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第11話 白狼の森、到着

 最初の目的地はビギナー冒険者が集う場所の一つ、通称『白狼の森』。初心者向けの魔の種の生息地はクローセン王国内、周辺に数カ所ある。城から半日の距離にあり、今はちょうど『白狼の森』が活気付く季節だったためここが選ばれた。


「この森で実戦の経験を積むってわけなのだわ。

 いいこと? 実戦ではチームワークが大事なの。それぞれの呼吸が合わないと、ベテランでも雑魚相手に負けることがあるんだから」

「それならわたしとアナはバッチリね!」


 楽勝モードで臨んだ初陣がどうなったかというと――。


 round,1

 人型のキノコ(約75シンク、つまり150センチ。ひょろひょろした手とずんぐりした足が胴体部分から生えていて、顔はない)。


「だから初っ端から状態異常をしかけてくる敵はやめようって言ったんじゃん‼︎」

「イヤーッ、ヒリヒリするっ! 早く治して!」

「だって、ポイズンマッシュルームは湿った土地でじっと座ってるだけで、基本的に、人が近づいても無反応だから、簡単だと思ったの!」

「水! アナベル、水出して! 洗い流すから!」

「うっ! でき…」

「はぁ⁉︎」

「できないのよ!」


 round,2

 始祖鳥のような鳥型の魔の種(頭部は鳥の姿。首をもたげたときの高さ、羽の少ない翼を広げたときの横幅約100シンク。尾が長く、翼には指と鉤爪が生えている)。


「あの魔の種はアーケラスというの。クチバシと爪で攻撃してくるのだわ」

「デカイって」

「何言ってんの。あれくらい倒せなくてどうすんのよ。行くよ、アナ!」


「つぅ〜〜っっ!」

「何か作戦があって飛び出したのかと思ったら! 言わんこっちゃない!」

「ジャンプして飛びかかってくるなんて…。でも、魔法で攻撃しようとしたらララにも当たりそうだったし…」


 round,3

 小型の哺乳類系の魔の種(丸い輪の模様が個性的な小さいイノシシ。名称、イエチュー。群れで行動している)。


「やった! 1匹倒したわ!」

「あれだけの大技使って倒したのが、1匹って…」


 根本からへし折れた大木とトラクターで掘り返した後のような地面。ララの魔法弾の通った跡である。


 ※


 日が落ちかけた夕食時、食堂となっている宿屋の一階はガヤガヤと騒がしい。温かい湯気が立つ厚切り肉とフライドポテトの大皿料理、上々の成果を上げたのだろうグループの「乾杯‼︎」の音頭で掲げられるジョッキ、テーブルの横には身の丈程の大剣が立てかけてある。満席の食堂内はこれぞまさに冒険者たちの姿、という様子だった。

 その片隅にサトミら3人は席をとっている。どんよりとした空気をまとって。

 注文したパンとポークソテーっぽい料理(豚肉ではない可能性もある)、付け合わせのサラダ(ドレッシングの量が皿によって異なる。盛り付けが雑)を黙々と食べる。最後にララが食べ終えるのを待って、アナベルが口を開く。


「今日の反省会を始めましょう。まず、各々の働きについて述べてゆきましょうか」


 重苦しい空気の中、アナベルが仕切って反省会が始まったので、里見は手を挙げる。


「じゃあ、俺から。今日の俺たちは、… …全然ダメだったな」


 里見の発言にララは腕組みをしてそっぽを向き、アナベルはガックリ俯く。


「明日は行き当たりばったり出たとこ勝負じゃなく、作戦を練って取り組もう。アナベルは魔の種について詳しいんだから、戦闘開始の前に特徴を俺らに教えてくれ。ポイズンマッシュルームだって胞子を飛ばして状態異常系の攻撃をしてくるってわかってたら、風上から仕掛けるとか、それこそアナベルの風魔法で防いだりできたと思う。俺も治療師として駆け出しなんだから、事前に準備できたらその分2人が助かるんだぞ。

 ララは…前衛としてもうちょっと上手く立ち回って粘ろう。直ぐに戦線離脱されたら困る。剣で有効打を与えられなくってもいいんだ。程々に弱らせて動きが鈍くなれば、アナベルの遠距離からの魔法があるんだから。

 勝ち負けも大事だけど、明日は連携重視で、周りを見て動けるように気をつけてやろう」


 腕を組んだまま、不服そうな様子でララが反論する。


「美味しいところは人に譲れっていうの? 意味わかんない。大体、何にもしてない人間がにアレコレ言われたくないんだけど」

「あんたがポイズンマッシュルームの毒胞子にやられたのを治したのは俺ですけど。治療師なんだから、戦闘中に出番がないのは当たり前でしょうが」


 ズバリ、すかさず里見が切り返すとまたララは顔を背ける。一方、落ち込んだままだがアナベルは里見に賛成した。


「前もって打ち合わせをしてから、というのは私も賛成なのだわ。確かに今日のは…悲惨だったから」


 まだまだ聞きたいこと――アナベルの魔法で水が出せないという発言やララの魔法弾の過剰な威力について――はあったが、3人ともこれ以上はなじり合いが始まりそうだと感じて自然と反省は打ち切られる。

 出発前から女子2人の里見に対する好感度は低かったのだ。それを思い出すと里見の口も重くなる。城にいたときの『話しかけんな』状態と比べればマシになっているのかもしれない。


「部屋って何号室なの?」

「まだよ。これから言いに行くのだわ」


 はい?


 里見とララが腰を浮かせかけたまま、ぴたっと動きを止める。アナベルはそんな2人を見て、きょとんとしている。


「… …今から部屋を取るの?」

「ええ。それがどうしたの?」

「今からいって、空いてると思う?」


 食堂内は満席。宿屋は一階が食堂、二階に人を泊めるようになっている。おそらく今ここで食事をしている者たちは、ほぼ全員がそのまま二階に泊まるだろう。アナベルは自分の失敗に気がついたらしく、しまったという顔をする。


「女将さんに聞いてくるのだわ!」


 小走りで人混みに消えていったアナベルを見送り、里見は上げかけていた腰を元の場所へ戻す。テーブルに肘をつき手のひらで額を支える。アナベルには悪いが、残りの気力が一気に抜けていった。大きなため息をつく。


「最悪、野宿だな」


 ララの「嘘でしょー」の声に、もう一度ため息が出た。


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