第6話 聞こえる声 /2
街灯のない山道は、5メートル先も見えないほどの暗さだ。できるだけ道に迷わないよう、二人は開けた道を進んでいく。今は月灯りだけが頼りだ。
「プリモちゃん、無事だよね」
「それを確かめに行くんだろ。さっきまでの自信はどうした」
「うん……そうなんだけど」
チェイネルは数日前耳にした事件を思い返していた。ギルドに貼り出されていた行方不明者の事だ。
「思い出した事があるの。行方不明事件の事で」
「何を?」
「消えた人の共通点は殆どなかったんだけどね、一つだけ……皆いなくなる前に、うわごとのように何かを呟いてたんだって」
一度立ち止まったビリーは顔をしかめた。
「それがどうした。あの子供が同じだとか言いたいのかよ?」
「もしかしたらって」
「馬鹿げてる。あの男もいってただろ、ここまで見つからないのは珍しいみたいだが、『よく一人で何処かへ行ってしまう』って。第一今日会ったばかりの奴の事なんてわかるのか」
思いこみも大概にしろ、と吐き捨てるとまた歩みを進める。少女が一人で行動しているということは確実。あんな子供が魔獣に太刀打ちできるとも逃げ切れるとも到底思えない。できるだけ早く見つける必要がある。
「……」
足音がただただ響くだけとなった山道にようやく変化が訪れる。低いバリケードの奥にぽっかり空いた大きな洞窟の入口が見えた。よく調べてみれば、ささくれたバリケードに服の裾と思しき端切れが引っ掛かっている。
「これ……!」
「クソ、本当にここに入っていったのか」
ビリーは舌打ちをしながら朽ちかけのそれを蹴り倒した。いとも簡単に崩れる事から、かなりの年数放置されたものだと推測できる。湿った木材の地面を転がる音が洞窟の中へこだました。
「一体誰に呼ばれたんだろう?」
「知るか」
「ねえビリー、何か聞こえない?」
チェイネルが耳を澄ます──空洞音の中に、誰かの声が聞こえてくるような……そんな気がして。
「……もう一つ明かりを用意した方がいいな。これで作ろう」
そばに落ちていた木の枝を服の切れ端で巻き纏め、拳銃の手入れに使っていたオイルを染み込ませる。簡易ではあるが松明の完成だ
「どのくらいもちそう?」
「十数分ってとこだ、最悪壁伝いに帰ってこれる。お前はこっち」
小型のランタンを手渡し、2人は洞窟の中へと入った。
洞窟の広さは2人が肩車をしても天井に届かないほど大きい。時折聞こえる蝙蝠の声にチェイネルが毎回肩を揺らしている。
「いちいちビビるな、たかがコウモリくらいで」
「だって暗いんだもん。魔獣かと思って」
振り返ったビリーが松明をゆらゆらと揺らし洞窟の壁を照らしてみると、爪で引っ掻いたような跡や独特な粘液が見えた。彼女が心配する魔獣がいた痕跡といえよう。
「お前はプリモってやつの事だけ探してろ、他は俺がやる」
五分ほど探索してわかったのは『人の手が入った洞窟』だということだ。入り口とは違って中は岩肌の断面こそ荒いものの、その痕には一定の規則性があり地面は平らで歩きやすくなっている。
「採掘場ってわけじゃなさそうだが」
「わ!今度はネズミ!」
飛び退いたチェイネルの足元をネズミが通り過ぎて、視線はそちらに吸い寄せられた。その先にいたのは──
「プリモちゃん!」
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