第8話 亡者の伝言と聞こえぬ声 /2
「何かわかったのかよ」
時間を潰す場所がなくなったビリーは、仕方なく、渋々、仲間のもとへ戻る事にした。保安局についた彼の前には、目を休めるアヴェと机に突っ伏したチェイネル。想像を絶するバトルでも起こっていたのだろう。
「ええ……でもどうやら骨折り損だったようです」
「何で?」
「あの白骨死体は行方不明事件の被害者でした。最近頻発しているものと関連しているかどうかまではわかりませんでしたが」
そこで一旦話を切り、コーヒーに口をつける。その表情は真っ黒なコーヒーと同じくらい苦々しいもので。
「それで家族がどこにいるかまでわかったんだけどー……」
「ならよかったじゃねェか。何がダメなんだ」
「亡くなっていたんですよ、ご家族も。随分昔のものだったから仕方ないのかもしれませんが……どちらもお墓の中とは、悲しい結末でした」
ため息と共に記事の切り抜きをビリーへよこす。古びた紙の隅、薔薇の懐中時計を腰に提げた若い男性が写っていた。
「てことは、これで終わりか」
「骨はこっちから墓守に頼んどくよ」
アヴェの横で保安官が帽子を被り直す。彼なりの弔いだ。
「なんか納得いかなーーい!」
チェイネルは突っ伏したまま子供のように駄々をこねる。
「お涙頂戴な話でもそいつの家族に聞くつもりだったか。はっ、嫌なやつ」
「そんなんじゃないもん!だってプリモちゃんの話だと、あの人は帰りたがってたんでしょ!?それなのにもう亡くなってるだなんて……」
「逆に死んでてよかったんじゃねェ?つーかあいつの話信じてるのかよ」
「ッ!!人を何だと思ってるのよ!」
思わず怒りで立ち上がったチェイネルとビリーの間にすかさずアヴェが入る。
「二人とも落ち着いてください。それとビリー、あまり死者を冒涜するような事を言ってはいけませんよ」
「けっ」
死んだらそこで終わりだろ、と小さく吐き捨てるビリーをもう一度目でたしなめて、そこでようやく言い合いは収まった。
「ともかく僕達にできることはここまでです。さて、チェイネルさん。僕達の今やるべきことは何でしょう」
「…………お墓参り?」
おずおずと、まだ気まずいチェイネルは小さく答える。
「それもまあ、いいのですが。僕達は賞金稼ぎという前提があります。請けた依頼を放棄するわけにはいきませんよね」
「あっ……ごめんなさい」
旅がどんどん横道に逸れている事に気づき、素直に頭を下げた。遠い目的地とはいえ、気ままな旅ともいかないのだ。
「ほら、ビリーも」
「えっ?何…………」
「言わなければならない事があるのでは?」
「……ああクソ、何で俺が」
笑顔ではあるものの、こちらを刺すような視線が痛く、怖くもある。ビリーは根負けして僅かに頭を下げた。
「悪かったよ」
「はい、喧嘩は終わりです。ここから山を越えてアレクサンドリアを目指すのですから、仲間割れしていてはいけませんよ。いいですね」
「「はい」」
この大人を怒らせてはいけないと本能的に悟った少年少女であった。
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