第17話 Key Woman
「ほんとにたまたま俺のことを知っただけだったのか……」
「そうですよ。というか何回もそう言ってるじゃないですかー」
思わぬ偶然の再会(?)により、よしあきは赤髪メイジアバターのプレーヤー:【麒麟草】と二人で話し込んでいた。
「だとしても、俺ゲーム内でほとんど喋ってないと思うんだけど?」
「私、一回聞けばそういうの大抵分かるんですよ。仕事柄の関係でまぁちょっと……そういう音感があるので……」
少し言葉を濁すようにしながら彼女は言う。
そんな会話を交わしている際中、よしあきの心の中ではある計画を遂行中だった。
――もしかしたら彼女を大会に誘う事ができるかもしれない。
話す内にだんだん打ち解けてきて、これはワンチャンいけるのではないかと感じたからだ。
ここで誘う事が出来れば、明日は無理にしても、少なくとも今週から練習試合を始められる。
しかしこういう場合は大抵一発勝負と相場が決まっている。
失敗は許されない。
頷いてもらうためにどう算段を立てて行くべきが重要だが……。
「それよりよしあきさん」
「へ?」
「また日本でプロとして戻ってくるんですか?」
「…………」
何とも答えにくい質問を……。
「それはまぁ……保留中ってことで」
「そうですか……残念です。私的には楽しみにしてたんですけど……」
「いやでも、保留中ってだけだから」
「って事は可能性はまだあるって事ですか!?」
態度が180度ころりと変わる。
リアルだったら身を乗り出して迫ってきそうな勢いだ。
「ま、まあ……」
「もし、よしあきさんが戻ってくるならちゃんと応援行きますからね!!」
「ああ、ありがとう。それでさ――」
この瞬間をずっと待っていた。
「ちょっと、お願いがあるんだけど聞いてもらっていいかな?」
言葉ではそっと囁くような感じで、けれど手はがしっと握りガッツポーズをしながら、
「えと、何ですか? 私で良かったら聞きますけど」
「……オンライントーナメント、良かったら一緒に出てくれないか?」
この話の流れなら99%いけると確信していた。
よしあきは心臓バックバクになりながらも、彼女の答えを待つ。
そして――
「ごめんなさい。その日は仕事で忙しいので……」
「なるほど……」
あっけなく断られてしまった。
ショックで内心落ち込んでいると、彼女が「でも」と言葉を切ってから、
「さっきの人、誘ってみたらいいんじゃないですか?」
「さっきのって?」
「ほら、話しかけてたじゃないですか。あの【るりちゃんっ】って子ですよ」
「…………は?」
一瞬、彼女が何を言っているのか全く理解できなかった。
「さすがに冗談だろ?」
「私はいいと思いますけど」
あくまで話すトーンは穏やかで真剣そのもの。
何を考えているのか全く分からない。
「理由はあるのか?」
「特にはないですけど。強いていうなら、『勘』ですかね」
――勘。
なんとも当てにならない言葉だ。
だが、それは
一瞬の判断が命運を分ける時、反応で追いつかない時は自分を信じて感覚でプレーするしかない。
「でも、そんな気がするんですよね」
くすりと微笑みながら、彼女はそう付け加えた。
「というか、なんでネットで性別偽って男同士でよくわからんプレイしてる奴と関わり合いにならなきゃならねえんだよ。流石にごめんだぞ?」
「そ、それは言いすぎかと……」
引き気味に言うものの、よしあきは気にせず言葉を続ける。
「それにもうログインしてこないんじゃないか? あんな事があった後だったら音信不通になるだろ普通。たぶん掲示板にも晒されると思うぞ」
「大丈夫ですよ。メッセージ送っておきますから」
何が大丈夫なのかさっぱり分からない。
心配に思いつつも既に【麒麟草】は、どういう文面にしよっかな~、などと独り言を呟きながらメッセージの作成を始めていた。
どうせ無理にきまっているだろう。
だが、やってみるだけなら全然構わない。ほぼノーリスクなのだから。
それにそういう何事もトライな精神は嫌いではなかったので、ここは彼女に任せることにした。
後は神のみぞ知る、だ。
◆ ◆ ◆
「……」
「……」
2人しかいない広場で互いに見合いながら、何とも言えない沈黙が続いていた。
まさか本当に来るとはな……。
――翌日。
【麒麟草】から連絡を受けたよしあきはダメ元ながらも、とあるチャンネル内の広場で
しばらく待ってみたが来なかったのでよしあきがログアウトしようと思った時、ちょうどすぐそばで、床に現れ出た小さな光の輪と共に、誰かがログインしたのが見えた。
そう、昨日【麒麟草】の謎の音感によりネカマプレイがバレた【るりちゃんっ】だ。
「……ったく、ほんとなんなんだよ。ていうかお前誰だよ」
初対面にも関わらず、つっけんどんな物言いで突っかかってくる。
昨日とは違い普通の男の声だ。変声期に入る前の中学生くらいのガキっぽさがたっぷりと溢れ出ている。
「なんだ聞いてないのか?」
「話があるとしか言われなかったんだよ」
「それでよくきたな……」
「怖かったんだよ。来なかったら何か脅されると思って……」
いったい何を書いたんだあの女……まぁいい……。
「単刀直入に聞く。お前、大会に出る気はないか?」
真剣な表情でそう問うと、彼は首を傾げた。
「……ハァ? なんだそれ」
「なんだそれって…………お前まさか、知らないのか? オンライントーナメントだぞ。ゲーム内でも告知は散々されてるだろ」
「知るわけねえよ。俺、このゲームでチャットくらいしかしてないんだし」
「……」
それはつまり、LGのルールさえも知らない初心者同然ということ。
そんなプレーヤーと共に大会に出るのは、骨が折れるどころの話ではない。ただでさえ今は逆上や中条の練習を見るのに忙しいのだ。
あいつの勘、全然あてにならねえじゃねえかよ……くそっ……ちょっとでも信じたのが馬鹿だった。
だが、それ以上に時間が切迫しているのも事実だった。
考えても答えは出ない。いや、もう実際のところ選択肢は1つしかないのだが、それを受け入れることになぜか心理的な抵抗があった。
それからしばらくして、
「……ああ!!」
もう背に腹は代えられない。
急に叫んだことで、【るりちゃんっ】は何だよとびっくりしていた。
「そういやお前の事は何て呼べばいい? るりちゃんでいいか?」
「長柄でいい」
「分かった。別に俺はお前がやっていたことなんて大して興味はないから聞くつもりなんてない。ただお前に頼みがある」
そうして、よしあきはたっぷりと息を吸い込むと言い放った。
「大会、俺と一緒に出てくれないか?」
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