4 姫様と顔を合わす
派手なスラスター噴射と無意味な機動。目立つ突撃で敵のカーニヴァル・エンジン部隊に襲い掛かる。わざと攻撃に失敗して、敵を逃し、しつこく追撃してそいつが救援信号を出すのを待つ。
空にいた敵がベルゼバブを包囲するように集まってきて砲火を浴びせてくる。逃げる振りをして要塞方向へわざとらしく撤退してみせ、ウォール・シールドの境界を越える。
流れ弾が要塞に向かわないよう、高い高度を維持するが、クルーザー回避法を使った回避にも限界がある。かなり無理してカーニヴァル・エンジンの一部隊をナヴァロン砲の有効射程内に引きずり込み、モーツァルトの「もう充分だ」の一言を合図に、落っこちるような下方への回避を行ったとたん、黒い砲弾がさっきまでヨリトモの乗っていたコースに撃ち出された。
タイミングはばっちり。ばっちり過ぎて恐ろしいほどだ。本当にちゃんと狙って撃ったのか、偶然ヨリトモがよけられたのか、区別がまったくつかない。
ベルゼバブと入れ違うように上空に出現した黒い砲弾がカーニヴァル・エンジンの一部隊をひっさらうように力場に捉えて圧壊させた。生き残った敵機が慌てて回避運動をとるが、その動きを先読みしてヨリトモのベルゼバブが襲い掛かる。何機かは逃したが、充分な戦果だ。
「いい腕だ、オガサワラ」
モーツァルトが伝えてくる。
「もう一度やる。今度はそんなに集まらないと思うが、それが狙いだ」
ヨリトモは同じように飛行する敵機を掻き回し、逃げる振りをしてナヴァロン砲の射程内に引きずりこもうとしたが、モーツァルトの言うように、今度はみな警戒してそれほどの機数は誘い込めない。
ヨリトモはさっきと同じ機動で急降下し、入れ違うように今度もナヴァロン砲の黒い砲弾が空を引き裂いたが、撃墜できた数は10機にも満たない。急旋回したベルゼバブは、今度は上空の撃ちもらしを狙わず、そのまま地表すれすれを飛行して地上から接近する部隊の中に切り込んだ。
ナヴァロン砲を恐れて広がっていた地上部隊だが、速度の出ない地上移動のため、あまり遠回りも出来ず、必然的にベルゼバブが入り込める程度に密集せざるを得ずにいるところを、ターボユニットを始動させたベルゼバブの接近攻撃に次つぎと倒されていく。
さらに要塞からの対消滅兵器の援護が加わり、カーニヴァル・エンジンの陣形は崩れはじめた。
ベルゼバブに撃墜された敵と要塞セスカに迎撃された敵。
様子見に出撃してきて、そろそろ引き上げはじめる敵プレイヤーもいる。
日本時間で深夜の2時もとっくに過ぎている。
翌日、というより本日が休日とはいえ、大半のプレイヤーが接続を切り始め、カーニヴァル・エンジンの数が目に見えて減りだした。
あれほどいた敵が潮が引くように姿を消してゆく。強敵ベルゼバブを前にして、鉄壁の要塞に単独で挑む物好きもいないらしい。人形館のカーニヴァル・エンジンはさっきまでの大攻勢が嘘のように姿を消し、白い太陽が真上から照りつける熱砂の砂漠が要塞セスカの前に広がるだけになった。
「時間のようだな」
モーツァルトの声が通信機から流れる。
「あたしたちはこれを3時間攻撃と呼んでいる。なぜかは知らないが、人形館のカーニヴァル・エンジンは24時間周期で、そのうちの3時間だけ大攻勢をしかけてくる。なぜなんだろうな?」
「それはきっと」
ヨリトモはカスール・ザ・ザウルスをするりと鞘に納めた。
「ゲームの時間はみんな、夜の11時から夜中の2時くらいまでだからだろうさ」
しばらくしてアリシアが合流してきた。
彼女はソニック号の倉庫で発見したという、お気に入りの黒いジェット戦闘機に乗っていた。急げばもっと早く到着できたらしいが、人形館のカーニヴァル・エンジン部隊が引くまで時間を潰していたらしい。ソニック号は北極の氷河の中に隠してきたそうだが、一応リモート操作で発進させることができるそうだ。
アリシアとヨリトモがそろったところで、モーツァルトは通信機ごしに二人を昼食に招待した。
アリシアは丁寧に招待を受け、黒い戦闘機を要塞正面の滑走路に着陸させる。複座で双発、可変後退翼をもつ黒い戦闘機は、『エアリアル・コンバット』でアリシアが乗っていたトムキャットを思い出す。アリシアの戦闘機は滑走路をタキシングして要塞正面の、鋼鉄製胸壁下部に開いた進入口から、要塞内部へと進入した。
進入口は大きく、カーニヴァル・エンジンも通ることができる。ヨリトモはアリシアのトムキャットに続いてベルゼバブを要塞内にいれ、大型リフトで地下にあるカーニヴァル・エンジン用の格納庫まで降りた。
そこには簡易ハンガーがふたつあり、カーニヴァル・エンジンの簡単な修理やメンテナンスができる。もっとも人形館が標準使用しているハンガーのように全自動でカーニヴァル・エンジンを完全に補修するようなものではなく、あくまでカーニヴァル・エンジンを固定してクレーンやドリルでちょこっとだけ手直しする程度の修理しかできない。ましてやカーニヴァル・エンジンを作成することは、この格納庫ではまったく不可能なことだった。
人形館はカーニヴァル・エンジン用の武器をナヴァロン人に作らせるため、カーニヴァル・エンジンに近い雛形的巨大人型機械をナヴァロン人に与え、それに合う武器を作成させた。
対消滅技術やそれらを取り巻くプラズマ力場域の理論は惜しみなく教え、それによってナヴァロン人はカーニヴァル・エンジン用の火器を多数発明した。
しかし肝心の、武器を使うべきカーニヴァル・エンジン自体を作る技術だけは、絶対に秘密にした。だからナヴァロン人は、だれよりも上手にカーニヴァル・エンジン用の銃器を作成できたが、カーニヴァル・エンジンそのものはまったく造ることができなかった。一番重要な技術は、巧妙に隠蔽されていたのだ。
アリシアはお気に入りのトムキャットを格納庫のすみに駐機し、ヨリトモは片方の簡易ハンガーにベルゼバブを固定すると降機した。地球の時刻でいまは朝の4時半。そろそろ外が明るくなるころである。
アリシアとヨリトモを迎えに来たのは、二人の老人と彼らの孫のような女の子。老人は二人とも怪我をしていて、一人は杖をついて片足をかばって歩いていた。
アリシアはかすかに眉をしかめる。
ここにはもう健康な若い兵士はあまりいないのだろう。クリーナーの掃討戦によって戦闘員と呼べる者はほとんど失われてしまったにちがいない。生き残ったのは老人と子供。惑星カトゥーンを見捨てたアリシアは、おそらく目の前にいるような怪我をした老人や幼い子供の同胞を見殺しにして、今ここにいることになる。
「おまえがオガサワラか?」
真ん中の子供が生意気に胸をそらせて言う。あまり幼い子供が偉そうな口を利くと、かえっておかしい。思わずヨリトモは微笑んだ。
「そうだよ。きみ、お名前は?」
「わたしは、ルル。小銃子ルル・ルガーだ」
四歳くらいの女の子はさらに胸を反りかえらせた。
よく見ると一人前に野戦服を着ている。腰には分厚い装備ベルトを巻き、ホルスターに収まったミニサイズのサブマシンガンと複数のバナナ・マガジンがぶらさがっていた。
「狙撃姫モーツァルト・ジュゼルの直属である」
「失礼いたしました」
アリシアは丁寧に辞儀する。
「わたくしはアリシア・カーライル。こちらがうちのエースパイロット、オガサワラ・ヨリトモです。星間同盟『キャピタル・ガード』の依頼により参上つかまつりました」
「ごくろうさまです」
ルルは生真面目に頭をさげる。
「こちらへどうぞ。わが狙撃姫モーツァルト・ジュゼルが待っております」
二人はルルの案内でエレベーターに乗ると、地上へ出た。そこから廊下を渡ってさらにエレベーターで上昇。かなり高い階にある広間へ通される。
おそらくは要塞のツインピークスの片方。岩山をくり抜いてつくられた部屋であると思われる。
分厚い岩肌を削ってあけられた窓には、がっちりした防弾ガラスが嵌められ、惑星ナヴァロンを照らす恒星が中天から射下ろす炎のように強い日差しをさえぎっている。
壁には真紅の幕がカーテンのようにかかり、中央に広間の端から端までとどく長いテーブルがおかれ、背もたれの高い椅子がならんでいる。ヤスリをかけただけの荒い仕上げのテーブルには、料理が山のように盛られ、白い皿がひしめくように並べられ、立ちのぼる湯気がふんわりと部屋を満たしていた。
一番奥の椅子に栗色の巻き毛の女性が座っている。年はせいぜい二十歳かそこら。口の端が目にとどきそうなくらいに、にっこりと笑ってこちらに手を上げている。
大きな瞳。白い頬。とがったあご。そして鼻筋のとおった意志の強そうな美しい鼻梁。彼女がおそらく狙撃姫。
テーブルに並んだ椅子のわきにはそれぞれ、軍服を着た士官たちがまっすぐ前に視線を固定して直立不動で立っていた。
アリシアとヨリトモはルルに案内され、彼ら石のように動かない士官たちの後ろを歩いて、モーツァルトのすぐ下座に用意された席についた。
アリシアとヨリトモが向かい合う位置。ルルはヨリトモの隣に座り、アリシアの隣には銀縁のメガネをかけた女性の司令官が腰をおろす。彼女の着席につづいて士官たちがつぎつぎと席についてゆく。
全員が着席したのを確認してモーツァルトが口をひらく。
「アリシア。オガサワラ。このたびはわれわれナヴァロン人を救援するため、よくぞ来てくれた。わたしが惑星ナヴァロンの代表にして最高司令官であるモーツァルト・ジュゼルだ」
アリシアとヨリトモは小さく頭をさげ、それぞれ簡単に自己紹介する。
モーツァルトはうれしそうにうなずき、まずは銀縁メガネの女性司令官を紹介する。
「こいつが、ワルツ・クエイサー。戦略指揮官でいちいちうるさいやつ。で、その奥のでっかいおじさんが、
「姫さま」
ワルツ・クエイサーがぎろりと睨んでたしなめる。
モーツァルトは突っ込んでくれたのがうれしいようで、ぺろりと舌を出して肩をすくめてみせた。
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