22.草原の村グラスホール



 一夜明け、太陽が東から昇り始めた頃に二人は目覚めた。朝食を摂ってから野営の片づけをし、丘を下り、そしてグラスホールの村の入り口付近に到着した。


 入り口付近になると道幅は広くなり、土には足跡がいくつもつけられている。中には馬の蹄と思われる物もあり、頻繁にここを通る人々がいる証拠だろう。


 草原の中にある村というだけあり、遊牧的な雰囲気が漂う。フォレストアーチと同様に円形になるような形の広場の中に家が立ち並んでおり、祐樹たちがいる入り口の正反対に位置する場所から北側へ抜けられるようになっている。その出入り口のちょうど前には川が流れており、この川の水がこの村にとっての生活の要になっているようだ。家々の作りはフォレストアーチと違わないが、村の規模はフォレストアーチよりも広く感じる。


 村から少し離れた場所では、白い体毛を纏った羊と見られる動物が群れを為し、一つの白い塊のようになって草原の上を移動している。あれも家畜なのかもしれない。


「ほほぉ、ええ村やないか」

「そうですね。広さはフォレストアーチよりもちょっと広いくらいですが、雰囲気は違います」


 フォレストアーチは森の木々に囲まれていて、少し閉鎖的な雰囲気が漂っていた。対し、ここは開けた草原の真っただ中。そのため、開放的な印象を受ける。


 どちらかよいかと言われたら、大体の人は後者かもしれない。だが、森の空気に囲まれたフォレストアーチの生活も、祐樹としては悪くないように思える。エリスは元々、森の中で暮らしていたようなものだから、逆にこういった広々とした場所だと落ち着かなかった。


「とりあえず、ここでは食料と備品の買い足しをするで。次の町までは結構離れとるようやからな」


 地図を広げ、祐樹は言う。この村から出たところの道が湾曲して西へ向けて伸びている。途中にある川を渡ると大きな山が立ちふさがっているが、祐樹たちは山を登るのではなく、その山の道の前にある町目指す予定だ。そこは、フォレストアーチ含めた村々を治める領主が住まう屋敷がある町だと聞く。そして町を経由し、山をぐるりと周る西のルートではなく、そこから北のルートへ向かう。因みにその町へ向かう途中にも分岐点があり、南の方へ向かう道がある。その先にも町はあるにはあるが、そちらには用はない。


「で、まぁ次の町まではそれなりに距離が離れとるわけやけど」


 恐らく、先ほどまで歩いてきた道よりも距離がある分、高低差の激しい道のりになる。メイス曰く、バックパックの中には雑貨店にあるだけの分を入れてはいるが、それだけではこの先を進むのは心もとないという。そのため、この村でも必要な分だけ買い足していった方が無難というアドバイスをもらった。そして、訪れる村や町ではなるだけそういった細かい物は買っていった方がよいということも。


 だが、今後買い足していくことで、重さを増していくバックパックをずっと背負ったまま歩くのは、少々骨が折れる。祐樹はまだいいが、エリスの体力が懸念事項だった。


 無論、エリスにはそのことは伝えない。人一倍、他者に気を遣う性格だ。気に病んでしまうのは目に見えている。その辺りのことも考え、祐樹は言う。


「このグラスホールの村には確か、ええ馬がおるっちゅー話やったな。それも買(こ)うてくで」

「馬、ですか?」

「おう」


 提案すると、エリスは一瞬明るい笑顔が浮かんだが、ハッと慌てたように首を振って、不安気な表情に変えた。


「で、でも私、馬になんて乗ったことは……」

「ああ、大丈夫や。乗るためやのぉて、荷物運びに使うんや」


 この先、二人が歩く道の先は険しく、それでいて多くの荷物が必要になるだろう。だが、二人が持つバックパックだけでは、そんな大量の荷物は持ち運べない。


 ゆえに馬を購入することを、メイスは勧めた。何も騎乗するためではなく、あくまで荷物運搬用のためだ。本当ならば馬車も欲しいところだが、メイスから手渡された資金は馬一頭が限度であって、馬車には手が届かない。馬一頭いれば、二人旅をする分の荷物を運ぶのにうんと楽になる。


(それに、ワシも馬なんて乗ったことなんかほとんどあらへんしな)


 第一、祐樹もエリス同様、馬など乗ったことがない。祐樹は幼い頃に乗馬体験をしたくらいで、それ以来は一度もない。実質未経験だ。ただ、仮にどちらかが倒れてしまった場合は、その背中に乗ることで足止めを食らうことはなくなるだろう。


「馬さえおれば、険しい道があるってわかっていても荷物を多く持っていけるやろ」

「あ、なるほど」


 馬の購入理由を聞いて頷くエリス。道中、世話をするのが少々大変だろうが、それに見合って今後の旅が楽になるだろう。


「うし、そうと決まれば馬を買いに行く前に先に色々買いに行くでー」

「はい!」


 祐樹が先を歩き、エリスがその後ろを意気揚々と付いて歩く。


 ……馬を購入する、という話を聞いてから、なんかテンションが上がったように見えた。


 村の中へ入ると、二人は好奇の視線に晒された。二人、というよりも、祐樹の方に集中している。エリスの服装は、ここウィンディアでは、もといこの世界では標準的な物であるのに対し、祐樹のスーツとコートは日本の物。日本ではありきたりな服装も、この世界では珍妙な物にしか見えない。そんな服を纏った見た目壮年の大男が、腰程の身長の少女を連れて歩いているという光景は、傍から見ても奇妙な物に取られるのは無理もなかった。日本だったら警察官という立場なのに職質されてもおかしくない。


 まぁ、ここは異世界であるがゆえに職質ということにはならないし、フォレストアーチの冷たい視線に比べれば、この程度は大して気にはならない。


「……な、何だか見られてますね……」

「なぁに、慣れや慣れ」


 物珍しそうに見られるのに慣れていないエリスは、心なし祐樹の体にくっつくように歩く。祐樹は大して気にする様子もなく、見回して店を探した。


「お、あれやな」


 見れば、一軒の家の前に吊り下げられている、祐樹が昔やり込んだRPGを彷彿とさせる看板に『グラスホール雑貨店』と書かれている。フォレストアーチでも、大抵の物は雑貨店に置いてあった。ここでも同様の品ぞろえだと嬉しいのだが。


 そう思いながら、祐樹は雑貨店の扉を開く。ドアベルが入店したことを知らせる為、金属がぶつかり合う独特な音を鳴らす。


「いらっしゃい」


 愛想のいい声が入ってすぐ目の前から聞こえる。入り口のちょうど前にカウンターがあり、初老の男性が座っている。品物は建物の左側に置かれた棚に陳列されており、見たところ食料だけでなく日用雑貨なども売られているようだ。フォレストアーチでもそうだったが、日本でいうところの小さくても唯一のスーパーマーケットのような物だろう。


「ん? 随分珍しい恰好してるな。旅人かい?」

「ん……まぁそんなとこですわ」


 ここでも珍しそうな視線を向けられ、祐樹は当たり障りのない返事をした。その間に、雑貨店の品物を物色する。


 マッチ棒、ランタンオイル、水、食料等々。切れたら困る品物を、荷物がかさばらない程度の量を手に取っていく。


「こんなもんかの」


 エリスの方を見ると、他所の村の雑貨店が珍しいのか、商品よりも店内を見て回っている様子だった。内装自体は珍しい物ではないため、そのうち飽きるだろう。


「ほい、こんだけ頼むわ」


 カウンターの上に商品を並べる。それらを数え、店主は値段を提示した。


「これなら全部で1シールと56ローズだな」


 提示された金額を払うため、祐樹は自身が長年愛用してきた財布を取り出す。そこから銀色に輝くコインと、銅で作られたコインの入った小銭入れのファスナーを開けた。


 日本円で表すならば、“シール”と呼ばれる銀貨は1枚1000円、“ローズ”と呼ばれる銅貨1枚は100円という具合だった。祐樹の財布の中には金貨である“ゴルド”が2枚入っており、この金貨1枚で10000円ということになる。また、日本円の1000円札5枚分が一つになった5000円札があるように、この世界でも銀貨5枚分の価値がある掌サイズの銀板5シールや、500円玉と同様の銅板50ローズがあり、コインによって財布が圧迫されるということはあまりない。


 余談だが、これらの貨幣を祐樹がこれまで使ってきた革製の二つ折りの財布に入れている理由は、単純に思い入れが強いためだった。また、全部を財布に移し替えたわけではなく、メイスからもらった革袋に残りの金を入れて、いざという時のために大事に取っておいてある。


 閑話休題。


 ひとまず祐樹は、銀貨2枚を手渡し、お釣りの銅貨を受け取った。


「毎度」

「こちらこそありがとさん……お、そうや。この村で馬を買える場所はどこなんですか?」


 この村に寄った最大の目的である馬を取り扱っている店を店主に聞く祐樹。小さな村だ、すぐにわかるだろうと思っていた。


「ん? アンタ馬が欲しいのかい?」

「ええ、まぁ」


 が、そんな祐樹の予想に反し、店主はどこか気の毒そうな目で祐樹を見つめた。


「あぁ……生憎だけど、行ったところで無駄だよ」

「へ?」


 どういう意味か問う前に、店主が答えた。


「こないだあそこの店主と飲んでたんだが、そん時に聞いたよ。何でも、店にいる馬を全部売って欲しいって人が来たらしくてね。提示した金額の倍も支払うもんだから、二つ返事で売っちまったってよ。今じゃあそこにいる動ける馬は全部売約済みだよ」

「えぇ……」


 予想外な話に、祐樹は思わず気の抜けた返事をした。


 まさかの売り切れという事態。店にいる馬を全部売って欲しいという、爆買いどころの騒ぎではない。馬一頭の値段は最低でも金貨1枚か、立派な馬で金貨数十枚というような物らしい。それらを全部、しかも一括払いでと来た。一体全体、どこの金持ちなのか。


 大体、馬を大量購入など、何の目的があってするのか。道楽だとしたら少し腹立たしい物があるが、売れてしまった以上、怒ったところで仕方ないのは事実だった。


「……馬、買えないんですか?」


 店を見て回っていたエリスが、祐樹の横に立って問う。祐樹は困ったような顔で頭を掻いた。


「あぁ、どうもそうらしいなぁ」

「……そう、ですか……」


 目に見えて落ち込むエリス。口には出さなかったが、祐樹が馬を買うと言った時に嬉しそうな様子だったのを見るに、楽しみにしていたのだろう。そんなエリスを見て、祐樹の方が申し訳ない気持ちになる。


「んー……まいったのぉ」


 エリスが落ち込んでいるのもあるが、これから先の旅路では馬は必要だった。その馬が手に入らない以上、どうすることもできないのだが……。


 そんな二人を見て、店主も何か思うところがあったのか、口を開いた。


「まぁ、この村だけじゃなくて、この先の町にも馬屋はあるよ。さすがに国中の馬を買おうとか、そんな奴は国そのものでもなければ無理だろうからな」

「……そうやな」


 冗談めかして言う店主に、少し気持ちが楽になる祐樹。慰める意味を込めて、祐樹はエリスの頭の上に手を置いた。





「……どうしたんだろ、ユウキさん」


 村の北側の道へ続く出口の横で、バックパックを下ろした状態で家屋の壁にもたれかかるエリス。足元にはエリスのバックパックだけでなく、祐樹のバックパックも置かれている。


 先ほど、雑貨屋で買い物をした後、祐樹はエリスを村の出口のところまで連れていくや否や、「ちょっと野暮用を片付けてくるわ。少し待っといてくれ」と言ったきり、荷物の番を任せて行ってしまった。


 祐樹の言う野暮用が何なのかはわからないが、すぐ戻るという言葉を信じ、エリスは片足をプラプラと揺らしながら暇を持て余していた。


 ふと、視界の先に映るのは、フォレストアーチとは違う方角からやってきた行商人の馬車。そこに繋がれた二匹の馬が、鼻を鳴らしながら主である商人が取引相手との商談を終えるのを待っている。


 祐樹から馬を買う、と聞いた時は、エリスも多少浮かれていたのは自覚していた。森で暮らしてたおかげで動物が好きな上に、昔読んだ物語のように馬と一緒に旅をするというのは、実を言えば幼い頃から少し憧れていた。それがパァになったのだから、多少ショックなのはある。


 無論、言い出しっぺの祐樹に非はないし、文句など言うつもりもない。しかし、暗い表情になってしまったエリスを見て慌てる祐樹を見てしまい、そんなつもりはなかったのにと二重に落ち込んでしまった。


「ダメだなぁ、こんなこと考えちゃ……」


 落ち込みやすく、後ろ向きな性格だと自覚しているエリスは、そのせいで祐樹に迷惑をかけているのかと思い、自己嫌悪に陥る。祐樹からすれば、「気にせんでええって!」と言って逆に励ましてくれるだろうが、それでも祐樹に対して申し訳が立たない。


 そう、これは道楽の旅ではない。どんな理不尽でも、自分が我慢すればいいのだ。そうすれば、誰にも迷惑をかけることはならないだろうから……そう思いつつ、エリスは深いため息をつき、


「ほい」

「わひゃ」


 いきなり頬に触れた冷たい感触に驚き、変な声が上がった。


「へへ、びっくりしたやろ」


 驚きつつ見上げれば、してやったり! というような祐樹の笑顔。その両手には、水滴がしたたり落ちる小さな瓶が握られていた。頬に触れると僅かに濡れており、冷たい感触の正体があの瓶だとわかった。


「ゆ、ユウキさん……?」


 怒る以前に、何が起こったのかよくわかっていないエリス。目を白黒させるそんな彼女に、祐樹は笑いながら片方の瓶を差し出した。


「ほら、待たせたお詫びや。飲んどき」


 差し出され、思わず受け取ったエリスは、それが何なのかわからずに、きょとんとする。


「えっと……」

「なんかこの村の名産にするつもりで作ったらしいで。川の水と甘味の強い果物の果汁を混ぜ合わせた物を井戸の水でキンキンに冷やしたんやと」


 そう説明し、祐樹は瓶の蓋を開ける。そして瓶に口を付けて、グイっと呷った。


「……うん、まぁまぁ」


 思った味と違う、と言いたげな微妙な顔のまま飲み干した。祐樹の中では、最近コンビニで売られている見た目は水なのに中身は別物、というような清涼飲料水をイメージしていたのだが。一本1ローズなら妥当かとも思った。


 それに倣い、エリスも小瓶の蓋を開け、祐樹のように一気に呷るのではなく、ゆっくりと流し込んでいく。冷たい水の中に果汁をそのまま絞って入れただけ、というような印象を受ける味だった。


「……おいしい」


 果汁の味は薄いが、冷たさもあって悪くなかった。あまり娯楽のない生活を送ってきた少女にとって、こういった珍しい物も美味に感じる。


「おぉ、そらよかったなぁ」


 空になった小瓶を懐に入れながら、祐樹はハハハと笑った。


「……あの、野暮用って一体何だったんですか?」


 飲み干してから、疑問を口にする。祐樹にとっても初めてのこの村で済ませる用事とは、一体何だったのか。エリスの問いに、祐樹は「あぁ」と言ってから答える。


「いや何、この村以外でええ馬がどこに売ってるんかどうか、村の人に聞いとったんや」


 この村に馬はいない。そう聞かされてたところで、簡単に諦めるような祐樹ではなかった。


「どうも次に目指そうとしてる町は、ここら一帯を治める領主様とやらのお膝元らしいから、この村と比べたら流通も盛んらしいしな。ええ馬の一頭二頭は売っとるやろ」

「……そう、でしょうか」


 本当にそうならいいのだが、今回のようにまた売り切れていたら……そんなネガティブな思考に再び陥るエリス。


 そんなエリスの背中を、祐樹は軽く叩いた。


「そん時ゃそん時や! なぁに、前向きに行くでぇ前向きに!」


 バックパックを持ち上げ、祐樹は先を歩き出す。買い物も済ませ、知りたいことも知れた。この村にはもう用はない。幸い、今すぐ馬が必要なほどの荷物ではないため、休み休み行けば大丈夫のはずだ。


 そんな祐樹の背中を見つめるエリス。その脳裏には、彼の言葉が反響していた。


「前向きに……か」


 思えば、これまで生きてきてポジティブなことを考えてきたことが少なく思う。何かにつけて『多分ダメだろうな』や、『きっと無理かな』といった、後ろ向きなことしか考えてこなかった。よくないことだとは思う。しかしそれは性格から来る物であって、直そうと思えどなかなか直らない物だ。


 対し、祐樹のつねに前向きな姿勢を、エリスは眩しく思えると同時に、羨ましく思う。どんな困難でも、諦めずに立ち向かおうとする気概のある性格。


 あんな性格だったら、簡単なことで落ち込んだりなんてしないのに……そう思わずにはいられなかった。


「……私も、ああなりたいな」


 羨望と、少しの嫉妬が入り混じった気持ちが、声となってポツリと出る。それが偶然、祐樹の耳に入ったのか、振り返った。


「ん? 何か言うた?」

「い、いえ、何も……!」


 エリスも慌ててバックパックを背負い直し、祐樹の後を追った。


 村を出て、再び草原の道を歩き出す二人。そんな中、祐樹は考える。


(結局、あの黒装束の連中は現れることはなかったな)


 祐樹がエリスから離れている間、馬のことについてだけでなく、一番気にしていたことを聞いて回っていた。


 メイスから聞いた、『黒装束の人間がフォレストアーチを目指していた』という話。連中を退けた今、再びフォレストアーチに向けて似たような連中が現れないとも限らない。あれから一週間以上は経っている。また襲うつもりでいるならば、そろそろ現れてもおかしくないはず。


 だが、グラスホールの村人に聞いた結果、そういった連中は見かけなかったという。そうなると、フォレストアーチに再び現れるというようなことはほぼないと見ていいだろう。


(……けど、正直連中があれで終わるとは思えん)


 遺跡に突如吹き荒れ、男たちを浚っていった視認できる黒い風。肌にべっとり付くような、身の毛もよだつ不快感の塊のような物。森の中でも現れ、魔物を変貌させたあの風の姿が、祐樹の脳にこびりついているかのように離れようとしない。


 祐樹は確信を持っている。あの風は、“意思”を持っている、と。


 でなければ、捕えようとしていた男たちを浚ったり、魔物に向けて一点に集まり、変貌させたりなどしない。


 そして同時に、あの風は黒装束の男たちと関係していると、ほぼ確信していた。


(一週間フォレストアーチで過ごしていて、あの風の気配は微塵も感じられんようになった)


 あの風が発生する直前に感じた、重苦しい空気。一週間、メイスの家で過ごしている間、それは感じられなかった。


 それでも、あの風とはまた出くわすことになる。そんな予感がしてならない。


「……想像以上に、ワシらはとんでもない連中を敵に回してしもうたのかもしれんなぁ」


 人智を超えた“何か”。生き物を変貌させるような末恐ろしい存在を相手取ろうとしている事に、今更ながら祐樹は戦慄する。


 この旅を通じて、対抗策を見つけられればいいが……今はただ、再び奴と遭遇しないことを祈るしかなかった。


 いまだ遠くにあるも、近づいてきたことで大分姿形がはっきりしてきた青い山。他の山々と連なるようにして聳え立つ高い山が、道を歩く祐樹たちを巨人の如く見下ろす。


 先行きに不安を感じる祐樹に対し、無力であることを突きつけるかのように。

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