7話
一方でテール街でローレンスについて調べ物をしていたイヴリンも空を眺めてお手上げの状態だった。というのもローレンス一家についてはこのあたりの知ってる限りの商人や情報屋に問い詰めても同じことの繰り返し。
少しだけ北に行った場所にあるパーリア地方のお嬢様で、奥方は旦那の死去後はすっかり外には出なくなっているため詳しくはわからない。それ以上にその地方に行くことがないのでその話も又聞きなくらい疎遠な話でわからないと。どうやらその土地に行った商人はこの街ではいないらしく皆が首をかしげるのだ。
このままではあれだけアルフレッドに大見得きったにも下変わらずなにも持たずに帰って笑いもしないあの女に冷たい視線を投げかけられることになるだろう。いや一番あり得るのは同情の目だろうがそれは一番屈辱である。そのまま青い空を眺めてベンチで座っていると一人の翼の生えた魔物が駆けていった。
あれは郵便屋だ。そうだ郵便屋なら商人とコネをもっているかもしれない、あわよくば本人がなにかしらわずかでも情報を持っているかもしれない。
思い浮かんだが吉日とばかりベンチから飛び上がってその影を追いかける。なかなか地上に降り立たないその郵便屋に辟易しながらも体力の限り街を駆け抜ける。たったひとりの郵便局員を追いかけてだ。
えらく体力があって翼の頑丈な郵便局員だったらしく路地裏のほうに降りていくのが見えるまで数十分はかかった。建物に手をついて息を切らしながら合流したそこには見覚えのある顔もいた。
「イヴリンじゃないか、また会うなんてね。」
昨日自分を散々振り回した張本人のご登場、レインだった。追いかけ続けた郵便局員は彼の前に立ってこちらを振り返ってぽかんとしている。その後自分を追いかけてきたのだと気付いてなるほどを手をうった。その直後何回か首を傾げていた。そりゃあそうだ、彼とイヴリンは面識などはない。
「おやチコを追いかけてきたのか?」
「だろうけど知り合いじゃない、よね?」
チコというらしいその郵便局員は確認するように言ってきたので二回ほど頷いておいた。そういえばアルフレッドが知り合った郵便局員は…あああれは『ハヤブサ』だと言っていたか。じゃあ別の配達員だろう。息を整えるとイヴリンは片手で熱を逃がすように自らを仰いだ。
「ああ。突然すまない。郵便局の人なら知ってるんじゃないかと思ってな。レインさんもいるなら丁度いい。パーリア地方、もしくはエミリア・ローレンスという少女を知らないか?」
彼ら二人は顔を見合わせた。そして仲介をしていたレインはゆっくりと首を横に振った。彼の話すところによるとローレンス一家が住処にしていたパーリア地方は一度商売に行ってみたことはあるものの関所で追い返されたらしい。数ヶ月前から街で騒ぎが起きており沈静化するまでは商売人の立ち入りを禁ずるということだったそうだ。ということはとチコのほうをみるとなにかひっかかりのあるような表情をしている。
「パーリアなら最近行ったんだけどなあ…ほら、俺らって1日にいくつもの国を行き来するわけだからさ。うーん。」
「そうか。なら仕方ないな…他をあたるよ。」
「あーあー!ちょっと待ってって!その顔ってどう考えても重要ですって感じでしょ!今頑張って思い出すからさ!」
両手を双方のこめかみにあてて必死に思い出すような体勢をとる。彼の友人なのかはわからないがレインもまた不思議そうにしていた。この話題は昨日は喋っていないしそれなのにこれだけ急を要するように走ってきたのだから。街に行ったということは彼はなにかこれ以上知っていることはないだろうか。
「ローレンス家の娘がマモノ、…吸血鬼とかいう話はないのか?」
「嘘がつけない人だな君は。吸血鬼なんだなその娘は。」
勘のよさそうなこの旅商人には蛇足であり墓穴を掘った結果になった。だけれど同時に彼は情報がどれだけの影響力を与えるかわかっている。はにかんだ後このことを内密にしてくれる旨を誓ってくれた。
「吸血鬼かはわからないけれどなんらかのマモノであるという噂はあったようだったな。下調べに来訪経験のある商人仲間に聞いたらあの家には近づいてはならないという忠告は受けた。でも誰も顔も見たことがないくらい外に出ないご一家だったようだからね。ご息女についても存じ上げない。」
「そうか。やっぱり彼女については誰もわからないのか。」
「なぜローレンス家…ひいてはご息女について調べてるんだ?」
「ああ。なんか原因不明の怪異に襲われてて困ってると本人から相談を受けていてな。どうにか解決してやりたいんだが。」
ふと大きな声を隣にいたチコがあげた。思わず驚いて肩を震わせていると、彼は口をおさえて青ざめた顔でイヴリンのほうを見た。まるで信じられないものでもみるような顔で。
「えっ、それまじで本人に会ったの…?イヴリンさんとやら…?」
「ああ今宿屋で眠ってるはずだぞ。昨日俺らとレインさんが会った宿屋。」
レインが気づいたようにぴくっと反応するとすぐに表情を険しくさせた。そして苦笑いしたチコが何回か頷いた。どうやらジョークじゃないか確認したようだがイヴリンがそういうことを言う人間に見えなかったのかもう一度青ざめた。
「思い出しちゃった…手紙の内容…多分俺あれハヤブサが近くに配達あったからついでにって頼んでさ…。」
「またお前サボったのか。」
「サボってないサボってない!あれは効率化だからノーカンだってひどい言い草だなあ!……というか、あれ届けるだけ無駄っていうか………」
言葉を濁したチコは“その手紙”の概要を話し出した。
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