第5話 発明家集う町 /2

「いやはや、ごめんごめん!」

垂れ目が更に落ちそうなほど申し訳なさそうな表情で手を合わせるのは、奇怪な機材を脱いだ白衣の男。爆発するのは想定外だったそうで、『お詫びに何でもする』という言質をとったビリーは一行の宿を工面してもらう事になったわけだが、やはり何処の宿も満室。結局この男の家に厄介になった。

「なんなんだこのポンコツ装置」

いらつきながら顔を拭くビリー。爆発は小規模だったのが不幸中の幸いか、彼以外は煤を被る事もなかった。アヴェは僅かに肩を震わせ笑いをこらえている。

「ポンコツとは酷いな!この『霊力観測マシン』はこの私、エリオが3年の開発期間を経て完成した一級品だよ!?」

「……爆発したけど?」

「それはきっと君達に宿るエネルギーが膨大だったのさ」

何とか復旧を試みる白衣の男、エリオ。重要なパーツがいくつか壊れてしまったのか、すぐには直りそうもない様子。

「霊力、というのは……魔力とは別なのですか?」

装置をいじる様子を覗き見、いろんな角度から観察して。好奇心をすぐくすぐられる傾向があるアヴェ、なんでもかんでも知りたがりだ。しかし、その知識に助けられる事は多い。

「根本は同じと私は思っているよ。実体がない、視認すらできない事もそうだがどこにでも薄く漂っている。違いは――そうだね、“心”かな」


「心?」

エリオはアヴェの心臓部を指差して、深く頷く。

「もっとわかりやすく言うなら強い意思!魔力が自分の持ち得る才だとすれば、霊力は周りから貰い受ける心さ。花をいつくしむ心、可愛がっている動物、爽やかな気持ちにさせる風に至るまで、私たちが心動かされるもの全てに宿ると言ってもいい。

 昨今魔法使いが絶滅寸前のこの世界なら、霊力の方が僕達魔力を持たない者に扱える可能性が高い!これからの発展に欠かせないエネルギー!」

興味をもたれた事が嬉しいのか、やや早口になっている。一つの分野に没頭する、いまでいう所のマニアだとかヲタクとかいうやつだ。

「……というのが私の持論」

「なるほど、それで」

「聞いた事ねェわけだ」

元より興味のないビリーの目が逸れた。

「えっと、つまりは私たちも魔法が使えるかもしれないってこと、ですか?」

「そうそう、そういう事さ!……そしてさっき、この装置が君達に反応した。見たところ君たちは賞金稼ぎだろう?そういった武器やお宝を持っている、と私は思っているんだけどね」


演説を終えた白衣の男は満足そうに、どうかな?とひとりひとりの顔を見ながら笑いかける。ビリーもアヴェも、どちらかというと努力の末に戦闘技術を手に入れた人物だし、チェイネルもついこの前まではただの町娘だったのだ。魔法の武器など持っているわけがない、そんなものを持っていたらもっと楽に稼げてきたはずだ。ならば残る可能性はお宝で――一同は揃ってある一つの“モノ”が頭に浮かぶ。


「もし……」

ビリーは言いかけたチェイネル背中を密かに引っ張り制止する。

「ねェよ。ただの機械の不具合じゃねーの」

「ふうむ……そうです、か」

「エリオさんはそういったものをお持ちで?」

割って入られた事にむっとしたチェイネルは、アヴェに話を任せて少年の腕を引っ張った。彼女にとっては確信があった分、どうして止められたのかわからない。

「なんで?ビリーも古文書じゃないかって思わなかったの?」

「ンな重要なモンだとしたらまた狙われるだろ、むやみに話すな」

そう言いながら、声を落として後ろを伺う。隠しごとがある事はばれてしまったかもしれないが、アヴェがうまく彼の気を引いてくれたらしい。今のところ追及してくる様子はない。

「あ、そっか……これ、依頼のお荷物でもあるもんね。大事にしなきゃ」

「そういう事」


暫くエリオの話を聞き流しながら時は流れていつの間にやら夕食時、開発室代わりだったキッチンが片付けられていく。彼が言うには物が多すぎて自分の部屋に入りきらないそうだ。

「食事の時は片付けないと妹たちに怒られてしまうんだ、はいこれ、ちょっと……持って、くれるかい」

重そうな金属製の筒を持たされ、思わずよろけるビリー。

「なんでまたキッチンに」

「火を使う時に便利だろう!溶接機器を持ちだした時は止められたけどね」

あたりまえだろ……と呆れたように呟くビリーにかまわず、エリオはあれやこれ指示を続ける。意外だったのはアヴェの腕力だ。細身の男だと思われたが、ビリーよりも軽々と機材を運んでいた。しかしそれも彼が扱う武器を考えれば納得がいく。

「ご家族は貴方の研究に協力的でいらっしゃるのですね」

「はは、まだ幼いのにしっかりした子たちだよ。安心して食べていく為に早く成果を上げたいところだ……よし、こんなものかな。おーい!済んだよ!」


ぱたぱたと二人分の足音が扉の向こうから近付いてきた。やがてその扉が開くが……入ってくる気配がない。

「エリオ兄さん、もしかしてお客さん、いるの?」「いるの?」

控えめな声と共に覗かせた黄緑頭。チェイネルよりも四つほど幼い子供だ。

「わ、かわいい!」

「随分と可愛らしい妹さんで。おじゃましています、どうも」

アヴェは柔らかな表情を浮かべ帽子をとった。

「わ……兄さんがお客さんつれてくるなんて久々。こんばんは」

怪しい人物ではないと判断したか、ようやく扉をしっかりと開けて。前で客人を見つめる方は姉だろうか?後ろには木霊するように話す、よく似た少女がもう一人。人見知りなのか、姉の影に隠れて目を合わさない。

「……こんばんは」

エリオは二人へ歩み寄り肩を寄せた。

「紹介するよ、妹のウーノとプリモだ」

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