたいなものなんだって。 多次元世界とか専門の言葉では難しいことをいうようだけど、その泡の中には一つ一つ世界があって、 私達の世界もそんな泡の一つなの。
そしてこの沢山の泡の世界の中には他の世界を支える『要の三界』という三つの大切な世界があるんだ。
『創造』の天界、『再生』の冥界、そして『破壊』の魔界。
その魔界は創造神と呼ばれる大神から『破壊』の役割を与えられた世界。もう修復不可能とされた世界を壊し、綺麗さっぱり無にして、新しい世界を造る 前のお掃除をする役目の世界ってわけ。
ビルの解体なんか思い浮かべて貰えれば解りやすいかな? 古いビルを解体して、廃材を片付けて、新しいビルを建てる為の更地に戻す、そんな役割を持ってるの。
でもね、どんな世界にも悪い人っているのよね。
魔界もそう、魔族って言うのは、『破壊』の為の大きな力を持っているだけに力に溺れやすいの。だから、魔界でも高位の貴族クラスの悪い人達は時々他の『要の三界』、天界や冥界に行って悪いことをしたり、力を得ようとしたりするんだって。
最も、同じ『要の三界』の者同士、天界人と冥界人と魔族の力は拮抗しているから、皆ほとんど捕まって 『三界不干渉の掟』という『要の三界』で悪い事をしてはいけませんって規則で、その世界の神や王の奴隷や下僕にされてしまうんだけどね。
でも、もっと困るのは力は弱いけど意地悪な魔族のイタズラ。
魔族の持つ破壊欲望を満たす為に、自分達より弱い力しか持たない世界に入り込み、わざと悪い事をして『破壊』への針を早めたり、手っ取り早くそこに住む人を破滅させたり……。
そんな悪い魔族達を捕まえ、まだ存続しなければならない世界を身勝手な『破壊』から 守る為、昔々の魔王様がある組織を造ったんだって。
それが魔王軍特別部隊破壊活動防止班。通称、
彼等は各界を守る為の選ばれし戦士……だったりするんだけど……。
「あった」
夕方の学校の中庭、郷土資料室と理科準備室に挟まれた一角の大きな木の根元を掘っていたショートヘアの可愛らしい顔立ちの少女は地面に埋められた茶色の染みのついた白いハンカチの包みを見つけ出した。
「うちの学校にもあったんだ……」
残念そうな声が人気の無い中庭に響く。アイボリー色の鉄筋コンクリートの校舎の向こうからは、 運動部の掛け声やブラスバンド部の楽器の練習音が聞こえ、 三階の音楽室の窓からは合唱部の歌声が夕焼け空に流れる。
そんな、当り前の中学校の放課後の時間、一心不乱に学校一古い木の下で何かを埋めた跡を掘り返していた
スコップを草の上に置き、大きく息を吸い込んで微かに震える指でハンカチの硬く結ばれた結び目に爪を立て力を込めて外す。 聞かされていたとおりのモノがそこには横たわっていた。
「ううっ、気持ち悪い……」
慌ててハンカチの隅を持ち、もう一度固く結ぶ。
「ってことは、やっぱりこれ……」
茶色の染みに触れた指をブンブンと振り、優香は近くの学生カバンの横のサブバッグのファスナーを 開けた。大き目のポーチを取り出し、そのファスナーも開ける。 白い封筒を取り出し、中から丁寧に畳まれた一枚の紙を引き出し、地面に広げた。 それは半径三十センチ程の複雑な魔法陣が描かれた五十センチ四方の白い紙だ。
そっとハンカチの包みを指先で摘まんで持ち上げると紙に書かれた魔法陣の真ん中に置く。紙をカサコソと折ってそれを包む。ポーチから今度は赤いビニールテープを出すと重なる紙を止めて封をした。
「『封印』」
一番上のテープに指を当て、小さく力ある言葉を呟く。テープはジュッと音を立てて溶け、赤い染みのようなものが紙の端を廻り、しっかりと閉じられる。
「ふう……」
気味の悪さを振り払うように優香はわざと音を立てて息を吐いた。サブバッグに紙包みと、封筒とテープを戻したポーチを入れるとほっと息をつく。今度はバッグのポケットから授業中は先生に預けているスマホを出す。履歴を開き、番号を呼び出す。
「
夕闇が漂い始めた中庭に少女の声が響く。
「例のモノ、うちの学校の木の下にもありました。和也さんや
優香の視線が空を彷徨う。
「はい、今のところ気配は無いです。今朝、今日中には帰ってくるって連絡がありましたから、帰ったら話をします。それで用がありましたら、そのときはよろしくお願いします」
ピッと通話を切り、スコップを中庭の隅の園芸委員会の用具籠に戻すと優香は学生カバンとおそるおそる膨らんだサブバックに手を伸ばし持った。ざっと周りを見回し、足早に中庭を出る。
少女の長い影が夕日の当たる校舎を横切る。それは校庭を通り、校門を出ると夕焼けの街へと消えていった。
首都圏に近い街、
夕日が山の端に沈もうとしている刻限。赤い太陽の光が遠くにそびえ立つ大きなマンションの角を掠め、洋風の住宅街をオレンジ色に染めている。判子で押したような三件の建売住宅の前では小学生らしい子供達が遊んでいた。
足元の道路が大きく黒い影に覆われ、目の前に高い板塀を持つ古風な日本家屋が現れる。築五十年、板塀は雨風に黒く染まり、それがまた独特の味わいをかもし出し、 大きく育った庭木の枝葉が顔を覗かせている。きちんと手入れされた木々の様はここに人が住んでいることを 物語っているが、あまりに周りの住宅とそぐわない為、近所の子供達に『オバケ屋敷』と呼ばれて久しい。最も、ある意味それは間違いではないのだが。
優香は黒い塀に向かうと塀に付けられた小さな木戸を押した。木戸は朝、閉めて行ったのに空いている。手ごたえの無さに、この屋敷に間借りしている住人達が帰ってきているのを感じ、顔がほころぶ。
……一ヶ月ぶりだぁ~。
木戸を開けて中に入る。そんな少女の後ろ姿を見止めた帰宅中の小学生が顔色を変えて駆け出す。だぶん数日後には様々なオカルト的な噂を持つ屋敷にまた一つ『家に入り込んだ女子中学生が 行方不明になった』という噂が増えるだろう。
チョキチョキチョキ……夕闇が忍び寄る庭に鋏の音が響いている。軽い足取りでそちらに向かうと、その足音と優香の持つ力を感じ取ったのか緑の葉の茂った梅の木の枝の間からのっそりとした顔が覗いた。
「優ちゃん、お帰り~」
「シオンもお帰り~」
優香が顔一杯に笑みを浮かべて走り寄る。
「ごめんね。予定より一週間も遅れちゃって」
シオンと呼ばれたモノがゆらゆらと赤い長い触角を振って謝る。くりくりと丸い赤紫色の目玉が動いた。
「強い相手だったの?」
優香の心配そうな声にふるふると頭頂から出ている四本の短い触覚が動く。
「ううん。犯人を炙り出すのに時間が掛かっただけ。あんな奴、ボクの敵じゃないよ」
「シオンの、じゃなくてモウンとアッシュの、でしょ」
いたずらっぽい笑みを浮かべた優香のからかうような声に「優ちゃんには負けるな~」とシオンは 大きなハサミについたイボで頭をポリポリと掻いた。
そう、さっきから人語を話している軽い少年の声の持ち主は巨大なザリガニである。ザリガニ……そのものだ。派手なロゴ入りTシャツと膝下までロールアップしたカーゴパンツを履いているが、どこをどうみてもザリガニである。シャツは袖の下に穴が開き、そこから細い四本の指のついた腕が、ズボンの足からは赤い足が出ている。パンツのお尻にも丁寧に穴が開いて、扇のようなヒレのついた尾が飛び出ていた。
レッドグローブの兵士、シオン。
この家に間借りしている異形の者達、魔王軍特別部隊破壊活動防止班、通称、破防班の捜査官である。といっても、この班では新人で、他の破防班の中でも桁違いの強さを持つ兵士が三人もいる中では最も格下。足元に梅の実の入ったバケツが置いてあるように、家では庭仕事担当兼、他の先輩の下っ走りである。
ポンポンと手合わせ遊びの要領で巨大なハサミの下に生えた細い手とじゃれていると、ふわりと夕方の風に乗って、柔らかな醤油の匂いが優香の鼻に届く。
「わ~い!! 今日はアッシュの御飯だぁ~!!」
明るい声を上げて少女が夕闇が漂う庭の小道を玄関へと駆けていく。 シオンの笑みを含んだ赤紫の瞳が後ろ姿を見送った。
「アッシュ~!! 今日の御飯、何~!?」
いつも自分が家にいるときは帰ってくるなり、夕飯のおかずを聞きに来る少女に台所に立っていた黄色いエプロン姿の青年が微笑んだ。
「今日はかきたま汁と肉じゃが、たっぷり野菜と蒸し鳥の香味ソースにかぼちゃのサラダ」
穏やかな青年の返事に優香が飛び跳ねる。
「やったね!! 今日はアッシュの出来たて御飯が食べれる~!!」
「そうやって、喜んでくれるから、いつも腕のふるいがいがあるよ」
アッシュ……白いシャツにジーンズ姿のトカゲ男は赤金色の瞳で優しく喜ぶ少女を眺めた。
サラマンドラの兵士、アッシュ。この破防班の副長を務めている。見た目は背中からお腹にかけて赤からオレンジのグラデーションの掛かった肌の直立したトカゲ人間だ。 シオン同様ジーンズの尻からは赤いしなやかな尻尾が飛び出ている。 班長に次いで、数多の破防班の中でも桁違いの力を持っている兵士らしいが、普段の彼は穏やかな笑みを絶やさない好青年、優香にとっては優しいお兄ちゃんといった存在だった。
家では料理と家計を担当。安い食材を使いこなし、何かと出費の多い中、優香と班員合わせて六人分の腹を満たしてくれる。
「留守中の作り置きも全部食べてくれたし」
「だって、美味しいんだもん」
少女の答えに嬉しそうに口元をほころばせる。
「じゃあ、味見して貰おうかな」
ひょいと鍋の蓋を開けて、白い湯気の中から菜箸で小皿にジャガイモを取り出す。 薄く醤油色に染まったそれと小さなフォークを目の前に出されて、優香は嬉々とした笑顔で 受け取った。
「どうかな? お味は」
フォークで切ったジャガイモの欠片に息を吹いて口に運ぶ。
「おいひい~」
醤油と味醂にタマネギの甘味と出汁と肉汁の旨みが加わった芋は絶品だ。幸せそうな笑顔にアッシュが微笑む。
「もう少し待ってね。すぐに晩御飯にするから」
「は~い」
テーブルの上に並ぶ鉢や六人分の茶碗や御椀を眺めて優香はもう一口ジャガイモを口に入れた。
「あら? 良いわね、優香。アッシュ、私にも味見させてよ」
ハスキーな女性の声と共にぺたぺたと裸足の足音が台所に入ってくる。ふんわりとした黒髪を後ろで無造作に纏めた、小麦色の肌の若い美女が暖簾を潜って現れた。 シンプルなブラウスとハーフパンツ、淡いピンクのエプロンをつけているが それ越しでさえスーパーモデルさえ格の差に溜息しか出ないようなプロポーション。大きく濡れたようなダークレッドの瞳、すんなりと通った鼻筋と 艶やかなふっくらとした唇、容貌も難一つ見当たらない。 一見人間のように見えるが形の良い尻には西洋画の悪魔のような黒い尻尾がついていた。
別名、淫魔とも呼ばれるサキュバスの術士エルゼ。破防班の捜査官で鑑識官も兼ねている妖女だ。
サキュバスは男を堕落させる妖艶な女魔と言われているが、大股で台所に入ってくるエルゼはそんな媚びるような妖しい色香は微塵とも感じさせない。キビキビとした動作はむしろ清々しさすら漂わせる。
「優香、洗濯機の前にあったバッグの中の服を勝手に洗ったけど、良かった?」
「あっ……ありがとう、エルゼ姉さん。手間掛けてごめん」
「良いのよ、皆のモノを洗うついでだったし」
「昨日、太田さんのところへ泊まって、今朝帰ってすぐに学校に行ったから片付けられなかったんだ」
「良いの、良いの」
動作同様サッパリとした性格のエルゼは家の掃除や洗濯を担当している。いつもシオンを使い回して働いている、優香にとっては面倒見の良いお姉さん的存在だ。
「はい、エルゼ」
「ありがとう、アッシュ」
優香同様ジャガイモの乗った小皿を渡され、感謝の視線と共にエルゼが微笑む。
アッシュに向けられる視線はさっきのまでのあっさりとしたものとは違い微かに甘い。だが、それはテレビや本屋のアダルトコーナーで見かけるような男の視線を意識したものではなく、柔らかな女性の愛らしさが漂うものだった。
……良いな~。
最後のジャガイモの欠片を口の中に放り込みながら優香はうらやましい思いでそれを眺めた。 アッシュとエルゼは恋人同士、いつも優しいアッシュとそんな彼に一途なエルゼは優香の理想のカップルだ。
「あっ、そうだ、優香。班長が出張後行われた中間テストの結果見せろって」
ジャガイモを美味しそうに口に運びながらエルゼが告げる。
「……モウンが……?」
優香の顔がビクリと強張る。
「……もしかして、点数良くなかった?」
声を潜めたエルゼの問いに重々しく頷く。
「……どうしょう……」
泣きそうな声を出す少女にエルゼが困ったように整った眉を顰めた。
「……見せる以外ないわね。今なら側に
「優香ちゃん、御飯前に嫌なことは済ませてしまったほうがいいよ。後で頃合を見て止めに入るから」
「……うん……」
優香が学生カバンとサブバックを台所の床に置いて、とぼとぼと自分の部屋に向かう。
豪雷警報発令。数分後の破防班の鬼の班長の落雷を予知して、その小さな後ろ姿を二人が気の毒そうに見送った。
「バッカモォ~ン!!」
サザエさんの波平顔負けの怒鳴り声が古い日本家屋にビリビリと響き渡る。
「まあまあ、班長、落ち着いて」
年季重ねた穏やかな顔の亀魔人の術士、
だが、それ吹き飛ばす勢いで、荒い鼻息を吐いた黒い牡牛頭のがっちりとした筋肉質の男が目の前の座卓に広げられた五教科のテストの点数を睨んだ。
「この点数はいったい何だ!!」
丸よりバツが圧倒的に多い赤点スレスレのテストの答案用紙を前に優香がひたすら身を縮込ませる。
「二年生早々のテストがこれか!?」
太い指がテスト用紙を叩く。
ミノタウロスのモウン。この破防班の班長にして、他の班にも名を轟かす豪腕の持ち主。その強さ故に何故、彼が退役間近の兵士や新兵の多い、魔王軍でも窓際軍と呼ばれる破防班にいるのか首を傾げる者も多い。最も優香にとっては口うるさい父親代わりだが。
「さては俺達がいないのをいいことにテスト期間中に遊びに行っていただろう」
「……う~」
事実を当てられて思わず唸る。
「行っていたんだな」
ギロリと赤い瞳で睨まれて、「はい」と素直に答える。
「バッカモォ~ン!!」
もう一度、空気が鳴るような雷が落ちた。
身を打つような大声に救いを求めてモウンの隣の玄庵を見ると、彼は文字通り首を竦めている。窓を見ると覗いていたシオンがさっと頭を引っ込める。 涙目で優香は膝の上の手を握り締めた。
鬼と呼ばれる班長の落雷を制止出来るのは、この班……いや、数多の破防班の中でも一人しかいない。
「いいか、俺は
いつものように一年前に死んだ祖母の名前を出してモウンのお説教が始まる。これが始まると一時間では終わらない。 気付かれないよう足を組み直し、聞こえないよう深い息を吐き出したとき、救いの神……魔族だが……がやってきた。
「班長、落ち着いて下さいよ」
アッシュがお盆にお茶を乗せて座敷に入る。座卓の上にモウンの大振りの湯呑と玄庵のお気に入りの萩焼きの湯呑、優香の可愛い花柄の湯呑を並べると、そのまま盆を持って座り、並んだテストの点数を見て小さく苦笑した。
「確かにこの点数はひどいですけど、優香ちゃんの気持ちも考えてあげて下さい。 中学生の女の子が一人ぼっちでこんな大きな家で一ヶ月も留守番していたんですよ。 一人で勉強していろというのは酷ではありませんか?」
「しかし……」
穏やかな副長の声にモウンが唸る。
「つい、寂しくてお友達のところに行ってしまったんだね」
優しい声と眼差しに少女が小さくコクリと頷く。
「テスト勉強をサボったのはいけませんが、今回は側にオレ達がいなかったという理由もあるんですから大目にみて下さいませんか?」
モウンが大きく鼻を鳴らす。アッシュは座卓の上のテストを集めると優香に向き直った。
「優香ちゃん、後で宿題が終わったらオレとこのテストの直しをしよう。それを見て今度は教科書の間違えたのと同じ問題を勉強する。そして今度の一ヶ月後の定期テストにちゃんと備える。それでどうですか? 班長」
アッシュの提案に優香が顔を上げて、うんうんと力一杯首を縦に振る。モウンが大きく息を吐いた。
「……良いだろう。とってしまったものは仕方が無い。次にとらないように勉強するのならな」
はぁ~と玄庵が安堵の息をついて湯呑を取り上げる。シオンが窓から四本の第一触覚を動かして 『良かったね』のサインを送る。優香がアッシュを感謝の目で見た。 アッシュがそんな彼女に優しく微笑んだ後、真面目な顔になる。
「優香ちゃん、今、エルゼがサブバックの中にあった優香ちゃんが封印した包みを調べているんだけど、あれが例の奴かい?」
「あっ!!」
優香が顔色を変える。
「ごめんなさい!! 学校で見つけたんだけど皆が帰ってきてるのが嬉しくて、忘れちゃった……」
学業以外のもう一つの仕事、魔女の仕事もヘマをして優香が頭を下げる。そんな彼女を 「忘れたいくらい気味が悪いモノだからね」と労うとアッシュは玄庵に目を向けた。
「玄さん、エルゼが鑑識を手伝って欲しいそうです」
「ほい、解かった」
玄庵が腰を上げて、背中の甲羅を揺さぶりつつ部屋を出て行く。
「例の奴というと和也や太田の話していた奴か?」
モウンの声にアッシュと優香が同時に頷く。
「俺もちょっと見てみよう。優香、後で……食事の後で詳しい話を頼む」
モウンが立ち上がる。アッシュが優香にテスト用紙を返した。
「もうすぐ御飯だから、それまで宿題をしておいで。シオン、夕飯の仕度を手伝ってくれ」
「あっ、はい!」
シオンがアタフタと玄関に回る。
窓の外では夕日の光が闇を帯びて庭を赤黒く染めている。 その様にサブバッグの中身を思い出して優香はぶるりと身震いすると自分の部屋へと向かった。
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