○ 常磐海 その2
常磐海は中学1年生の頃くらいから、頭角を現し始めていた。
LGを始めたのが小学校を卒業する手前で、他の上位プレーヤーに比べるとそんなに早い訳ではないものの、上達のスピードは極めて異常だった。
始めて数ヶ月で同学年でトップクラスとも呼ばれていたプレーヤーもあっという間に超え、地域でさえも誰も寄せ付けない程の強さを持っていた。
それは彼のモチベーションと才能、そして並々ならぬ努力の賜物だろう。
そうして中学3年間をLGに捧げ、鏡見高校に入学した。
といっても、常磐はeスポーツ部に入るためにここに来たわけではなかった。
当時、鏡見高校のeスポーツ部は弱小を地で行く超弱小校。
メインタイトルはもちろん流行であるLGだったが、高校生大会の地区予選すら突破する事が出来ていなかった。
だから当然、常磐も存在さえ認知していなかった。
そんな彼が高校で出会った先輩がいた。
鏡見高校にeスポーツ部を起ち上げた存在で、名を
出会いは、学校の近くにある一件のネットカフェ。
「君、上手だね」
「……え? あ、ありがとうございます」
ゲーム中、唐突に話しかけられて、常磐は困惑の色を隠せなかった。
初めてだった。そんな風に知らない人から声をかけられたのは。
VRは基本的に他人のプレーをゲーム内からでしか見ることは出来ないが、当時通っていたネットカフェにはオープン席があって、そこにはプレーヤーのゲーム画面がそばのモニターに映される仕様になっていた。
衆目を集めやすい分、値段が安く設定されていたので、学生だった常磐には選択肢がそこしかなかった。
「へぇ……そうなんだ。一緒なんだね」
話していくうちに、同じ高校だと知り。
「え? そんな部があるんですか?」
「弱いけどね。起ち上げるには随分と時間がかかったよ」
河野先輩は苦笑しながら、自虐するようにそう言っていたのを今でもよく覚えている。
――『部活っていっても、それゲームなんでしょ?』
そんな教師たちの偏見の目からは逃れる事ができず苦難したという。
けれど先輩は諦めず、その魅力を伝え、3年生になった頃にようやく部を発足することができたらしい。
『たかだがゲームかもしれない。でも――』
『それでも俺は一生懸命やって、仲間と大会に出たいと思うんだ。LGに魅せられた者としてね』
その言葉に、とても共感させられた。
自分もそれを手伝いたい。その仲間に入りたい。互いに話していく内に本気でそう思うようになっていた。
常磐は中学の頃にも大会を出たことはあった。
しかし、その頃は思春期で勝利に渇望していた時期でもあって、衝突が激しくすぐに解散してしまった。
あの時のような後悔をしないためにも――。
もう一度だけ前へ踏み出そう。
そう、決意した。
だが。
理想はやはり、理想でしかなかったのだ――。
◇ ◇ ◇
1年後。
河野先輩が卒業して、部長は常磐が受け持つこととなった。
その意志を受け継ぎたい。
この部を大きくして、大会で結果を残す。
そんな信念に駆られた常磐海は2年になった春頃、宣伝を大々的に行い、同志を募集することにした。
しかし。
やってくるのは、ゲーム部と聞いて集まってきた連中ばかり。
放課後の暇つぶしとして、部室を根城にしているやつらもいた。
「ほんと楽だよなー」
「だな。学校にゲーム部があるなんて驚きだぜ」
「あ、俺買い出し行くだけど何か欲しいもんある?」
「あー、じゃあ菓子頼む」
「俺はエナジードリンクで」
そんな言葉を聞くたびに、腸が煮えくり返りそうになった。
『ゲーム部』と揶揄され、他の部活動からは蔑みの目で視られ、部活という名目で実態はただ遊んでいるだけ。
そんな噂が絶えなかった。
こっちは真剣にやっているというのに――。
もちろん真面目に入ってきてくれる子もいた。
しかし、一部の輩がそういったことをしているせいで、全体が悪く見られてしまっている。
そして。
そんな中で、事件が起こる――。
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