第6話 聞こえる声 /3

「プリモちゃん!」

「おい、待……クソ、ああは言ったが少しは警戒しろ」

一直線に少女に駆け寄るチェイネルを心配してか、ビリーは周りへ注意をはらう。今のところは何もいないようだ。

「お姉…ちゃん?」

あちこち土で汚れたり服の裾が切れていたものの、不思議と怪我はなかった。無事であったことに安堵のため息をつく。

「お姉ちゃんはおうちで待ってるよ。一緒に帰ろう?」

「うん…でも、呼んでたの」

「何を?」

「あの人たちが、私を」

そう言って指を刺した方向にはなにもない。暗い穴が続くだけだ。

「……ま、まさか幽霊とか…?」

「さあ。どっちでもいいだろ、さっさと出るぞ」

ビリーは少女の手を引っ張ろうとしたが、その場から動こうとしない。駄々を捏ねているのかと思い眉間に皺を寄せるが──少女は闇を見つめたままだった。

「なんだってんだ、お前の遊びに付き合ってる場合じゃ」

「遊びじゃ、ないよ」

だからなんだ、と声を荒げたビリーは、ぴたりと動きを止めた。地面から伝わってくる僅かな振動……規則的に震えるこれは。嫌な予感がして闇の奥を見る。

「…おい、おいおい」

「どうしたの?」

「静かにしろ、まずい。隠れるぞ」

「でも呼んでる」

「死にたいのか…!後にしてくれ」

小声で叱り付けるとようやくついてくるようになり、数少ない隠れ場所にチェイネルとプリモを押し込む。3人は岩陰からそっと奥の様子を見て息を潜めた。明かりがないのは心許ないが念のため、松明とランタンは消しておく。


先程の振動はどんどん強くなる。洞窟が崩落するほどではないが、蝙蝠が逃げ出すほどの規模。ずしん、ずしんと音がするほどに大きくなればようやくその発生源が姿を現す。


「サイクロプスだ」

「え、ええっ、魔獣…!?」

「それも結構デカい奴だな…クソ、帰り道はあっちだってのに」

3メートル程ある巨体の持ち主は、何かを探すようにその場を往復している。これでは外に出ることができない。

「ど、どうする?闘う?」

「コイツがいるのにか?」

プリモを親指で指して舌を打つ。こんな袋小路ではとても守りきれない。

「俺が奥に引き寄せる。お前らは先に逃げて─」

「そんなのダメだよ!みんなで助からないと!」

「馬鹿、騒ぐな」

「……ねえ、こっち。…みてるよ」

大きな声を上げたチェイネルははっとした。おそるおそるサイクロプスを伺うと、その大きな一つ目は明後日の方向を向いていた。まだこちらにくる様子はないようだ

「ご、ごめん…」

「そっちじゃなくて、こっち」

プリモが指さしたのは、サイクロプスとは反対の──自分たちの後ろだ。


岩肌に張り付くマーモット型の魔獣の目が、ビリー達を見ていた。

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