第7話 轟く泣き声 /1
甲高い、金切り声にも似た鳴き声が洞窟にこだました。
大型の魔獣が自分を誇示するために吠えるのならば、それを天敵とする小型の魔獣は威嚇や警戒を呼びかける為に鳴く。マーモットはこちらから危害を加えない限り脅威にはならないのだが、今この状況下では最悪の呼び鈴となった。
「逃げなきゃ…!!」
「取り敢えず奥だ、こいつ連れて行け!」
チェイネルに少女を押しつけ、もう片方の手はリボルバーを抜く。交戦は避けられない。
「え!?なに!?」
「さっき話した通りだ、気を引いてくる。あいつの視界に入るなよ!」
鳴き声に振り向いたサイクロプスが棍棒を振り上げ雄叫びをあげた。ビリーは出来るだけ姿勢を低く、奥を注視させないようにしてサイクロプスの元へ走る。幸い知能の低い魔獣相手なら2人を逃すことくらいは出来るだろう、あとは…自分がどうやってこれを倒すかだ。
「こっちだ!」
見開いた目を狙って一発、反射的に身を捩ったサイクロプスの耳元を掠める。その間に股下に滑り込み二発、背後に周り三発目を放とうとして。
「グォオオ、ア、ガ!」
しかし怒りに震える腕が壁を引っ掻き、拳大の石をこちらへ飛ばしてきたので追撃は叶わず。数歩、後ろへ下がった。
「分厚い皮膚してやがる……」
「ビリー!無茶だよ!」
「いいから行け、馬鹿!」
声に反応し後ろを向きかけたサイクロプスの頭目掛けて撃った弾丸は大きく巨体をのけぞらせ、足の間からチェイネルとプリモが逃げる背中が見えた。
これで二人に危険はないはずだ……奥に魔物がいないことをいのる。
「あとはこいつさえ片付けられりゃ……!」
大振りな攻撃を右へ左へとかわしながら弾丸が通りそうな場所を観察すれば、粘膜や内臓が露出しているところ──顔面が一番効果的だと予想がつく。弾倉に残った弾を同時に解き放ち、一気にサイクロプスの体力を削り取る。あと何発か食らわせられれば押し切れそうだ。
そう思っていた矢先、大きな一つ目が仰々しく震え出す。それと同時にビリーは背筋に冷たいものが走る感覚を覚えた。“立ち止まってはいけない”そう反射的に脳が答えを出す。
次の瞬間、一際大きくひん剥かれた目玉はこの洞窟にあるどの光源よりも眩い光を放ち、咄嗟に後ずさるビリーの足元を抉った。
「ンなのありかよ!」
棍棒の攻撃に遠距離の光線が加わると回避に専念せざるを得ず、一気に戦況は悪化。しかし気になるのは自分の体力以上にこの洞窟の耐久度だ。勝てたとして崩されてしまえば、奥に残したままの二人の救出が困難になる……つまり、持久戦は難しい。
「クソ!やっぱり連れてくるんじゃなかっ……!」
地を叩いた棍棒から飛び散る無数の石が不幸にも目隠しのようにビリーへ覆い被さり、1秒にも満たない隙を生む。それを見逃さなかったサイクロプスはまた目玉を見開いた。視線は間違いなく、頭を打ち落とそうとしている──
「!!!」
回避が間に合わない。視界が白み、ビリーは死を予感した。
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