第18話
「ッハン、嫌だね」
よしあきのお願いに対して
「俺はそんなことしてる暇なんてないんだよ。忙しいんだから」
「…………」
何となくそんなような気はしていた。
思春期のガキなんてこんなものだろう。人の頼みについつい反抗したくなるお年頃なのだ。
されとて、あくまでよしあきは冷静に努める。
「忙しいって、あんなにチャットで遊んでるのにか?」
「あれは暇つぶしだよ。軽く息抜きに遊んでただけだっての!」
駄々をこねる子供みたいに長柄は強く反発してくる。
「それに俺、今年中三で受験生なんだよ。だから勉強しないと親に怒られるんだって。塾だってあるし……」
「そうかお前も色々と大変なんだな……。――で、参加してくれるか?」
「人の話聞けよオイ!! さっきから嫌だっつってんだろ!!」
たった二人しかいない場所で、漫才が繰り広げられていた。
だが、諦める訳にはいかない。
こっちもこっちで、何としてでも絶対獲得しなければならないのだ。
意気込んでると長柄が言葉を続ける。
「というか、そもそも俺が入ったところで何の役にも立たないだろ? ほんとにこっちは初心者同然なんだぞ」
「そんな事はない…………ぞ……?」
「なんでちょっと最後微妙に言葉途切らしたんだ」
「……いいや、ちょっと考え事してただけだ。何でもない」
「嘘くさっ……」
目を細めて、じーっと訝しげに見つめてくる。
そう話してるところで、チャンネル内に別の誰かがログインしてきた。
――【麒麟草】だ。
それを見るやいなや、長柄が「ひっ!?」と怯えた声をあげ何歩か後ずさる。
どれほどトラウマ与えたんだよ……この女……。
「どうもこんにちは! よし――じゃなくて【Flaw】さん! それと後ろの方も
(^^)」
にっこりとした感じなのが声だけでも伝わってくる。
「あー丁度いいとこに来てくれた。……今本人と交渉してるんだけど、中々頷いてもらえなくってさ……というかお前の勘とやら全然あてにならないんじゃないか?」
すぐさま彼女のもとへ駆け寄って、長柄の方に聞こえるくらいの声の大きさで喋り始める。
頼みはもうここしかない。
「それは困りましたね……」
応じてくれる麒麟草。なにか考えがあるのかどうかは分からない。
「だとしたらもう流すしか……」
「……っ!」
その穏便でないフレーズが聞こえた瞬間、ビクりと後ろにいた長柄から息を呑むような音が聞こえてくる。
よほど気になるのかチラチラとこっちの様子を窺ってきていた。これはとてもいい傾向だ。
「ああ、悪いな待たせちゃって。もうちょっとで話終わるから」
あえて焦らす作戦を取ることにした。体面を気にするのなら、そういうのには敏感になる。ならば利用しない手はない。
「やってほしいのは山々なんだけどなぁ……」
麒麟草は軽快にすっと長柄の方にまで寄ると、
「……部活とかはやってないんですよね?」
「そりゃ塾があるからまあ…………うん……」
「一ヶ月だけでいいので手伝ってあげてくれませんか? ほら、人助けと思って。ね?」
「……それは……まぁ……」
なぜかよしあきの時より明らかに態度が軟化しつつも、まだ躊躇する様子を見せる長柄。
麒麟草は近寄っていくと、ごにょごにょと囁きかけていた。
驚いた表情を見せると、(VRプレーヤーは感情表現同期が可能)口をぱくぱくわずかに動かしていたのが見える。
だが、肝心の何を話しているのかは分からないので、首を傾げながらも待つことにした。
そして、数分後。
麒麟草は長柄と共に、よしあきの方へいそいそと戻ってくると、彼の方からこう言ってきた。
「分かった。やってみる」
「……は?」
何だこのあからさまな変わり様は? ついていけないぞ?
すぐさま麒麟草をこちらに呼び耳打ちする。
「何したんだよ……さっきまであんなに嫌がってたのに、まるで別人みたいになってるんだが?」
「それは秘密ですよ。ちょっと背中を押してあげただけですから」
妖艶に微笑みながら、人差し指をちょこんと口元に当てるエモートを見せてくる。
なんともいえないきな臭さだけがましており、ははっ、と顔を引きつらせるしかない。
けれど、決まってくれたのならそれはそれでよかった。不承不承感があるのは否めないものの。
「頑張って下さい! 応援してますから!」
「あぁ、ありがとう……」
――こうして。
オンライントーナメント参加に必要な最後の一ピースが揃い。
終に、よしあきたちはチームとしてようやくスタートを切ることとなった。
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