23話 変化
練習は続いていた。
メニューはほとんど個人で技術をあげつつ、それを週末にチーム戦で披露するという形。
「ボットレーン、敵が後ろから来てるよ! 一旦下がって!」
「は、はいっ!」「分かった」
「ミッドは一旦ラインを上げてからこっちに寄って!」
「うんっ」
ジャングルを回るレンがチームの指揮系統を取り、皆がそれに従う。
雰囲気としては引き締まっていて、悪くないように見えた。
チームメンバー全体の意識が変わった、というのもあるかもしれない。
* * *
「5試合して1勝4敗……」
「あー! あの試合ぜったい勝てた! くぅ~~……!」
対戦ログを見つめ悲しげに呟く中条と、さっきの試合を思い返しながら悔しそうに歯噛みするレン。
実力は、伸びていることには伸びている。
元プロであるよしあきの視点から見ても、これは著しい成長だった。
最近では格上のレートのプレーヤー相手にも怯むことなく(特に中条や逆上)プレーして勝てるようにはなってきているというのが大きいだろう。
けれど、部長チームに追いつくには到底足らない。
0.1%の頂きは、果てしなく遠いのだ。
10%から1%の壁と1%から0.1%の壁は、厚さが全然違う。
「……ねえ」
「……」
「ちょっとガン無視? ねえ、よしあき!」
気付けば、すぐ横に逆上がきていた。
「……な、なんだよ?」
「今の試合、何が悪かったと思う?」
珍しく逆上がそんなことを聞いてきた事に、内心驚く。
今までいつも「次行こ次!」と切り替えの速さだけが取り柄みたいな彼女が過去の試合を振り返るなんて。
もしかすると、勝ちたい、成長したいという表れなのかもしれない。
「まー……そうだな」
顎に手を添えつつ、よしあきが言う。
「ちょっとレンの意見に比重が大きすぎるからじゃないか?」
見たところ、最近はレンがチーム全体の指揮を取っているわけだが、うんうんと頷くだけで、他に意見が少ない。
だからレンが判断ミスをした時、皆がそれを正しいと信じ込んでしまうから、道連れになってしまう。
対案が出ない以上、行動するしかないといった状態になっていた。
「じゃあ、あんたがいえばいいんじゃないの? 強いんだから」
「……後半はいえたとしても序盤からは無理だ。俺だってお前らの行動を全部見れる訳じゃない。――それに」
と、そこでよしあきは口ごもる。
――……やはり、どうしても渋ってしまう。
初心者がいる以上、無理にいうことは避けたい。
チームメンバーが勝ちたいと思っている今、無理言って波風を立てたくはないから。
「何?」
「ま、厳しくできないことはないんだけどな……」
「ねぇ、ひとつ聞いていい?」
「……?」
「何をそんなにビビってるわけ?」
逆上から飛んでくる切り込むような声。
思わず、心臓をわしづかみにされたような心地になる。
それはこの間、店長にも言われたことだった。
「別にビビってるわけじゃなくて……」
「どう考えてもビビってるでしょ」
自分でも、全く、そんな風に思ってなかった。
「ねぇ、あたしらって、そんな信用ならない?」
「信用とかじゃなくて……」
「そりゃ数週間しかしてないけど、あたしらは頑張ってきたんだから、あんたもそれに答えてよ」
悲痛、とも呼べるような彼女の叫びを初めて聞いた。しかし驚きはなかった。
静かに心に食い込むように染み込んでいく。
「………………………………分かった」
結局、覚悟の是非をこいつらに聞いておいて、覚悟が出来ていなかったのは俺の方だったのかもしれない。
そんな事を思いながら、よしあきはすっくと立ち上がる。
一息つき、首を何度か巡らせてから、中条の方にまで近寄ると
「中条」
「は、はい……?」
さっきのやり取りを聞いていたからか、何だか答え方がおぼつかない。
若干、怯えているようだった。
しかしそれをあえて気にすることなく、よしあきは重々しい口調で言い放った。
「頼みがある」
――大会まで、残り一週間。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます