第66話 論功行賞
「それでは、彼等については故郷に帰れるよう手配いたします。ただ、拒否された場合については……」
「ああ、わかっている。その場合はウチに連れて来てくれ。今更一人二人増えた所で大差無いしな」
「ありがとうございます。代わりにというワケではありませんが、臨時収入がありましたので、地竜の素材は多少色を付けて引き取らせて頂きましょう」
「助かるよ」
ソウガにはこの件とは別に、地竜の素材についても買取を頼んでいた。
自分達で利用することも考えなくは無かったが、やはりそれ以上に汎用的な資材の方が欲しいと判断しである。
一部の者に高級な装備を行き渡らせるよりも、全員に満遍なく安価な装備を行き渡らせる方が遥かに重要だ。
……まあ、当然少しは手元に残しているけどな。
「それから……、その子龍についても、そちらで管理をお願いします」
「……懐かれてしまった手前、そうするしか無いとは思うんだが……、いいのか? 竜種……、それも有翼種を手元に置いて……」
あの謎の部屋にいた子龍は、どういうワケか俺に懐いてしまった。
インプリンティングというワケでも無いだろうし、全くの謎である……
あの部屋の存在やこの子龍には、絶対に何らかの意図を感じるのだが、それがどうにもわからない。
何かの企みなのかもしれないが、どうにも悪意があるようには思えないし……
「キュ?」
無邪気そうに首をかしげる子龍。
その反応を見ると、猜疑心など全く抱けなかった。
(もしかしたら、あまり深い意味は無いのかもな……)
なんらかの意図は感じるが、あまり明確な意志のようなものが感じられない。
ただ、この大雑把なやり方については、俺を森に放置した件と通ずるモノを感じる……
「……前例のないことですからね。正直、その判断すらできないとしか言いようがありません。ですので、ここは封印を解いたトーヤ様に任せるのが一番かなと」
「……結構投げやりだな」
「投げやりにもなりますよ……。もうこれ以上、面倒事を増やさないでくれませんか?」
「そんなこと言われても……」
ソウガは余裕そうに見えるが、実際はこの件や地竜討伐の件で色々大変なのだろう。
その原因の全てが俺の案件の為、それ以上何か言う気にはなれなかった。
しかし、封印か……
まあ、科学技術を知らない者が見れば、そう見えるのかもしれない。
ソウガは俺が扉を開けるのを見て、心肺蘇生の時と同様、なんらかの秘術を使ったと思っている様だ。
その方が都合が良い為あえて否定はしないが、いつの間にかソウガの中では俺が秘術士の様な扱いになってそうだな……
「……まあ、法に反しているとかで罪に問われるとかじゃなきゃいいよ。……それにしても今更だが、近衛兵長が単独でこんなことしてて良いのか?」
「問題ありません。何せ私はあのキバ様付の近衛ですので……。ご存知の通り、キバ様には盾役など必要ないというか、それに足る人物が存在しませんからね。その分、私達は手足として働くのが基本なのです」
……確かに、あの魔王の実力を考えれば、他の者は剣にも盾にもなれはしないだろう。
なにせ、剣を振るより腕を振った方が強いのだから。
「それに現在、王とタイガ様は亜人領西部の平定に出向いています。右大将が傍に付いているのであれば、私など必要ありませんよ」
「そんなことはないと思うが……」
俺から見て、ソウガの実力は相当なものだと思う。
それに今回のような雑用や文官としての仕事などを考えれば、あのいい加減な魔王にとって欠かせない存在なんじゃないだろうか。
「さてさて、それでは私はこれにて失礼いたします」
「ああ、色々と世話になった。また何かあったら頼むよ」
軽く会釈してソウガ達は去っていく。
「さて、俺達も帰るか」
「……あの、俺が言うのも何ですが、本当に大丈夫なんですか? こんな人数引き取って……」
「……まあ、大丈夫だと思うよ」
コルトに対し、俺はやや曖昧に返す。
今回の主目的は、アンナ達をつけ狙うドグマ達の排除だった。
他の子供達の救出についても当然考えてはいたが、正直ここまでの大所帯になることは想定していなかった。
しかしまあ、城には十分な広さの部屋もあることだし、多分大丈夫だろう……
「トーヤ、準備出来たよ!」
「ああ、今行くよ」
準備をしていたライから声がかかる。
荷台には、所狭しと少年少女達がひしめいていた。
(……うん、狭いね)
残念ながら、馬車二台程度では足りなかったようだ
引き取った子供達は十四人だが、種族により体格が大きく異なるので、ほとんどすし詰め状態である。
「全員乗ったね? それじゃあ、出発するよ」
◇
「え~、それでは戦に勝ったってワケじゃ無いが、論功行賞と、新たな仲間の紹介をしたいと思う!」
レイフの森に帰った翌日、俺は戦いに参加した各位を、城に
色々とドタバタしていて後回しにしていた、論功行賞――つまり褒賞の授与だったり、新たに加わった仲間の紹介をする為である。
……俺って別に王とかじゃないのに、なんでこんな場所作ったんだろうな……
まあ、在るものは有効活用するけど……
「まずは新たな仲間についてだけど……、ガラ! 前に出てくれ!」
声をかけると、気まずそうに前に出てくるガラ。
大柄で横柄そうな見た目の割には、意外と繊細な所があるのかもしれない。
「地竜討伐に参加していた者は知っていると思うけど、ガラは元々バラクルに雇われていた傭兵だ。あっさり切り捨てられた可哀想な奴だが、地竜討伐には多大に貢献してくれた。その腕を見込んで、ウチで改めて雇うことにした」
「……ガラだ。以前は敵対関係だったが、あんた達に対して敵意は無い。むしろ、見捨てられた俺を拾ってくれたことに感謝しているくらいだ。……使い捨てるくらいの気持ちでも構わない、宜しく頼む」
「……ひとまず、ガラに関しては試験雇用として雇うつもりだ。それで特に問題なければ、軍の一員になってもらう。実力については、実際に戦ったガウが証明してくれると思う。……それからもう一人、そこにいるサンガという男も雇うつもりだ。サンガは……、まあ見ての通り小間使いにはピッタリだと思う」
「ガラさんとの扱いの差が酷過ぎやしませんか……? え~、私はサンガと申します。私は元々雑な扱いを受けてまして、気づいたら見捨てられてました……。正直、まるで信用は無いと思うんですが、命を助けられた身ですし、トーヤ様には誠心誠意つくしたいと思っています。はい」
特に指示していないのに、わざわざ前に出て自己紹介を始めるサンガ。
案外悪い奴では無いのかもしれないが、小物臭さというか、うさん臭さというかが邪魔して、正直信用できない。
ただ、ガラ曰く、アイツは大丈夫だろうとのことなので様子見である。
「それから、今回の件を聞きつけて、西の住人が数名この集落に合流を申し出ている。それについてはゾノとライに任せているが、特に問題ないようであれば招き入れたいと思っている。仲間については以上だ」
西の住人については、今でこそ数人だが、これから増える可能性がある。
北の勢力を脅威に感じている者や、なんらかの確執を持っている者もいるようだし、色々と情報も聞き出せそうだ。
ただ、やけにイオに執着している奴がいたので、そいつについては若干心配だが……
「続いて、地竜討伐の功労者に対し褒賞を与えたいと思う。まずはスイセンとシュウ、前へ出てくれ」
俺の呼びかけに応じ、スイセンとシュウが前に歩み出る。
「地竜との戦いに参戦した者も、集落の守っていた者も、皆等しく労いたい所だが、危険と功績を踏まえ、特に活躍してくれたこの二人を、今回は表彰したいと思う。まずはスイセン、地竜を倒した一撃は見事としか言いようが無かった。特に、最後の機転が無ければ、あの地竜を倒すことはできなかったかもしれない。よって、多大な報酬を……、と言いたい所なんだけど、済まない……、ウチにはあまり高価な報酬を用意する財力は無いんだ……。だから俺の手作りの品で悪いが、受け取って欲しい」
「え? トーヤ様の手作りですか?」
「ああ、悪いね。まあ見栄えは悪くないと思うから、我慢して欲しい」
「あ、いえ、むしろ凄く嬉しいと言うか、光栄というか……」
「そう? とりあえずまずはこれ。
「………………へ? り、竜紅玉!?」
「ちょ!? トーヤ殿!?」
周りが騒めき始める。
あれ? まずったか?
「そ、そんな大それた物、受け取れません! 竜紅玉と言えば、国宝に値する宝玉ですよ!?」
「あー、確かにソウガがそんなこと言ってたね。でも、この大きさだとそこまでじゃないらしいよ? だから問題無いハズだ」
「そ、それにしたって、宝珠であることには変わりありません! 受け取れませんよ!」
そんなことを言われても、もう加工してしまったし困るんだよなぁ……
それに、竜紅玉には微量ながら魔力を生み出す性質を持っている。
獣人の中でも魔力が少ないことを気にしていたスイセンさんには、ピッタリの品であるのだ。
「と、とにかく、これは決定事項! 拒否は受け付けない!」
「ト、トーヤ様……」
「それから、これは竜鱗で作った手甲。この二つで、今後増々の健闘を祈るよ」
「あ、有り難き、幸せです……」
俯いて涙ぐむスイセン。
ここまで感激されるとは、ちょっと思っていなかった。
まあ、お手製の褒賞でここまで感激されたのだから、悪い気はしないが……
「次にシュウだ。シュウがいなければ、あの地竜を抑え込むことはできなかったと思う。その功績を称えて、スイセンさんと同じ手甲を贈らせて貰うよ」
「ハッ! 有り難き幸せ!」
おお、シュウもこういう時はしっかりしているな……
普段の言動がアレなので、少し意外である。
「それから、二人には今後、ガウやリンカと同様に分隊を任せたいと思っている。ただ、人数的な問題もあるから、暫くは他の隊より規模が小さくなりそうだけど……」
とはいえ、これは前々から考えていたことである。
現在、分隊クラスのまとめ役はガウ、リンカ、ゾノ、ソク、そして俺がこなしている。
これはあくまで種族ごとの代表格を基準にしているだけであり、厳密に構成された部隊編成ではない。
ここから先、軍の規模が大きくなるにつれ、そうも言ってられなくなる為、早いうちに手を打っておきたかったのだ。
「わ、私が兵長……」
「それについてはトーヤ様、一つ提案があります」
「ん? なんだ? シュウ」
「この度の功労は、トーヤ様にも多分に有ると思われます。そこで、スイセンをトーヤ様の近衛にしてはどうでしょうか?」
「な!? シュウ!?」
近衛、近衛かぁ……
確かに、今はライしかいないんだよなぁ……
でも、それって俺に対する功労になるのか?
有り難いのは確かだが、報酬というには少し違う気がする。
「現在、トーヤ様の近衛はライ殿のみです。これでは些か人数的に心もとないかと。かといって、リンカ様やガウ殿、イオ殿をその候補にあげるのは、現在の軍の規模から考えれば問題があります。そうなると、スイセンはまさに打って付けの存在と言えるでしょう。何より、その方がおもし、いえ、リンカ様やスイセンの為にもなると思います」
「ふむ……」
……シュウってあんな真面目な顔しておきながら、内心ニヤニヤしてそうだよね。
おもしって、面白いって言おうとしたよな、絶対……
まあでも、言ってることはもっともである。
「えーっと、スイセンはどう? 俺の功労とかそういうのは抜きにして、正直に答えて欲しい」
「へ!? あ、いや、もちろん光栄ですが! 私などでは……」
「いやいや、私などって、流石に卑下し過ぎでしょ……。じゃあ問題無いのなら、スイセンには俺の近衛になって貰おうかな。部隊の規模に関してもこれで幾分か緩和されることだし」
「え……? あの、本当に……?」
「ああ。スイセンさんのことは本当に信頼しているからね。是非、宜しく頼むよ」
「そ、そんな……。……いえ、その、わかりました。私は、トーヤ様の信頼に応えるべく、これからも精進して行きたいと思います」
スイセンの覚悟を帯びた凛々しい瞳に、やや気圧されてしまう。
俺はそれを取り繕うように笑顔を浮かべながら、続けてコルト達の扱いについて説明するのであった。
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