第116話 引きこもり美少女とお家デート③
まっこと難しきはデートにおける押し引きである。
あーんからの『
「もーっ、
ネコのように丸めた手が俺の胸を連打&連打。
うん、これ、ぽかぽかされるのが胸じゃなくて背中だったらちょうどいいな。いい感じにコリがほぐれそうだ。
が、もちろんこんな状況で『よいせっ』と背を向けることなんて出来ようはずもなく、俺は顔いっぱいに戸惑いを浮かべて口を開く。
「い、嫌だったのか……?」
「嫌とは言ってなーい! アリかナシかで言えばむしろアリーっ!」
え、アリなのか。良かった! キザ過ぎたのかと思ってヒヤヒヤしたぜ!
ひとしきりぽかって気が済んだのか、「まったくもう」と一息ついて、唯花は体育座りに戻る。
テーブルのティーカップに手を伸ばして、紅茶を一口。
ややジト目気味の瞳がこっちを見る。
「……今みたいなセリフ、あたし以外の女の子に言ったらダメなんだからね?」
「言うわけがあるまいて」
即答しつつ、内心、『おおう……』と胸が高鳴ってしまった。
ちょっと釘を刺す的なセリフが可愛い。
中学の制服を着てるからか、グッとくる感が三割増しだ。
ちなみに体育座り中、唯花は常に足の下に手をまわして、スカートのなかが見えないようにしている。
パジャマの時にはない仕草なので、すごく新鮮だ。どうしてもちょいちょい意識してしまう。
「奏太、視線がやらしい」
「――っ!? ソンナコト、ナイヨ?」
思わずロボのような口調になってしまった。
唯花の視線が完全なジト目になる。
「どうだか。健全なお
「ボッシュート!? しかも地下帝国!? 行き着く先が厳し過ぎないか!? 俺のスーパーそうた君人形を奪わないでくれぇ……っ」
「であれば慎重に誠実に解答を続けるのです。最終問題のラストミステリーでスーパーそうた君人形を役立てるために」
「分かった! 俺、頑張るよ。唯柳てつこさん……っ!」
俺は拳を握って熱く決意する。
うん、具体的に何をすればいいかはさっぱり分からないけどな。
でもとにかく熱く決意したのだ。
…………。
…………。
…………。
で、会話が止まりました。
ひと段落して、また何を話せばいいのか分からなくなってしまいました。
再び訪れた無言の時間に俺と唯花は『しまったーっ』という顔になる。
なんでこう、ちょこちょこ会話が止まってしまうんだ。
普段は何も考えずに延々喋ってるのに、意識するとこうも途端に上手くいかなくなるものか。
ええい、何か話題はないか。
この際、デートっぽくなくてもいい。この沈黙を破るような話題は……っ。
俺はまた猛然と頭を回転させ始める。
さっきはこれで
だが構わん、こうなったら
とにかく何か話のネタを――っ。
と、スーパーそうた君ばりの気合いで頭を大回転させていると、唯花が先に口を開いた。
ベッドの上へ置いてあった、自分のスマホへ視線を向けて。
「そうだ。試しに伊織にちょっとメッセージ送ってみようかな……」
「なん、だと……!?」
唯花も話題を探して伊織に行き着いたのだろう。
だとしても……少し心配になるような話だった。
俺はスーパーそうた君から通常の奏太に戻り、唯花へ向き直る。
「大丈夫なのか? 止めはしないが……体調崩したりしないか?」
「んー……たぶん平気だと思う。伊織とは顔見て話したし、スマホのやり取りなら奏太とやって慣れてきたし」
ただの思いつきだったのだろうが、本当に『ちょっとやってみよう』という気持ちになったらしい。唯花は体育座りしていた床から立ち上がり、ベッドに座ってスマホを持つ。
俺も立ち上がって、その隣に座った。
「しんどくなったらすぐに言えよ」
「んみゅ」
唯花は頷き、スマホのメッセージアプリを操作し始めた。
その様子をハラハラしながら横で見つめる。
……まあ、実際のところ、こないだの夜と違って、今回は最初から俺がいる。だからとくに心配はいらない。俺がいれば、唯花の心は乱れない。
「あ、ちょっと奏太、画面見ちゃだめ。乙女の秘密なのです」
思った通り、こんな軽口が言えるくらいには平常運転だ。
……いやすまん、この軽口はむしろ思ってた以上の平常運転だな。ぜんぜん大丈夫そうだ。
「別にいいではないか。伊織へのメッセージだろ? 見たって減るもんじゃないし」
「その発言、デリカシーナシ男子への入口じゃぞ?」
デリカシーナシ男子。
なんだそれ。怖すぎるぞ。女子から絶対言われたくない異名だ。
仕方なく、俺は明後日の方向を向いて頭をかく。
程なくして隣から「よしっ」と嬉しそうな声が聞こえてきた。
「送れたっ。緊張せずにちゃんと伊織に送れたよ!」
「おー」
偉いぞ、といつもの調子で褒めようと思った。
だが直後に俺のスマホから怒涛の勢いで通知音が響いてきた。
ピコン! ピコン! ピコン! ピコン! ピコン!
「うわ、なんだ?」
驚いて腰を浮かせる。
ガラステーブルに置いてあったスマホを手に取ると、葵からのメッセージだった。
しかも連投である。
「『奏太兄ちゃんさん!』」
「『今、伊織くんが奏太兄ちゃんさんの写真を見て、大号泣し始めたんですけど!?』」
「『なんなんですか、この事態!?』」
「『ワケが分からないんですけど!?』」
「『だって奏太兄ちゃんさんの写真、女装メイドさん姿だし!!!』」
「はあっ!?」
俺の女装メイド写真。
それは確かに存在する。
文化祭の悪ノリで女装させられる羽目になり、クラスのやつが撮った写真がメッセージアプリのグループに残っていたのだ。
その写真を以前、俺は谷間写真と引き換えに唯花へ献上したことがあった。
ぐりんっとベッドの方を向く。
「おっまえ! 伊織に俺の女装写真送ったのかーっ!?」
「おー、奏太、耳が早い。もしかして葵ちゃんから?」
「そうだよ! 伊織が謎の大号泣してるって連絡がきたよ!」
唯花は悪びれもせずに「そっかー」と笑う。
「いやー、だっていきなりだからなんて送っていいか分からなかったし。とりあえず『お宝進呈♪』って書いて奏太の写真送っときました。てへぺろ♪」
制服姿のてへぺろ。
大変かわゆい。
が、そういう問題ではない!
「てへぺろじゃねーよぅ!? 本当っ、伊織に手紙で俺の性癖訊いた時もそうだったけど、なんでお前ら姉弟はちょっと目を離すと感動ポイントをどうでもいいことに消費するかな、マジで! もっとあるだろ、なんかこうもっと! 日々の感動を大切にして頂きたい!」
あと伊織は今、どういう感情で泣いてるんだ!?
一年半ぶりに姉がメッセージを送ってきてくれた喜びか、それとも兄貴分がとんでもない姿をしている哀しみか、いやひょっとしたら伊織も女装が趣味だし喜んでるのか!?
とてもじゃないが想像が追いつかねえよ!
その間も俺のスマホはピコン! ピコン! と通知を告げていた。
引き続き、葵である。
「『あの! この写真、わたしももらっていいですか!? いいですよね!?』」
「『っていうか、もう伊織くんに送ってもらいました! きゃーっ、やったー!』」
「『新刊のネタ、ゲットだぜ、です! 薄いのに厚い本がさらに厚くなっちゃう! わーい!』」
「『ありがとうございます! 奏太お兄ちゃん!』」
……? 新刊のネタってなんのことだ?
よく分からないが、久々に『奏太お兄ちゃん』呼びが出たってことはなんかご機嫌なんだろう。いいことだ。
まあ、それはともかく。
「このまま黙ってやられているわけにはいかぬ……」
ゆらり、と俺はベッドの方へ向き直った。
途端、しゅばっと身構える唯花。
「な、なんじゃらほい? 言っとくけど、今回は見返りにえっちな写真を撮らせてあげたりはしないからね? なぜなら今はお
「お
シャキンッと構えるは、俺のスマホ。
そして堂々宣言。
「ツーショット写真を撮るぞ! 俺とお前で! 初デート記念だ!」
「な……っ」
一瞬、息を飲み、唯花は驚愕。
「なんですってーっ!?」
女装メイド写真の報復をすることもできる。
だがしかし! 俺はその憎しみと哀しみを超えて、あえて正しい道を選択する。
そうして生まれたナイスな提案に唯花は真っ赤になって震え上がった。
ふふ、恐ろしかろう、恥ずかしかろう、照れくさかろう!
「しょ、正気なの、奏太……っ」
「正気も正気。これこそ汝の望む、お
「むう……ぜ、是非もない。というか、奏太からそんな提案をしてくれるなんて……嬉しいです」
もじもじしながら唯花はコクンと頷いた。
よーし。
じゃあ撮るぞ、初デート記念のツーショット写真を――!
次回更新:12/16(月)予定
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【お知らせ】
ずっと簡素だったので、各章と幕間にサブタイトルを入れてみましたー。
各話の中身に変更はありません。
あ、4章のサブタイトルは4章が終わってからつけたいと思います。なぜなら終わってみないとどんな章になるか分からないノープランだから!( ゚∀゚)・∵. ガハッ!!
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