第67話 赤い瞳と無邪気な笑顔



 論功行賞の後は、そのまま流れるように宴会が行われた。

 なんだか頻繁に宴会をしている気がしないでもないが、皆それなりにストレスは溜まっていただろうから、ガス抜きは行っておく方が良いだろう。


 宴会がお開きになった後、俺は先日建てたお墓の前に来ていた。



「……済まない。これくらいしか回収できなかった」



 俺はそう言葉にしながら、墓場の前にいくつかの小物を備えていく。

 この小物は、バラクルのアジトから回収出来た小人族達の遺品であった。

 集落にはほとんど何も残されていなかったので、恐らくバラクルが魔獣達に回収させたのだろう。



「……………………」



 手を合わせ黙祷する。

 こんなことが果たして弔いになるのか、そんな思いが胸をよぎるが、俺にはこんなことくらいしかできない。

 それが例え、自己満足や偽善であったとしても……



「トーヤ様……」



「……アンナか」



 相変わらず、彼女の気配は掴めない。

 『繋がり』による感情の流出に関しても、教えた途端俺達の誰よりも上手くコントロールしてしまった。

 圧倒的な才覚に、将来的な期待と不安が同時に募る。



「トーヤ様、以前も忠告しましたが、気に病めば心を壊しますよ」



「……ああ、そうだったな」



 そう言って自然と空を見上げる。

 ――満点の星空。

 この目に見える星々が本当に星なのかはわからないが、壮大なものを見ると少し心が洗われる気がする。

 メンタルの強さには自信があったのだが、やはりここの所の出来事は俺に負の感情を溜め込ませていたようだ。



「トーヤ様、私達はトーヤ様に救われました。貴方は間違いなく、私達の恩人です。でも、その恩人がそのように気を病んでいますと、私達も心配になるのです……。だから、どうか……」



「……そうだな。気を付けるよ。……やれやれ、俺はどうにも情けないね」



「そんなことはありません! トーヤ様は心優しく、強いお方です。それに、今日はわざわざ私達の為に、あの商人を討ってくれたのですよね? そんな方を情けないなど……、誰が思うでしょうか!」



「……気づいていたのか」



 ドグマの屋敷から救出した子供達は、現在元オークの集落に匿っている。

 彼らが城の子供達と合流するのは、明日を予定していたのだが……



「コルトは、わかり易いですから……」



「……やれやれ、アンナはなんでもお見通しだな」



「……私は、私だけは貴方の理解者になりたいと、そう思っているだけです」



 こんな少女にここまで心配されている時点で、十分情けないと思うんだけどな……

 しかし、こうまで信頼されて応えないワケにはいかないか。



「……ありがとう、アンナ。じゃあ俺も、君が抱えているものを背負わせて貰おうかな」



「……トーヤ様?」



 俺は彼女の背後に周り、目を塞ぐように手で包み込む。

 そして空を見上げるように、優しく傾けた。



「アンナは、星を見たことあるか?」



「いえ……」



「そうか。今日はさ……、満点の星空で、とても綺麗なんだよ」



「トーヤ、様? 一体、何を?」



 俺はアンナの言葉には応えず、自らの手に魔力を集中する。

 もちろん、攻撃の為ではない。

 これは、アンナの精霊との対話の為だ。



「……………………………………」



 寒空の下、虫の声さえ聞こえない静寂が俺達二人を包み込む。

 しかし、その静けさとは裏腹に、俺とアンナの間では激しい意識のやり取りが行われていた。

 ……やがて、俺と精霊との交渉が終わり、真の静けさが舞い降りる。



「……よし、もう良いよ。目を開けてごらん」



 俺の言葉に、アンナは困惑した表情を見せる。

 俺はそれを安心させるように、彼女の頭を撫でてやった。



「大丈夫。アンナの精霊は頑固ものみたいだけど、ちゃんと俺の声に応えてくれたから」



「……トーヤ様、貴方がそう言うのでしたら、きっと開くのでしょうね。……ですが」



 そう言うとアンナは、急に振り返り、背伸びして俺の両頬を包むように手を添える。



「この目が最初に移すのは夜空でも、星でもありません。貴方です、トーヤ様……」



 そう言って、アンナはゆっくりと瞼を開いて見せた。

 俺の目と、彼女の紅く美しい目が合う。



「ふふ……、これからも、宜しくお願いしますね。トーヤ様」



 そして、彼女は悪戯に成功した子供のように、無邪気に笑って見せた。





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