第2章
聞こえる泣き声、聞こえぬ笑い声
第5話 発明家集う町 /1
先の国から北上した列車は山間の町で停止した。燃料を利用して様々な工具を動かす国の名はアゲートロード。名の通り瑪瑙が多数出土している鉱山地帯だ。中には珍しい鉱石もあることから、発明家や研究者が目をつけているといううわさもある。セスルームニルとは違い平地が少なく、住むには少し不便そうな町に見えた。
「北にしてはやたら暑い町だな」
列車を降りて、高くそびえる山々を見上げる。山頂こそ雪が積もって白いグラデーションを残しているが、麓はじんわりと汗ばむほどに暑い。
「燃料を燃やしてエネルギーに変えているようです、恐らくそのせいでしょう」
「もしかして列車の石炭ってここから使われてるの?」
「この辺りではそうなりますね。ここ以外に有名な鉱山地帯は……ええ、
片手ほどもありません」
コンテナから覗く鉱石の山を興味津々に見る観光気分のチェイネルをよそに、ビリーは疲れ果てていた。
「夏には絶対来たくねー……」
今はまだ涼しい気候に助けられているのだ、真夏ともなれば鉛もくたびれる気温になるにちがいない。
「ビリーってば夏服持ってないもんね」
「必要ないだけだ。ホラ、今日の宿取りに行くんだろ」
「はあい」
涼しげな山頂を見上げて、宿を探す一行――ところが。
宿屋はどこも客が入っており、キャンセル待ちでなければ何処にも泊れない状態になっていた。なぜかと店主に問えば、採掘最盛期により短期労働者が大勢この町に流れている他、観光客は一年を通して少ない為このような状態なのだと。
いきなり野宿を要求された三人は行く宛てもなく、かといって今日の最終列車は既に発車した後で、後にも先にも進めない八方ふさがりな状況になってしまった。
「閉店までは酒場にお邪魔するという手はありますが……貴方達は未成年ですし、
あまりお勧めはできないですね……」
「俺は別に、その辺で寝るからいいけど」
「えーっ!?やだやだ、どこかのおうちに泊めてもらうとか…」
「そこまで嫌なら交渉はお前がするんだな」
ビリーの返答に言葉を詰まらせるチェイネル。社交的な彼女といえど、初めて訪れる場所の一般市民に気軽に声をかけられるという訳ではない。その上土地柄か同世代の少年少女は少なく、通り過ぎる人はアヴェよりも逞しい体躯の大男が多かった。余計に声をかけづらい。
「うう…で、でも野宿はやだ……」
「文句言うな、お前がこの依頼を引き受けるって言ったんだろ」
「ビリー、そう言わずに。もう少し宿を探しましょう」
そう広くないこの町で、他に宿屋が見つかるのだろうか。ビリーは無駄な行動、と一蹴しため息をついた。
「勝手にやってろ、俺は適当にぶらつ……く…」
別行動を取ろうとしたビリーの脚が止まる。
「どうしたの……?」
続けて後ろから顔を出したチェイネルの視界に白衣を纏った男が映った。それだけならば気に留めるようなものではないのだが、頭には導線と電極がゴテゴテに張り巡らされた金属帽、箒のような形の棒を手に、大きな独り言を垂れ流しながら辺りをうろついている。一言で言い表すならば、奇怪。アヴェも流石に得体が知れないのか、あんぐりと口を開けたまま動けないでいる。
「あれは、その……なんでしょう?服装からして研究者か…」
「もしかしたらお医者様かも……?」
「いやどっちでもいいだろ。アレは関わっちゃなんねェ奴だ」
避けて通ろうと半身を回転させたその時、男の独り言がさらにボリュームを一段階揚げた。
「きた…きた、きた、きた!!きた!!!!!」
興奮しながらこちらへ近づいてくる。一体なにがきたのだろうという疑問よりも、身の危険が勝る。思わず後ずさりした一行に構わず接近を続ける白衣の男。手に持った棒を前に突き出すと、警告音にも似た電子音が鳴り響いて。
「これだ―――!!!」
男が一際大きな声で叫んだのをきっかけに、電子音を発していた棒が
爆発、した。
立ち上がる黒い煙。歪にゆがんだ電子音、
そして煤がついて真っ黒な顔の、ビリー。
「なん……なん……」
彼は肺に入った煤を吐きだして、ただ身を震わせる事しかできなかった。
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