第5話 発明家集う町 /3

名前を呼ばれた二人の少女が、兄に続いて頭を下げた。礼儀正しくやや大げさな身振りの姉、気弱ですぐ影に隠れようとする妹。

「お客さんも一緒に食べるの?」

「ごはん、ちょっとだけ……足りない。かも」

食材を保管している木箱を開けてみると、穀物が少しと野菜くずが残るだけだった。これでは腹を満たすに難しい、この一家が普段どれだけの食生活を送っているかが窺い知れる。

「俺の分は別にいいけど」

「もうビリー!ご厚意で泊めてもらうんだから自分の事ばっかり考えちゃダメ!エリオさん、ご飯は私にまかせてくれませんか?買い出しに行ってきますから」

反論しようとするビリーをよそに、チェイネルはほいほいと話を進めていく。前回の失敗を補いたいのか、それとも只のおせっかいか、彼女はいつにもまして張り切っていた。

「それは、とてもありがたいけど……いいのかな?」

「いいよね、ね、リーダー!」

同意を得られそうなアヴェににこにこと笑いかけるチェイネル。

「えっ?ええ、それはもちろん、構いませんよ」

「こういう時にだけこいつを総意リーダー扱いかよ……」

「まあまあ。宿がなくて困っていたところ助かったのは事実ですし」

「チッ」

「やった!ウーノちゃん、プリモちゃん、一緒にお買いものいこう!いってきまーす!」

案外、したたかなのかもしれない。勢いに押される姉妹の手を引きながら、3人は男どもを置いて出かけていった。

「……いいのですか、ついていかなくて」

「アレについていきたいか?お前」

「あはは」



時計の音が響くほど静まり返った室内。おしゃべり好きな少女がパーティアウトしただけでこのありさまだ。流石にアヴェも話のネタが尽きたようで、少し休憩、と眼鏡のフレームを拭いていた

「遅いな」

いらつく態度が机を叩く指先に表れる。

「少し心配ですね。町に詳しい妹さん達が一緒なら迷子はないとおもいますが」

「どうせ道草食ってんだろ」

「けれど、この時間に女性だけでというのはまずいかと」

「……出」

ビリーが立ち上がろうと腰を上げた瞬間、勢いよく玄関の戸が開いた。肩を上下させるチェイネルの息は荒い。明らかに焦っている

「プリモちゃん帰ってない!?」

何事かとうろたえるビリーと、首を横に振るアヴェ。

「大変大変!!プリモちゃんが迷子になっちゃった!!!」

騒ぎ立てるチェイネルとは反対にエリオはいたって冷静だ。

「あー……またか……すみません、あの子はよく一人で何処かへ行ってしまうんだ」

ため息をつきながら頭に手をやると、次女が遅れて帰ってきた。

「最近は落ちついてたんだけどね。ごめんなさい兄さん、もう一回探してくる」

「いや」

すぐに引き返そうとする妹を首を振って制止した。もうすっかり陽も落ちた時間帯、これ以上子供を出歩かせるわけにはいかない。最悪、迷子がもう一人増える事になる。

「ウーノはここにいなさい。私が行ってこよう」

「わ、私も!ちゃんとみてなかったのが悪いし、ほら、あっち!あっちの道はまだ探してないし……!」

事情を知ってもなお落ちつけずにいるチェイネルは、あっちこっちへ身振り手振りを繰り返す。他人の世話を焼きたがる癖に、予想外のこととなれば途端にキャパシティオーバーしてしまうのだ。

「ああクソ、俺も行く」

見かねたビリーが彼女の背中を乱雑に叩いた。喝を入れられたおかげで、チェイネルの動きがすっと収まりようやく話を聞くそぶりを見せる。

「どうせじっとしてられないんだろ」

「う、うん……」

こうなる事を予測でもしていたのか――そう文句を言いたげなビリーの瞳がアヴェを見たが、それに対する言葉は返ってこなかった。

「僕は妹さんとお留守番しておきましょう。もし帰って来た時、二人きりでは心細いでしょうから」

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