後編

マリアとあおいゆうしゃが家族になって数年がたちました。

青年だったあおいゆうしゃはすっかりおじさんになってしまい

いまのたのしみは村のこどもに絵本をよんであげることです。

マリアはそんなゆうしゃとなかよく暮らしていました。

そのとしはおおきな収穫のおまつりがある年でした。

みなが手と手をとりあいおどったり、おいしい出店もあります。

そんなおまつりのいっしゅうかんほどまえのことです。

おそらが黒く曇りはじめたのです。

わらわらとあつまった雲はどんどんくっついていきます。

このおめでたいときにいったいどうしたというのでしょう。


するとどうでしょう。

村人が次々とたおれ始めてくるしそうに息をあげます。

まるでのろいにでもかかったかのように。


村人はあおいゆうしゃにふたたびお願いしました。

こころよくひきうけたあおいゆうしゃとマリアが歩き出します。

こんなふしぎなことをできるのはマモノだけのようにおもえました。

きょうは満月の夜。

きんぱつのマモノが山のたべものをとどけてくれる日です。

かのじょならなにかしっているかもしれない。


結界のまえについたふたりはおどろきました。

きんぱつのマモノがたおれていたのです。

結界をはさんだむこうがわで目をとじていまにもこときれそうです。

かたい結界に手をついてふたりはひっしによびかけました。

きんぱつのマモノがくるしそうに目をさまします。

かのじょはいいます。


「まもなくこのせかいに災厄がおとずれます。

 わたしにはどうにもできなかった。」

「どうしたんだ。災厄とはなんだ。」

「あなたにたくします。ゆうしゃ。」


結界を間に挟んできんぱつのマモノとゆうしゃの手がふれあいます。

するといままでへだてていた結界がはじけ、なくなりました。

マリアがきんぱつのマモノをだきかかえます。

もうすでにちからがほとんどありません。


「すうじつまえ、このもりにひとりのくろい翼のマモノがやってきました。

 こどものマモノがつれかえったようでした。

 かれのことをマモノはみんなしりませんでしたが、

 いまになっておもうとあの時追い出してしまえばよかったのだと。」


マモノはつづけます。


かれがきて数日後、つまりきょうに異変はおきた。

きんぱつのマモノがいつもいるふるいお城へもどるとそこには誰もいなくて、

かわりにかのじょのしんぞうに一発の槍がとんできたのだと。

そこにいたのはあの黒い翼のマモノでした。

そしてかれのうしろにはたくさんのマモノがいました。

黒い翼のマモノはその赤い瞳をぎらぎらさせておかしそうにわらっていたのです。

きんぱつのマモノはおもいだしました。

かれのほんとうの正体を。

いそいで槍をひきぬくとそのばからにげだして、

あおいゆうしゃにすべてをたくすためにここまではしってきたというのです。


「あれは、ふうじられた『邪神』です。」


その邪神とは、いまからまた大昔にふういんされたものでした。

うまれおちたその時からかれのこころはぼうりょくにみちていたのです。

どのマモノよりもひときわつよい魔力、たたかうちから。

彼のこころはただひとつ…にんげんをみなくるしめることだけ。

そのことをしり、にんげんとの平和をのぞんでいたきんぱつのマモノのお爺さんが『邪神』がまだよわい幼いころに森の奥の教会に封印しました。


「なにもしらないこどものマモノを誘惑し、だっしゅつをはかったのでしょう。

 わたしが…もっとはやくおもいだしていれば。」


きんぱつのマモノはさいごのちからをふりしぼって、すがりつきます。


「いまやマモノはすべてあの『邪神』とこころをおなじくしています。

 すべてのにんげんを殺そうとしているでしょう。

 もともとわたしたちマモノはにんげんとたいりつするものだ。

 わたしのようなもののほうが珍しい。

 せめてあの『邪神』だけはどうにかしてほしい。

 このままでは世界をこわそうとするでしょうから。」


あおいゆうしゃが手を強くにぎるときんぱつのマモノはすこしだけほほえんで


「マリアをおねがい、します。」


ちりとなってきえていきました。

マリアはおおきなこえでわんわんとなきました。

そしてしばらくしてなきやむと、あおいゆうしゃのさしだした手をとって

森の奥へとはしっていきます。

めざすは森をぬけたところにあるふるいお城。

とちゅうふたりにたくさんのマモノがおそってきました。

ふたりはたたかいます。

たたかって、たたかって、ぴかぴかの剣はだんだんとくろくそまります。

それはマモノたちののろいでした。

そしてお城につくころもはやその剣は黒色になっていました。

ふたりのからだもぼろぼろです。

お城にいた『邪神』はそれをみてけたけたとわらいました。

黒い翼、赤い瞳…まちがいありませんでした。

とてもぶきみなその姿に身震いしながらもふたりはたたかいます。

ですがそのちからとてもひよわなもの。

すぐに『邪神』の魔法でうごけなくなってしまいました。

もうあとはふたりは死をまつだけでした。

しかしふたりのうしろからたくさんの声がしました。

いきのこっていた村人がみんなでやってきていたのです。


ふたりをたすけるために。


みんながこえをかけます。


「がんばれ!」

「まけるな!」

「ゆうしゃさまならそんなマモノすぐたおせるよ!」

「ゆうしゃさま!」

「みんなでちからをあわせるんだ!」


そのこえにあわせてふしぎなことがおこりました。

剣についていたくろいのろいがするすると落ちて剣がぴかぴかと、かがやきをとりもどしつつあったのです。

ゆうしゃはちからをふりしぼって『邪神』の魔法をふりはらいます。

とつぜんのことでおどろいていた『邪神』のちからはよわまっていました。

ふらふらになりながらも立ち上がったあおいゆうしゃを、

おなじくふらふらなマリアがその手をささえて剣をふりかざします。

お城の外には雨がたくさん降り注ぎ、雷をひびかせました。

すると『邪神』は頭をかかえてぐおおおとくるしみはじめました。

そう、雨と雷こそが彼の弱点だったのです。

ゆうしゃがおおごえをあげながら『邪神』に斬りかかります。

よわった『邪神』をマリアが魔法で攻撃すると、

ぐらりと体勢をくずしお城のステンドグラスを割り外へおちていきます。

マリアとゆうしゃが手をつなぎ天に祈ると、

お城のそとに大きな穴がぽっかりと大口をひらきました。

それが邪神をのみこんで少しするとおおきなおとをたててとじました。

きっとあの穴はきんぱつのマモノがさいごにちからを貸してくれた、

そうふたりにはおもえました。

なぜならそれからおうちでしばらくつかれて眠っていたふたりの夢に

きんぱつのマモノが現れてこう言ったのです。


「あの穴は地の底につながっています。

 誰もはいあがれないようなふかいふかい場所です。

 もう二度と『邪神』は地上でわるいことをしないでしょう。」


ふたりが目を覚まして、村へと出て行くとお祭りがはじまっていました。

『邪神』ののろいでくるしんでいた村人も元気になりました。

むらの長がたからかにいいます。

きょうからこのお祭りは『あおいゆうしゃとそのおよめさんを祀るお祭り』だ。

あなたがたのことはこれからもずっとたたえられる、

そしてみんなをその勇気あるこころがまもっているだろう。


これが『リリィフェスティバル』の始まりのゆえんなのです。

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