常磐海 その3




「……え?」


 ある日。

 職員室に駆り出された常磐は、顧問の先生から思わぬ宣告を受けた。


「聞こえなかったか? 廃部通告だ」

「急にどうしてですか!? 納得できません!」

「言わなくても、分かってるんじゃないのか?」

「…………」


 心当たりがないわけじゃなかった。


「部費の私的利用、部室の私用化。他の部活から色々と苦情が来てるんだよ」

 

 もちろん前々から、あいつらをどう追い払うかは考えてはいた。

 でも、出てけといったところで意味はないんだろうと薄々感じていた。

 ……余計な波風が立つだけ。

 簡単にあっちも退いてくれないだろうし、だからこそ、有耶無耶に先延ばしにしてきていた。


 そのツケが、今になって、回ってきたのだ。


「……どうすれば、免れられますか?」

「無理だ」


 現実を、突きつけられる。

 心臓をわしづかみにされたような心地だった。


「夏の大会まで待ってくれませんか!! お願いします!!」


 失いたくなかった。

 河野先輩が、長い歳月をかけて作ってくれたこの場所を。

 自分の手で潰すことになるなんて、絶対に嫌だった。


「お願いします!!!」


 何度も頭を下げて、必死に懇願する。

 諦めたくない。

 せっかくここまで来たのに。


「常磐……」


 しばらくの沈黙の末、顧問の先生は観念したように、


「俺の方から会議で言ってみるけど、あんま期待はすんなよ?」

「あ、ありがとうございます!!」


 

 結局。

 一部のやつらは強制退部となり。

 次の大会で結果を残さなければ、部活動は廃部。


 与えられた猶予。ラストチャンス。

 ここで結果を残さなければ、俺たちは終わる。


「――やるしか、ない」


 ぐっと拳を握り締め、覚悟を決める。


「今日から俺たちは本気でLGをやろうと思う。練習時間も増やす。だから本気で強くなりたいやつだけ来い」


 そう宣言すると共に、eスポーツ部の苛烈を極める練習が始まった。

 

 ナメられない為に。

 嗤われないために。

 必死に、足掻いて、練習した。

 ゲームだけじゃない。

 基礎体力、体幹、座学、メンタルトレーニング。

 あらゆることに徹した。

 それが自分の身になるかどうかなんて関係ない。

 スタイルに合っているかどうかなんて関係ない。

 ただ強くなれることを、ひたむきに信じて。

 練習を続けた。


 もちろん辞めるやつもたくさんいた。吐き捨てるように文句を言って去っていくやつもたくさん見てきた。

 それでも残ってくれるメンバーと、ひたむきに努力し続けて……。


 そうして、迎えた夏頃に行われた『LG甲子園』と呼ばれる高校生大会。


 常磐海率いるチームは、見事予選を突破して、県大会にまで出場することができた。




 そして、秋から冬にかけて行われたアマチュアトーナメントでベスト8という快挙を成し遂げたのだ――。 

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