第33話 対魔王戦②
「ハァッッッ!!」
裂帛の気合と共に、ジュラの一撃が振り下ろされる。
それに続くように、デイ達が連携をとってそれぞれ攻撃を加えていく。
「っと、なんだぁ? 小細工は終わりか? なら、遠慮しねぇぞ!」
魔王はジュラ達の攻撃を軽々と受け止め、振り払うように腕を振るう。
それだけでトロール達は吹き飛ばされるが、『剛体』によりダメージは皆無だ。
攻撃を受けなかった者は間髪入れず、魔王に大剣を叩きこむ。
「無駄無駄ぁ! そんなんじゃ防ぐまでもねぇぞ! 最低でも3発は同時に打ち込んでこいや!」
言った通り、魔王は大剣の一撃を防ごうともしなかった。
ギイの一撃は肩口に叩きこまれ、同時にゴムか何かに弾かれたように跳ね上がる。
「オラ! 隙だらけだぞ!」
ギイのがら空きになった腹部に拳が叩き込まれる。
当然、これも『剛体』で防がれる。
が、衝撃を足が支えきれず、他の者達と同様、後方に吹き飛ぶ。
それにすれ違うように、先程吹き飛ばされた者達が再度攻撃をしかける。
「チッ、昼のトロールは本当にメンドクせえなぁ……。俺が言えた義理じゃねぇけどよ」
作戦③は非常に単純だ。①、②で削った魔力に対する持久戦。
魔王の魔力が無限では無く、単に大容量なだけであれば、先の攻撃で大幅に削られているハズだ。
それを見越し、陽の下であれば常時『剛体』を維持できるトロールで攻勢に出る。
目論見通りなら、そろそろ真面目に攻めてくると思うのだが……
「言っておくが、俺の魔力切れを狙っても無駄だぞ? 俺の魔力は別に無限ってわけじゃねぇが、残念ながら他の奴等とは容量の桁が違うんでなぁ。このまま繰り返しても、お前ら程度の攻撃じゃ三日は余裕で凌げるぞ?」
マジですか……
いやいや、敵の発言を鵜呑みにしてどうするんだ!
……でもあの魔王の事だから、嘘は無いよな……。多分だけど。
ギイがこちらに目配りする。
俺はそれに
(いや、ひとまずは続行だ……)
作戦④も結局、手数が有ることに越したことは無い。
このまま攻勢を維持し、隙を伺うのが得策だ。
「なんだ、続けるのか? 俺は飽きたんだがなぁ……。ん~、よし、お前らも色々と『剛体』対策を練っているみたいだから、一丁俺からも披露してやろうか」
『剛体』対策? 何をする気だ……?
警戒度が一気に跳ね上がる。
俺は、魔王の挙動を絶対に見逃さないように集中する。
すると、魔王が大きく息を吸い込んだ。
それに伴い胸が……、いや、肺が膨張している? ま、まさか…、まずい!!!
「全員耳を塞げ!」
警告を発した直後、魔王が大きく口を開く。
「カァッッッッッッ!!!!」
その瞬間、魔王を中心に空気が鳴動した。
「クッ……!?」
凄まじい衝撃に、思わずよろめいてしまう。
耳を塞いでこれかよ!?
魔王が大声を出すことは予測できたが、まさかここまでの衝撃を放つとは……
確かに音とは空気の振動なのだが、ここまで威力が出るのであれば、衝撃波と言っても良いレベルだろう。
衝撃の余韻から立ち直り、辺りを見渡す。
ギイ達は……、駄目だな……、全員倒れ伏している。
後方のザルア達術士チームは、膝を付いている者もいるが基本的には無事なようである。
ライ、イオは反応が間に合ったらしく、俺と同じように耳を塞いでいた。
ガウは……、何故か平然としているな……
ライとイオは、感覚の共有で俺の焦燥感を感じ取り、瞬時に対応できたのだろうが、ガウはどうして平気だったのだろうか?
「ガウ、お前、大丈夫なのか?」
「……いや、音が聞き取りづらい。鼓膜は破れたようだ。だが聴覚の遮断は間に合った。鼓膜も陽の下ならすぐ回復するはずだ」
ここまで来ると聴覚ってレベルでも無い気がするが、聴覚の遮断は内耳神経を守る性質があるのかもしれない。
また、距離が離れていたことも幸いしたのだろう。
他のトロール達も、聴覚遮断が間に合った者はいるかもしれないが、至近距離であの衝撃波を浴びたのだから、内耳の器官や肺、その他の神経を損傷している可能性は高い。
「ん、ん~? 驚いたな。この距離なら全員昏倒くらいはさせられると思ったが、久々で鈍ったかねぇ? ……まあ、直前でで反応してたからなんだろうが、まさか初見でコレを見抜く奴がいるとは思わなかったぜ」
初見は初見なんだが、幸いなことにこの『剛体』破りは俺も検討したことがあったのだ。
結局は音響兵器レベルの音量を出すことや、周波数の調整が不可能だったので没になったのだが、まさか魔王自身がやってくるとは思いもしなかった……
魔王と俺達との距離は、メートル単位で言えば大体40~50程度だろう。
この距離でガウの鼓膜が破れたということは、魔王の咆哮は少なくとも190デシベルを超えている。
まあ、デシベルという単位自体は、あくまで地球の大気を基準としたものなので正確とは言えないかもしれないが……
しかし、人間の出せる声では、確か最高でも120デシベル程度だったハズだ。
それを考えれば、魔王の声量は明らかに異常と言っていいだろう。
もちろん、獣人だからというのもあるのかもしれないが……
「ま、やり過ぎると俺も無事じゃいられないし、久しぶりにりちゃ上出来ってことにしとくかね。……さて、次はどうするよ?」
……作戦を、④に切り替えるしかないだろう。
手数は減ってしまったが、それも一応想定範囲内ではある。
あの咆哮は想定外だったが、息を大きく吸い込む隙を与えなければ使われる心配は薄れる。
「ゾノ! ザルアさん! 俺達が戦闘に入ったらギイ達の手当てを頼む!」
「わ、わかりました」
ザルアが頷き、ゾノはすぐに準備に入る。
「ガウ、行けるか?」
「問題ない」
「トーヤ、あまり無茶しないでよ?」
「ライこそ、まだ『剛体』は使い慣れていないんだろ? まともに攻撃受けるなよ?」
「……私には何かないのですか? トーヤ」
「……イオは最大戦力だ。正直期待している。けど、くれぐれも無茶だけはしないでくれよ」
この状況でイオが負傷などしたら、完全に詰みである。
「ふふ……、では期待に応るとしましょうか」
イオは俺の言葉に満足そうな笑みを浮かべ、剣を引き抜く。
「これで決められなかったら、正直もう後が無い。心してかかろう」
作戦④は俺達4人でしかける近距離戦。
死ぬかもしれないという恐怖を、仲間たちへの信頼で抑え込む。
「行くぞ!」
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