第90話 大司教様曰く、疑わしいなら刑に処しちゃえばいいじゃない
異端審問。
それは正義の名のもとにざっくりギルティ認定されちゃうやばいやつだ。
一度、審問が始まれば、もはや逃れる術はない。
「ではこれより嫌疑を受けし者、
さながら大司教の貫禄を持って、
「嫌疑の内容は『おはようからおやすみまで美少女の幼馴染をぜったい最優先』教から脱退したやも疑惑!」
床でべっこりしている俺は必死に訴えかける。
「馬鹿な!? 俺は嫌疑を掛けられるようなことは何もしていない! ああ、やめろっ、やめてくれぇ……!」
嘆きの声を無視し、大司教様は厳かな手つきでパジャマのボタンをつけ始めた。
「慈悲はないのじゃ」
無情にもボタンは襟元までぴったりとつけられてしまった。Fカップの谷間が見えなくなり、俺は絶望に打ちひしがれる。
「ちくしょう、天国への扉が閉じられてしまった……っ。もうちょっとで唯花とキャッキャウフフが出来たのに! 俺、もう完全にそういうモードだったのに……っ!」
「まったく、そんなにあたしとキャッキャウフフしたかったの?」
「したかったさ! 今日こそはノンブレーキのしっちゃかめっちゃかで、らめぇらめぇ言わせてやろうと思ってたさ!」
「奇遇ね、ボーイ。あたしだって今日はもう何されちゃってもいい、どんなえっちなことされてもイヤって言わない、って思ってたよ……」
「だったら今からでも!」
「今からなんてなーいっ!」
「ほげぇーっ!?」
アーサー王のぬいぐるみを頭の上からぐりぐりーっと押しつけられた。
鼻が床にめっちゃ押しつぶされる。痛い痛い痛い! さっきノートパソコンにぶつけたばっかだから地味に痛い!
しかし大司教様もとい唯花からの審問ダイレクトアタックは止まらない。
「なんなのその女の子の匂いはーっ!? ギャグっぽいセリフをギャグじゃなく言うけど、一体どこの女よーっ!?」
「マジか!? そんなセリフを生で聞く日がくるとは思わなかった!」
「こっちのセリフよーっ! まさかこんな面白セリフを自分が口にする日がくるとはびっくり! いつからあたしの幼馴染はハーレム系主人公になっちゃったの!?」
「待て待て、落ち着け! だいたいなんなんだ、その匂いって! 俺は今日、学校で暴れて、ファミレスに寄って、真っ直ぐここに来ただけぞ。するわけないだろ、女子の匂いなんて!」
「するもん。すっごいするもん」
アーサー王をどけ、唯花がしゃがみ込んでくる。
手元のぬいぐるみで顔を半分隠しながらジト目。
「奏太はね、いっつも色んな女の子の匂いをさせてるの」
「はっ!? ちょ、なにそれ初耳なんだが! どこのハーレム系主人公の話だ!?」
「だからここにいるハーレム系主人公の話」
「俺はハーレム系でもなければ、主人公でもない!」
「論点そこじゃない」
「それは分かっているけれども!」
必死に頭を回転させる。
落ち着いて考えてみよう。俺は毎日学校に通っているし、週末はバイトをしている。
当然、色んな女子とすれ違う。
唯花が言っているのは、ただそれだけのことではなかろうか。
……と思ったのだが、どうやら違うらしい。
アーサー王越しに幼馴染は口を開く。
「いつもの奏太からは、ちゃんとその子たちと一線引いてる匂いがするの」
「は? 一線引いてる匂い……なんぞ、それ?」
「なんかこう『びびびしー』って匂い」
「……びっくりするくらいワケ分からん。あと一線引いてる匂いって言うなら、それ女子の匂いじゃなくて、俺の匂いじゃね?」
「……あ、そうかも」
確かに、という顔で頷く、唯花さん。
そしてぬいぐるみを置いたかと思うと、いきなり身を乗り出してきた。
「じゃあ、確認すりゅ!」
「はいっ!? いや『すりゅ』じゃねえよ、『すりゅ』じゃ! えっ、ちょ、本気か? 待て待て待てっ、キャーッ!?」
思わず女子のような悲鳴を上げてしまった。
えいやっ、と唯花は俺を押し倒し、上にかぶさってくる。そして子犬のように全力でくんかくんかしてきた。
「審問開始! くんかくんかの刑なのじゃ! くんか、くんか、くんか!」
「ちょお!? 何してんの、何してんの、何してんの、お前-っ!?」
「動かないのーっ! 今、奏太をくんかくんかして匂いを確認してるんだから! 抵抗したら、めっ!」
「『めっ』じゃねえですよ、『めっ』じゃ! 床に押し倒されて匂いかがれるとか嫌過ぎる!」
「大丈夫だよっ。あたし、奏太の基本の匂いは好きだから!」
「基本の匂いってなに!? 説明がざっくり過ぎて能力が分かんねえよ!?」
本気で勘弁して頂きたいのだが、どうにも止められない。
というのも唯花が首筋に顔を突っ込んでくるので、ノーブラの胸がみぞおち辺りに当たりそうで……当たらない! あっ、今また一瞬当たりそうだった……けど当たらない! なにこの絶妙な拷問!?
「むふー、やっぱりだ」
「な……なにが……やっぱり……なんス……か……」
何かしら納得がいったのか、唯花は体を起こした。
俺に馬乗りになっている状態だ。
一方、こっちは恥ずかしさとノーブラのやきもきがダブルアタックになり、ライフはゼロ。ぐったりしている。
で、俺を尻に敷いてる唯花さんはかく語りき。
「結論が出ました。奏太の言う通り、あたしが感じてるのは女の子の匂いじゃなくて、奏太の匂いだった」
「……そうか……結論が出て……何より、です」
「で、いつもの奏太からはちゃんと女の子たちと一線引いてる匂いがする。でも今日は違います。特定の女の子に心を開いた匂いがします」
「……えーと……それはなんなの? すごい自信満々に断言しているけれども、お前は謎の特殊能力に開花したの?」
「うみゅ。おそらくこれは女の勘」
「いつそんなものに開花したんだ、いつ」
「奏太に耳そうじされた時。あの時から匂いで奏太の女の子状況がなんとなく分かるようになった」
「……………………なるほど」
……謎の説得力だった。
左様でござるか、あの耳そうじの後に女の勘が開花したでござるか。……うん、もうそういうモンだと飲み込むしかない気がする。
「ふふふ、女の勘がもっと冴え渡ったら、奏太のウソとか一発で分かるようになる気がする」
「……お前、だんだんこの状況が楽しくなってきてるだろ? あと俺、別にウソとかつかんし」
「では素直に白状しなさい。どこの女に心を開いたの?」
「んなこと言われても覚えがまったく……」
「はいっ、くんかくんかくんか!」
「きゃーっ!? らめえ、らめええええええええええっ!」
無慈悲なくんかくんかの刑は再開され、俺の異端審問は続く。
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