第11話 記憶の行方 /1
雪景色から鉱山、荒野――乗り継いで少しづつ変わっていく景色。トンネルを抜けた先でまたそれは色を変えた。
荒地の中の緑。
「あ~緑の空気っておいしい!」
一行は“記憶喰い”の情報を得るべくセスルームニルへ戻ってきていた。時には野宿をし、道中で魔物を倒して小銭も稼いだ為登山のために飛んで行った資金を補って余るほどだ。もちろん、今回の依頼料の前金も含めて。
「ここがチェイネルさんの故郷ですか?随分と緑が多いんですね」
「うん。そのおかげで小さいけど畑なんかも作れるよ。農家さんはあんまりいないけど」
乾燥に強い植物は砂漠にもいくつか自生しているがここは広葉樹もいくつか散見される。ただじわじわと砂漠化の影響を受けているのは同じらしく、人の手を入れることでかろうじて緑の領域を保っていた。
「おっ、重っ……!」
帰ってくる間にすっかり多くなった荷物を下ろすのは、ちゃっかりついてきたライクだ。依頼を受けたことを報告するなりついてくると言ってきかなかったわけだが……案の定両親に耳にも入り、セスルームニルへ荷物番として片道だけという条件付きの旅になってしまった。
「ありがとう、ノエル君」
「チェネ姉、これ何入ってんの?かっこいい秘密兵器とか?それとも幻の……」
「それは内緒」
「え~」
期待を寄せただけありとても残念そうに頭をもたげる。
「これを運び終わったらみんなに話を聞きに行こう。町長さんなんかはよく知ってるかも」
「食われた部分の記録が残ってりゃの話だけどな」
記憶食いの影響は人の中の記憶だけのため、何らかの媒体に記録しておいたものはそのまま残っている。頼みの綱はその部分だ。
たどりついた庭付きの一軒家。
隣家との境界があいまいで、なんとなく木箱や柵で仕切られているような状態。大荷物をチェイネルの家に運び込んでいる途中、中の様子を伺ったところ──家主が不在の間ほこりを積もらせ続けていたはずの部屋が不思議ときれいに保たれていた。入り口を振り返れば、目じりの小じわを伸ばした女性が箒片手に立っている。
「やれやれあんたたちは本当に、連絡くらい寄越しなさいね」
「ノーラおばさん!」
喜ぶチェイネルとは対照的に、眉間に深くしわを刻んでいやそうな表情を見せるビリー。できるだけ視界に入るまいとアヴェに重なるように体をずらした、が。
「隠れたって無駄だよビリー。あんたの噂はここまで入ってきてんだからね」
「このくたばりぞこないのババアめ……」
身長の高いアヴェを押しのけてあっという間に詰め寄られ、鼻先をつままれる。
「どこぞで暴れまわってるのかと思いきやチームを組んだっていうじゃないか。あんた、ちゃんと協調してるんだろうね?え?」
「うるせえ婆さん。忙しいのに手紙なんて書けるか」
「憎まれ口は相変わらずだね、まあ元気そうでよかったよガキんちょが。……あんたがチームのお仲間かい?大変だろこの子の相手は。ありがとね」
勢いに気圧され苦笑いしか返せないアヴェだったが、話しぶりからするに悪い仲ではないのだろう、とすぐにこわばった顔は柔和さを取り戻した。
「僕たちは今請けている依頼のためにここへ立ち寄っていまして。町長への取次はどちらへ行けば?」
「あらそうなの。役所が町の入り口にあったろう?あそこに行けば大体のことはできるはずさ。そら、そっちの荷物はどこに運べばいいんだい」
「あっ、それはこっちに……ねえノーラおばさん、すごかったんだよ今回の──」
ノエルが苦戦していた大荷物を軽々と肩に抱え、チェイネルと談笑しながら2人はキッチンへと消えていった。
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