第10話 夜間防衛戦④
嵐のごとく振り回される二対の大剣。
単純に倍になったわけでは無いが、先程までに比べて明らかに手数は増えている。
躱しきれず、武器で捌かざるを得ない事も多くなり、徐々に棍棒自体の欠損が増え始めていた。
いくら精霊による強化をしているとはいえ、所詮は木製の棍棒である。
真っ向から岩の大剣を防げる強度が有るはずも無かった…
「ふん、少しは必死さが出てきたではないか! それでいい!」
「くっ…!」
必死も必死、命からがらだ。
放たれる剣撃は、どれも触れるだけで致命傷になりかねない威力を持っている。
対応を一つでも間違えば、俺は確実に死ぬだろう。
「ハッハッハッ! 調子が出てきたようだな! 先程までとは比べ物にならない程良い突きだぞ!」
調子が良いなど、冗談ではない…
これはむしろ、消える前の蝋燭に近い状態だ。
確かに今の俺は、先程よりも動きの切れが良くなっている。
幸か不幸か、死がより現実的になる事で動きに迷いが消えたのだ。
お陰で攻めに無駄が無くなり、ガウの猛攻に辛うじて空隙を作ることに成功している。
そうでなければ、俺はとっくに死んでいたであろう。
「っはぁ…、はぁっ…」
しかし、それでも限界は確実に近づいてきている。
呼吸も大分乱れているし、いよいよ体力面でも怪しくなってきた。
(ライ、すまないが、もたないかもしれん…)
絶望的な状況を前にして、俺の心が折れかけた。
そんな心の隙を、ガウは見逃さなかった。
「シャァッ!!」
「っ!?」
俺の動きが鈍ったのを好機と判断したのか、これまでの左右の連撃とは異質の攻撃が繰り出される。
(袈裟切りと、対となる切り上げの同時攻撃!?)
ガウの攻撃のについて、頭は一瞬でその性質を読み取る。
とはいえ、それがわかった所で、挟み込むように放たれた攻撃は回避が極めて困難であった。
その絶望的な状況に、俺は死を覚悟する。
…しかし、その状況に抗うかのように、俺の体は自然に反応していた。
対角線上を同時に迫る攻撃、それに対し棍棒を斜に構え、軸を合わせる。
同時に、安全圏である右上の空間目がけ、俺は全力で跳びあがった。
棍棒は一瞬で砕けたが、その一瞬のお陰でなんとか攻撃範囲外に離脱することが出来…
「っっっがっ!」
否、どうやら完全な回避は出来なかったようだ。
掠めた攻撃に吹き飛ばされ、俺は数メートル近く先の木に叩きつけられた。
「っ痛ぇ……」
凄まじい衝撃ではあったが、なんとか命を拾うことは出来たらしい。
すぐにでも離脱しようと立ち上がろうとした所、失敗して無様に転げてしまう。
…右足の感覚が、無くなっていた。
ガウの攻撃は、部位的に一番抜けるのが遅かった蹴り足を掠めていったらしい。
慌てて右足があるのかを確認すると、辛うじて切り飛ばされてはいなかった。
もっとも、足は脛の辺りから変な方向に曲がっており、とても無事とはいえなかったが…
「…ほぅ、一瞬諦めたように見えたが、あの状態から生き残るとはな。大した男だ」
「お、俺も驚いているよ。意外と生存本能が強い方らしい、な…」
「…だが、それも終わりだ。その足では次は躱せまい」
その通りだ。
正直、今ならどんな攻撃が来ても避ける自信はない…
しかし、不幸中の幸いとでも言うべきか、痛みのお陰で先程折れかかった心はどうにか持ち直すことが出来ていた。
それに加え、たった今、別の希望が浮かび上がってくる。
その希望の正体は、「繋がり」から流れ込んでくる、焦燥感と使命感であった。
「…へへっ」
「…? この状況で何故笑う?」
「別に…、大したことじゃないさ。単に、俺の相棒がアンタの仲間を倒したみたいでね…。そいつがもうすぐ、ここに駆け付けるってだけの事だよ。…俺の相棒は、強いぞ?」
「ほう…、それは楽しみだ。…だが、それでも貴様の運命は変わらんぞ。俺は、先程の決意を変えるつもりは無い。その相棒とやらが来る前に、貴様は死ぬ」
ゆっくりと、ガウがこちらに近づいてくる。
眼前に迫る死を前に、俺は精一杯強がるように笑って見せた。
「そうならないように、悪足掻きをさせて貰うさ…」
同時に、俺は背にした大木に語り掛ける。
「木々よ…、力を貸してくれ。あいつの動きを止める、力を」
その呼びかけに応えるように、大木が、そして周りの木々が騒めき始める。
それぞれの木に残っていた枯れ葉が、俺を覆い隠すように降り注ぐ。
「っ!? これは一体…。いや、まさか…、貴様、木に宿る精霊を…!?」
「さあ…、第2ラウンドだ。あんたには悪いが、精一杯逃げさせてもらうぜ…」
そして、俺の言葉に呼応するように、周囲の木々から無数の蔦が放たれた――。
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