主人公の橘は、楽しくなくても笑顔を作ってクラスメイトと仲良しの振りをしている女子高生。
本心ではどうでもいいと思っていて、どうでもよさすぎて話しているクラスメイトの名前さえ覚えていません。
覚えていない、というのは少し正確ではないかもしれません。
名前を言うべき場面では、ちゃんと名前を言えます。
だけど思い出そうとすると思い出せないのです。
そのような具合なので、橘さんの表の顔と本心との離れっぷりに読者はハラハラさせられます。
友達を作ろうとしない橘さんですが、喫煙を見つかったことをきっかけに、原田さんというクラスメイトとは友達のような関係になります。
そして橘さんと原田さんは、夜、もう使われていない旧校舎で二人の時間を過ごします。
その二人のやり取りがなんと美しいことでしょう。
魅了されて、この幸せな時間がもっと続いてほしいと感じます。
しかし心の平和らしきものは長く続かず、橘さんに嵐が訪れます。
先述の危うさがある橘さんがどうなってしまうのかとすごく心を揺さぶられます。
青春時代の繊細さにハラハラドキドキできる素敵な小説です。