第8話 亡者の伝言と聞こえぬ声 /1

翌朝、エリオの家をあとにした一行は保安局に事の顛末を報告していた。勿論、前日に散々ごねていたビリーは別行動で。

「……というわけでして。あの洞窟は元々何だったのですか?」

「ふぅーん。あそこは昔鉄鉱石を採取していた記録は残ってるよ。崩落事故は無かったらしいから、単に鉱石が尽きたってだけだと思うんだがねえ」

事故に巻き込まれたと予想したアヴェは事故の記録を調べてもらうが、洞窟で起こった事故はいくらページを捲れども出てこない。

「あの遺体をご遺族に返してあげたいのですが……手がかりがこれくらいしかなくて」

「うーん」

チェイネルは深く考え込むばかりで手元があまり動かない。思考するか行動するか、彼女は良くも悪くもシングルタスクなのである。

「魔物に襲われてだとか、餓死ってことはないかい?この辺はごろつきもいるんだ、身元がわからない連中なんて珍しくない」

「その可能性も否定は出来ませんが、だとしたら繊細な彫刻が施された懐中時計を持ってはいないでしょう。高価そうな物、後生大事に」

「……あ!!薔薇の彫刻!」

え?と男二人の視線はチェイネルへと注がれる。

「どうしたんだい嬢ちゃん」

「最近どこかで見た気がしたと思ったの。私、ギルドで見かけたわ!」

「ギルド……、“ГЕРОИゲロイ"でですか?」

ギルドの掲示物にそんなものがあっただろうか。頻繁に足を運んでいるアヴェでさえ心当たりがないのは、それほどギルドに舞い込む依頼が膨大だという証だ。すぐに情報は埋もれてしまう。

「うん!保安官さん、最近増えてる行方不明事件の資料、ここにもありますか?」

「あるよ。こっちの山がそうだ」

平積みにされた紙の束を指さす。

「こ、これは……」

「全部見るの大変そう……」

嗚呼、こんな時に別行動の少年が羨ましく感じてしまうとは。二人の心にうっすらと後悔の二文字が浮かぶのだった。


一方その頃、ビリーは洞窟の前に立っていた。死体が見つかった今は保安局により規制線が張られ、中に入ることは叶わない。しかしどこか違和感を拭えずにその場から動くに動けないのだ。

「サイクロプスがこんな所にいたら、フツー騒ぎになるよなあ……」

それはアヴェも気になっていた所。洞窟から町までは距離があるものの、子供が迷い込める程度なのだから今まで見つかっていないのが不思議だ。ひとまず立ち止まっていても情報は得られないので、周りの茂みに入っては魔獣の痕跡がないか調べてみる。

「足跡もねェし、寝食全部洞窟の中で済ませてたにしては……ああクソ、なんで俺はこんな事を」

結局アヴェ達の調査を手伝っているのではないか?それに気づくと自分に苛立ち土を木の幹へ蹴りつけた。


(くす)


ふと、何かを擦り合わせたような音が聞こえる。

「魔獣か!」

しかし身構えてもそれ以上の物音が聞こえてこない。何かの聞き間違いだろうか。

「…………なんだってんだ、畜生」

急に居心地の悪くなった空気に、追いやられるようにその場を立ち去る。ビリーの靴裏から黒い薔薇の花弁がすり抜けていったが──それに気付くものは誰もいなかった。

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