第3話 vs AI
《広場》にはたくさんの人で、ごった返していた。
キャラクターの作成が完了またはログインすると、最初は皆、広場といった場所に飛ばされる。
ここではクエストやら、チュートリアルといった何かをするわけではない。
強いていうのなら、自分のアバターがゲーム内でどう動くかなどのテストやスキルメイキング、後は他のプレーヤーとチャットトーク等ができるくらいだ。
リーグ・グロリアスは元はMMORPGだったので、そういった要素が取り入れられており、それがまた一部の人にはウケているらしい。
けれどよしあきにとって、このシステムはあまり快く思っていなかった。
これのせいで、新しくアカウントを作らなければいけない羽目になったのだから。
よしあきはアカウント作成後、すぐさまAIモードをやることにした。
作りたてのアカウントは、チュートリアルかAIモードしかできないので仕方がない。
難易度は当然、一番難しい【Ultimate】級。これがランクマッチを最短でやるためには一番手っ取り早いのだ。
マッチングはすぐに決まった。
今回は5vs5のモードなので、味方4人と協力プレーをすることになる。
リーグ・グロリアスのルールはおおざっぱに言ってしまえば簡単だ。
相手の本陣にある【グロリアス・クリスタル】を破壊する。その一言に尽きる。
それを壊すために、各所に点在されているタワーや相手プレーヤーを倒していくという流れだ。
◇ ◇ ◇
空はまだ明るいものの、大部分が薄暗い霧で覆われた広大な森は、薄紫色に染まっていて、どことなくダークな雰囲気を醸し出している。
定間隔で配置されているのはタワーと呼ばれる、範囲内に侵入してきた敵プレーヤーやミニオンを自動迎撃するシステム。
そこから更に視点を奥に向ければ、人工的に作られたであろう広大な石造りの堅牢な要塞。
そして要塞の最奥部には、コアである【グロリアス・クリスタル】が輝きを帯びている。
その地点に5人、それぞれを線でつなぎ合わせれば五角形になるような配置で、プレーヤーのアバターが召喚されていく。
ここが《リーグ・グロリアス》の始まりの地点であり、ベースだ。
死んだ時にはここに戻ってくるリスポーン地点でもある。そして、アイテムを買える場所も基本的にはここ。【リコール】を選択すると、詠唱して、戻ってくることもできる。
そして、ベースのすぐ目の前には自分たちの【グロリアス・クリスタル】があり、ここを破壊されてしまえば負けとなる。
ゲームが始まる前には、【ピックフェイズ】というものが存在する。
リーグ・グロリアスには、MMORPGのように職業といったものは存在しない。
しかしその代わりとして、ゲームにはそれぞれ【ロール】と呼ばれる役割が存在する。
それらは一般的なMMORPGとおおよそ似通っていて、タンクといった前衛、アサシンやメイジといった火力(キャリー)の後衛、そういったものがかなり細かく分類されている。
だから【ピックフェイズ】では、どのプレーヤーがどのロールをプレーするのかを互いに相談しあって決めなければいけない。
「はいっ! 私、キャリーやります!」
真っ先に言ったのは赤髪のちんまい少女アバターのプレーヤー。
《リーグ・グロリアス》では、ボイスチャットで仲間とのコミュニケーションを取るのが一般的だ。ピングやチャットでも意思疎通は出来るが、細かい情報を伝えるのに一番的確に素早く伝達できるのがボイスチャットだ。だからみんなそれを利用している。
「どっちの?」
隣にいた海賊アバターの男が尋ねた。
「もちろん魔法で!」
赤髪のアバターのキャラが揚々と声を上げながら、スキル構成をみんなに見せる。
ベースダメージが中々に高く、モーションもいいので、コンボも決めやすそうだった。
「じゃあ俺はフロントやろうかな」
そんな風に、互いにスキル構成を見せ合いながら、次々とロールが埋まっていく。
すると赤髪のアバターが言った。
「えーっと……【Flaw】さんはどうしますか?」
「あー……、俺はファイターかな」
ボイスチャットでよしあきは苦笑しつつ、濁すように答えた。
よしあきは、あまりそういったロールの分担といったものは関心がなかった。ロールの分担というのは勝つためには必須だが、正直どうでもよかったのだ。
なぜならこれはAIモード。よしあきにとってどれだけ難易度が高くても、プロ級の腕前を持つ彼にとっては、造作もなかったからである。
そして何より、ほぼ既存の初期スキルを見せる事も躊躇われた。
【Ultimate】級に参加するのはある程度熟練したプレーヤーが多く、この構成を見せてしまえば、初心者が間違って入ってきたんじゃないかと、白い目で見られてしまうからだ。
結局チーム構成は、前衛(ファイターとタンク)が2人、後衛のキャリー(物理と魔法)が2人、サポート1人のオーソドックスな構成になった。
ゲームが開始するや否や、与えられた初期ゴールド――500ゴールドで【攻撃力+10】のダガーとポーションをいくつか購入して、よしあきはすぐさま敵を捜しに行く。
ちょうどマップ内中央地点――ミドルからトップ方面のブッシュ辺りの位置に敵を見つけた。
AI・《ボーンベア》。クマとイノシシを足して2で割ったようなキャラを模した四足歩行のアバター。
よしあきは発見するやいなや、《ソード・ショット》をボーンベアに叩き込み、更に追い打ちでオートアタック(通常攻撃)を挟む。敵のHPの2割程が削れる。
まだゲームは始まったばかりでレベルは1なので、スキルは1つしか取れない。
スキルは1レベルにつき1ポイント。これはどのプレーヤーでも同じ共通ルールだ。
よしあきの攻撃に反応して、ボーンベアも反撃してくる。荒れ狂うようにこちらにめがけて突っ込んできた。
画面下部に表示されているHPバーが3割程減少する。加えて0.8秒のスタン。そこからのオートアタックで更にHPが削れる。
――……突進スキルか。いけるな。
すぐさまよしあきは反撃することを選択した。
AIプログラムは膨大なプレーヤーのデータから、より人間らしく振る舞うようアルゴリズムが組まれている。難易度は高いので、当然、ベテランプレイヤーの動きを参考にして作られている。
よしあきは、敵とうまい具合に距離を測りながら、殴り合い、近くにあるブッシュまで誘導する。オートアタックは対象を指定して攻撃するので、避けることはできない。
よしあきもボーンベアも、お互いに近接攻撃型(Melee)なので、オートアタックの射程距離は同じくらいだが、よしあきには算段があった。
よしあきはボーンベアを発見した瞬間、すぐさま相手のステータスを確認していた。
HP、攻撃速度、アーマー。そして先程のスキルモーションと、オートアタックによるダメージ。
通常ああいった突進スキルはC・C《クラウドコントロール》がある分、クールダウンが長く設定される場合が多いのだ。
《ソード・ショット》はただの片手剣を薙ぎ払うだけのスキルで、オートアタックにちょっと毛が生えたものでしかない。だが、その汎用性は破格でクールダウンは6秒ほどとスキルレベルは1レベルからにしては、かなり短くなっている。
それらを総合的にかつ瞬時に判断して、この戦いは勝てると判断していた。
互いに攻撃を交わし合いつつ、ボーンベアのHPが2割程になって、勝てないの判断したのか、撤退を始めた。けれど、もうそれでは遅い。余すことなく追撃。ボーンべアのHPが0になり、呻き声をあげながら倒れた。
相手を倒せばゴールドが得られることができ、より自分の装備が早く揃えられ、スピーディに育つことができるのだ。そうなれば自然とゲームの影響力があがる。
それからもよしあきは、ペースを落とさずに5分で3キルを獲得した。
「あれ? これって難易度【Beginner】じゃないよな?」
「そのはず、なんですけどね……」
海賊アバターの男がボヤき、赤髪アバターがそれに答える。
そんな声を無視して、よしあきはただひたすらにプレーに集中していた。キーボードに添えた左手の指先をフルに活用して、右手は一切休めることなくマウスを動かして、一言も喋るらず、ただゲームに没頭する。
【Ultimate】級のAI相手にも、1対3といった人数差を作られても負けない圧倒的な強さを発揮していた。
ゲーム時間24分。 了。
――よしあきは、ほとんど1人でゲームを勝ちに導いたのだった。
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