第6話 聞こえる声 /1

夜の町、溶鉱炉の熱を吸い取ったぬるい風が髪を揺らす。陽は完全に落ちたが、まだ人通りはあった。若葉色の髪の少女はいなかったか、と通りすがる人に聞き込みを続けていくが、妹ではなく姉の目撃情報がほとんどだった。


「こっちは駄目でした……!」

「私の方も収穫なしだね。参ったな……これじゃああとは町の外に行くしか」

「そのまさかっぽい、ぞ」

振りかえった二人が、山に続く看板を指差すビリーを見る。

「あの道に入っていく子供を見かけたって炭鉱夫が。話しかけたらしいが……『呼ばれてるの』だとか言って聞かなかったんだとよ」

看板には古びた文字で何かを記されているようだが、かすれてよくわからない。更にそこには真新しい布袋がかかっている

「これ……買い物に行った時、プリモちゃんが持ってたカバン!なんで気付かなかったんだろう」

「近くに落ちていたのを誰かが拾ったんだろうね。なんてことだ、今まで町の外に出る事はなかったのに……早く迎えに行ってあげないと…っ」


走り出そうとしたエリオの白衣をひっつかんだのは、眉間に皺を寄せたビリーだ。

「っわ、なんだい、離しておくれ」

「お前、この先が何か知ってるか?……町の外なんだろ」

男の表情が一瞬こわばるが、掴まれた手をやんわりと振り解く。

「行った事がないからね、わからないよ。洞窟があるってことは聞いた事がある。……でも、妹がそこにいるかもしれないんだ。引き返す選択肢はないだろう?」

「そうだよビリー。エリオさんはプリモちゃんが心配で仕方ないんだよ」

「ンなことはわかってる。ただ、一般人三人も担いでその洞窟から出られると思うか?チェイネル、お前はまだ賞金稼ぎになったばかりの雛鳥で、まともな戦力になるのは俺くらいだろーが。お守なんてしてられっかよ」

痛いところを突かれたチェイネルが僅かに俯く。

「でも、でも!じゃあビリー一人で入るつもり!?」

「当たり前だ」

「そんなこと許す訳ないじゃない!だめ!いけません!」

「時間がねェ」

「~~~~ッ!もう!」

双方が肩で息をするほど不毛な言い争いは続いた。単独で行動する事を許さないチェイネルと、できるだけ負担を軽減したいビリー。二人の間でうろたえていたエリオは、ついに我慢の限界を迎える。


「いい加減にしてくれ!今は妹の安否が一番大事なんだ!」

存外大きく響いた声に二人の言い合いはぴたりとやんだ。

「悪い」

「ごめんなさい」

母親にしかられた子供のようにばつの悪い顔をする二人。

「……とにかく、だ。入るのはせめてあと一人にしてくれ。地理を知っているならまだいいけど、お前は行った事がねェって話だし」

「そう、かい。経験者がそう言うなら……そうだね、私はここに残ろう。チェイネルさん、お願いできるかな」

二人を見る目はただ妹を心配する兄でしかなかった。チェイネルは気合いを入れ直すように頬へ手を押しつける。

「まかせてください!きっとすぐ、連れ帰ってきますから!」

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