小話 二つ名の秘密
「ところでアヴェさんも二つ名ってあるんですか?」
それは唐突な質問だった。パーティ結成後、近場にある宿屋を借りて小休憩をとっていた三人は、お互いを――特に新しいメンバーのアヴェの事を知る為に他愛もない会話を交わしていたのだ。
「ええ、まあ一応ありますよ」
「得意げなツラ……さぞご立派な二つ名でも持ってるんだろうな」
自分が不愉快な二つ名をつけられているビリーにとってはおもしろくないらしく、わかりやすく皮肉を込める。
「そんなに格好いいものではありませんからご安心ください」
「ビリーは放っておいていいですから!アヴェさん、教えてくださいよ」
ビリーに思い切り舌を出しつつ、続きを促すチェイネル。アヴェは二人に苦笑いを送り、仕切り直しにと咳ばらいをした。
「僕の二つ名は“先見の素通し”といいます」
「……すどおし?前菜的な?」
「なんでそこでメシが出てくるんだお前は」
「“先見の素通し”。僕が得意とするのは遠方への射撃です」
「ああ、それであのスコープ」
思いだすのはやたら砲身の太いランチャー。彼の骨格に合わせて位置が調整された長いスコープは、かなりの距離を見渡せそうなものだった。
「弾のデカさで補ってるんじゃねェの?んな大味な武器で弾道なんて読めるのか」
「おや、侮ってもらっては困りますね。これでも僕はギルド内じゃ有名な方ですよ」
記憶の片隅にそんな二つ名があったような、なかったような。ビリーは首をかしげて視線を浮かせる。
彼は他人にあまり興味を持たなかったせいではっきり覚えている方が珍しい。ぼんやりと記憶しているなら、それはそこそこに腕の立つ賞金稼ぎという事になる。
「そんな凄腕の人と組めるなんてすごいな~~!ね、ビリー!」
チェイネルはアヴェの話を疑うことなく目を輝かせた。
「あーはいはい」
「私も欲しいな、そんな二つ名」
「俺みたいに変な方向にねじれたら仕事になんねェよ。なくていい」
そんなあ、と残念そうに眉をハの字にするチェイネル。腕が良くなければ二つ名で呼ばれることすらない。とはいえ、ビリーのように不利になる二つ名もあるのは事実だ。
「あはは、あまり評判は気にしなくても大丈夫ですよ。
僕も元はこの眼鏡からついたあだ名のようなものですしね」
「眼鏡が?素通しって確かレンズすらついてないだろ、お前のは……」
「入ってませんよ」
「え?」
「ですから、入ってませんよ、度数。僕、目はいいので」
ビリーとチェイネルは互いを見て、またアヴェへと視線を戻す。
「……なんでかけてんだ、ソレ……?」
「照準補助の代わりみたいなものですね」
「えっと、つまり伊達めが……」
「だ、伊達ではありませんよ!!二つ名は!!」
どうでもいい二つ名の秘密を知った二人だった。
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