第12話 de’ Conti  ディ・コンティ

 目を覚ますと知らないベットの上に寝かされていた。体中が軋むように痛む。大体リナルドのような暗黒面に落ちたタイプは加減と言うものを知らない。俺はブツブツ言いながら身を起こし、テーブルの上にきちんと畳まれていた服に袖を通す。ここがどこかは知らないがあのリナルドの野郎の知り合いの屋敷に違いない。ならばいち早く脱出するに限る。


 部屋にはいわゆるペルシャ絨毯のようなものが壁に飾られていた。ぷ。知ってますか? 絨毯って壁に飾るんじゃなくて床に敷くものなんですけど。


『この時代は壁に飾るものだったんですよ』


 顔をボコボコに腫らしたシルヴァーノが現れ解説する。なんでもこの当時は暖房設備が充実していないので、少しでも暖かく暮らすために絨毯を壁に貼り付けるのだという。床に敷いた方がはるかに効率的だと思うのは俺だけだろうか。


『で、ここはどこなんだ?』


『僕も今目を覚ましたところですから何とも言えません。ただ、明らかに上流階級の屋敷ですね。絨毯なんて誰もが手に入れられるものではないですから』


『なるほどねぇ』


 そんな話をしている時にドアをノックする音が響いた。


「どうぞ」


 既に身支度を終えていた俺は、来訪者を招き入れた。


「お目覚めかな、ジョルジオ卿」


「あぁー! アンタ!」


 顔を出したのは忘れもしない、豚野郎ことコンティ伯だ。


「先日は失礼をした。あの件に関しては本当に済まない事をしたと思っている。このとおりだ」


 コンティ伯は姿勢を正し、太った体を折り曲げる。こうされてはこれ以上文句を言うわけにも行かないが、だからと言って腹立たしさが消えたわけでもない。

 まあとにかく、と伯に導かれ豪華なテーブルセットが設えられた部屋に身を移す。侍女がシードルの入った陶器製のカップを置いて、姿を消すと伯は苦々しく口を開いた。


「卿には自己紹介すらおざなりにしたままだったな。改めて挨拶申し上げる。我が名はロタリオ、ロタリオ・ディ・コンティと申す。ディ・コンティ家の当主にしてリナルド枢機卿とは従兄弟に当たる者だ」


「はぁ、それはわざわざどうも。ロタリオさんですね」


「先日は無礼を働き済まなかった。改めて詫びよう」


「いえ、いいんですよ。ただ、義父のアレッシオの名誉の為にも良ければ訳があるなら教えてくれませんか?」


「あ、うん。それは構わんのだが。一つ約束をしてはくれんか? この事は決して口外せぬと」


「それは伯がそう望むのであれば」


「伯などと他人行儀はやめてくれ。ほれ、この通り。儂も今や卿と同じく『教皇の犬』だ」


 そう言って胸元から下げていた勲章を取り出した。ああ、なるほど。この人もあのリナルドの無茶に付き合わされたと言う訳か。完全に負け犬の目でため息をついて勲章を見つめるロタリオさんに何故か強い親近感を感じた。


「つまり、リナルド枢機卿に伝わっては不味い話というわけですか? ロタリオさん」


「ま、そういう事だ。卿もあの男にはひどい目に合わされているのだろう?」


「ええ、まあ、現在進行形で」


「ならば、あんな男を親族に抱えた儂の苦労も想像がつこう? 恥ずかしい話ではあるがコンティの家は2つに分かれておってな」


「内紛があるんですか?」


「内紛と言うよりは多数を占める主流派と、儂をはじめとした僅かな反対派じゃ」


「ロタリオさんは当主なんでしょ? なんでまた反対派なんかに?」


「言い方を変えよう。リナルドとそれ以外と言えばわかるかな?」


「ああ、なるほど」


「アレは幼い頃から出来が良くてな。天才といってもいい。学問にしろ武術にしろ、他の追随をゆるさなんだ。知っての事とは思うが我がコンティ家は過去に2人の教皇を排出しておる。出来のいいリナルドを教会に、と言う話は儂の伯父に当たる教皇、グレゴリウス9世猊下が登位された頃から望まれていてな、無論、教皇猊下の命とあれば我ら一族に否は無く、リナルドは順調に聖職の一歩を踏み出したのじゃ」


「伯父が教皇猊下なら出世も早いんじゃないですか?」


「ああ、アレは28の年に助祭、30の年には教皇の秘書長で時には代理も務めるカメルレンゴ。そして司教を経て今年、45にして首席枢機卿じゃ。恐らくこのままいけば次の教皇はアレが務めることになるだろう」


「最高じゃないですか。まあ、本人の人格はともかくとして、一族からまた、教皇が排出されるかもしれないんですよ?」


「まあ、表向きはそうだな。しかしアレの本心から言えば、俗世で思う存分その豊かな才を発揮したかったらしい。簡単に言えばアレを教会に差し出した一族の長たる儂を恨んでいるんじゃ。しかも卿も知っての通り、アレは完璧な外面を保っている。本性を知っているのは幼い時から共に育った儂と、卿ぐらいなものだ」


「うわぁ、それきついっすね。俺なら一週間で逃げ出しますよ」


「だろう? 卿にだけはわかってもらえると信じていたよ! アレがどれほど悪辣な事をしでかしても争えば必ず儂の負け。アレの外面の笑顔に秘められたカリスマは儂のような凡人ではとてもとても対抗できる物ではなかったのだ」


「わかりますよ、ロタリオさん! その気持ち俺は痛いほどわかります!」


「で、ここからが本題なのだが、卿が継いだマセラティの家は小身ながらも代々コンティ家に忠義を尽くしてくれた家柄でな、その中でもアレッシオは武勇に秀でた立派な家臣だったんじゃ」


「だったら何故? 俺がどこの誰とも知れぬ男であることは自覚してますが、義父はそうじゃないんですよね?」


「ああ、立派な男だったよ。年齢も近いし幼い頃は共に野山を駆け巡ったものじゃ。しかしな、アレッシオは事のほかリナルドとウマがあっての、儂にも忠義を尽くしてはくれたが何よりもリナルドの忠実な友であったのだよ」


「それで、一体何があったんです?」


「十字軍じゃよ。アレッシオは皇帝の起こした十字軍に従軍したいと申し出てきおったんじゃ」


「それって教会としてはまずい事なんですか?」


「まずいどころではない。コンティ家出身の教皇であるインノケンティウス3世猊下は皇帝とは不倶戴天の間柄と言っても差し支えない間柄でな、十字軍起こした当時、皇帝は破門に処された身であったのだ。いくら十字軍とは言え、破門者の指揮下に入るなど我がコンティ家の歴史が許さない。そう言って諌めたにもかかわらず、血の気の多い家臣たちを連れ、勝手に従軍しおったのだ!」


「でも義父は死のまぎわに『コンティ家に忠誠を尽くせ』と言ってました。裏切った人間の言葉とは思えないんですけど」


「ああ、アレッシオは裏切っていない。何しろ従軍の命はリナルドから出された物だったんだからな」


「それってまずいですよね? 当主の言葉に従わずいくら一族とは言え、出家した者の命に従うってことですよね」


「アレッシオは何の悪びれもなく、頻繁に儂の元に手紙を出してきおった。それによれば皇帝がどのようなやり方で十字軍を導くのかつぶさに観察してこいとリナルドに言われたらしい。そのことが結局のところ儂の手柄になるのだからと」


「あー、あの人のやりそうな手ですね。無理を通しておきながら後で、「な? 俺の言ったとおりになっただろ」みたいな事言うんですよね」


「そうそう、そうなんじゃよ、結果としては良い形になってるから尚更始末が悪い」


「わかりますよ、その気持ち。多分あの野郎の本性を知らない義父は罪悪感の欠片も無かったでしょうからね。あ、すいません流石に首席枢機卿に向かって『あの野郎』はまずいですね」


「何を言っておるのだジョルジオ卿。あんな最低のクズにはあの野郎でももったいない! いやあ生まれてこの方こんな話が出来る相手に巡り会えようとは。まさに神のお導きじゃな」


 心底嬉しそうな笑顔を見せるコンティ伯。俺も何故か急に嬉しくなって彼と抱き合った。不幸な過去は忘れよう。今はこの理解者を与えてくれた神にただひたすら感謝しようではないか。


「でもスッキリしました。良かったです、ロタリオさんが義父を嫌っていたのではなくて」


「アイツはいい奴だった。リナルドにさえ会わなければ聖地で骸になることも無かっただろうに。卿に初めて会ったときは怒りとアレッシオを失った悲しみがごっちゃになってついつい厳しいことを言ってしまった。しかし司教が身代金まで要求していたのは儂も知らなかったんじゃ。せいぜい数日の間、牢で苦しませてやろう。そんな気持ちだったんじゃよ。思い返しても卿には済まぬことをした」


「いいんですよ。それに俺のことはジョルジオ、と普通に呼んでください。身分は伯には及びませんが今や我らは心の友。そうでしょう?」


「いや、全くじゃ。わが友ジョルジオよ! 我らはこの世にお互いしか分かり合えるものがおらぬ。何事も力を合わせていこうではないか!」


「もちろんですよ、ロタリオさん!」


 俺たちは力強くお互いを抱きしめた。ああ、分かり合える相手がいるってこんなに素敵な事なんだな。


「ほう、どうやら仲良くなれたようだな、犬ども」


 背筋が凍る。ロタリアさんも同様なようで、ふくよかな体が硬直した。


「り、リナルド、戻ってくるならそうと言ってくれねば困るではないか。あは、あはは」


 冷や汗を顔中に浮かべてロタリオさんが緋の衣に身を包んだリナルド枢機卿を出迎える。


「何やら不快な会話が聞こえてきていたが、まあいい。今回だけは特別に大目に見てやろう。で、従兄上、言っておいた準備はできているんだろうな?」


「あ、ああ、もちろんだとも。わしも教皇猊下と共にリヨンに赴く。アナーニの方にも使いを出しておいたから3日もすれば、300の兵がジェノヴァに着く」


「そりゃあ何よりだ。おい、ジョルジオ。コンティ伯はお前と共に教皇の警護をしてくださるそうだ。犬は犬同士せいぜい仲良くしておくんだな」


 それだけ言うとリナルド枢機卿は緋の衣を翻して屋敷を出ていった。ふぅ、と安堵のため息を着く俺達二人。同じ犬でも飼い主さえ違えばもう少し幸せだったのかもしれない。いや、飼い主はあくまで教皇だから調教師とでも言うべきだろうか。

 その日はコンティ伯、ロタリオさんの好意に甘え、もう一泊させてもらうことにした。船には使いを出してもらったので、心おきなくリラックスした時間を過ごす。何しろ人に言えない秘密を抱えた二人。話は尽きないのだ。豪華な夕食をご馳走になり、以前も入ったことのある風呂を使わせてもらう。高級なワインでほろ酔い加減な俺に、この風呂が何よりのもてなしだった。


 翌朝、着替えと称して新しい服を一式もらう。友情の証と言うので遠慮するのもどうかと思い、ありがたく受け取っておいた。着てきた地味な服は洗濯が済んだら船まで届けてくれるそうだ。オレンジの刺繍が襟元と袖口に施された黒の絹の上衣と赤のタイツ。それに前開きのシュールコーと呼ばれる半袖のコート状の上着。

 襟元や膝丈まである裾には毛皮があしらわれ、本体の素材は柔らかな皮だ。裏には詰め物をしてキルト状に縫ったリンネルの布地がついている。防寒着の一種なのだろう。寒さを増すこれからの季節にはピッタリの気の利いた贈り物だった。十分に礼を述べ、下男が引いてきた馬に乗り、船へと帰る。そうたいした距離ではないのだがこれも伯の心遣い。ありがたく受けておく。


 さて、船ではマストにミノムシのようにロープで巻かれたシェラールがぶら下げられていた。見て見ぬふりをしようかとも思ったが、水すらも与えられていないのか掠れた声で俺を呼ぶシェラールを見捨てることもできず、近くにいたミルコとブルーノと言う甲板員の兄弟に降ろしてやるよう頼んでみる。

 ロープを解かれ、すっかりやつれたシェラールに肩を貸してやりながら部屋に戻った。そこには部屋の掃除でもしていたのか何故かヒュリアが笑顔で出迎える。ああ、そう言えば彼女を侍女にするとかなんとか言ってたっけ。


 ヒュリアはシェラールを一瞥すると、フンと鼻を鳴らす。


「なんです? 二日くらい吊り下げられたくらいでそのやつれ様は。アサシンの男ならこのくらい、何事もなかったように振舞って当然でしょうに。ホント、兄さんは甘やかされて育ってるからこうなるんですよ!」


 よかった、俺アサシンに生まれなくて。聞けばシェラールは俺と別れてすぐにヒュリアに捕まり、その時以来マストに吊り下げられたままでいたそうだ。都合二日、水も食事も与えられることなく晒し者だったわけね。まあ、俺を見捨てた罰だなこりゃ。


 働き者のダリオ修道士が俺の部屋を訪ねてきたのはそれから一週間ほど後の事だった。


「ジョルジオ殿、少々よろしいかな?」


 ダリオはこのジェノヴァに来てからというもの休む暇もなく働いている。ここ数日は防具職人のところに入り浸りだったようだ。だがそれだけではなく、交易品であるドイツ銀の買い付けや、食料、水の手配、それに俺の日用品に紋章を刻む為、細工師のところにも煩雑に顔を出す。船の帆の紋章の染付も、旗の手配も、金のかかることは一切合切彼が取り仕切る。そしてキリのいいところで中間報告のために姿を現すのだ。

 その日は防具職人を連れて現れた。防具職人の親方が弟子に木箱を担がせ現れる。木箱には俺が着ていた極薄のチェインメイルが収められていた。


「親方に頼んでいくらか改良を施しておきました。今日はサイズ合わせと使用感の確認です」


 そう言うとダリオは俺に分厚い詰め物をした鎧下、ギャンベソンと言うらしいが、それを着せる。その上にチェインメイルを被せ、髪の毛が引っかかるのも構わずに無理やり着せる。相変わらず極薄のままだが、ギャンベソンがあるせいか、幾分安心感がある。

 一体どこを改良したのかパッと見わからなかったが、よくよく見れば、襟元がやや大きく開かれ、鎖の切れ目には黒く染めた革で補強が成してある。元々使ったことのないフードは取り外されており、全体としては鎖で覆われた面積が減っているようにも思えた。


「ふむ。サイズは問題ないようですな」

 ダリオはそう言うと職人たちに次の指示をする。肘から先に鉄板を加工した防具を取り付けているのだ。そう、あのいかにも騎士といった感じのプレートメイル。その一部だけがここに姿を現したのだ。


「どうです? 動かしづらくはありませんかな?」


 いかにも職人といった感じの気難しいそうな親方が、しかめ面で俺に意見を聞いた。


「全然問題ないですよ」


 ガチャガチャと腕を動かしながら答える俺。


「ふむ。ダリオ殿、軽量化の為には、鎖の肘から下は切り取ったほうが良さそうですな」


「なるほど。プレートであれば防御力に問題はないですからな。いいでしょう、親方の思う通りに」


 ここで一回鎧を脱がされ、今度はタイツを穿かされる。そして色っぽいガーターストッキングのような足鎧を穿かされた。腰のベルトで吊る方式といい、現代のガーターベルトはこの頃に開発されたものなのだろう。これにもやはり、膝から下にやや厚めのプレートが当てられる。


「ふむ。これもやはり脛あたりで切りましょう。すね当てはブーツに付けるということで」


「親方の思う通りに。金に糸目は付けませぬゆえ」


「そもそもこの鎧自体が滅多にお目にかかれない名品だ。これだけ細かい鎖で編むとなればその労力だけでも大したもんですよ。買うとなりゃ300リラは下らないでしょうからな。まあ、俺もジェノヴァの武具職人の端くれ。これほどの品を任されたとあっちゃあ手抜きなんかできるわけもねえ。ジェノヴァ職人の名誉にかけて最高の品を作ってみせますよ」


 彼らは俺の意見など全く聞く気すら無いようで、勝手に盛り上がり話を決めている。俺は再び鎧を脱がされ、弟子がそれを丁寧に木箱に収めるとそそくさと部屋を出ていった。そう言えば俺の部屋からは防具の一切合切がなくなっていた。あるのはなんとかポイントとか言う枢機卿にもらった剣だけだ。残りは全部ダリオが修繕に出しているのだろう。


 それからも代わり映えのしない日々が続いた。今日はもう26日。季節はすっかり秋めいて、吹く風も肌寒い。初めてこの港に停泊してからそろそろ20日が過ぎようとしていた。俺がこの時代に送り込まれたのが7月だから都合、3ヶ月も過ぎている訳だ。いつも通り朝は馬術、日中は剣、そして夕方からまた馬術とひたすら自己鍛錬に励む。馬術はなんとか様になるようになったが、剣のほうはまだまだシルヴァーノにはかなわない。時たまコンティ伯から誘いがあるので夕食をご馳走になったり風呂に入らせてもらったりもしているが、あれ以来リナルド枢機卿の姿は見えない。かと言ってわざわざ自分から死地に飛び込む趣味もないので何事もなく平穏無事に過ごせていた。


 ――はずだった。


 最近何故か船の連中が苛立っている。俺がそれに気がついたのはシルヴァーノに誘われ、二度目の売春宿突撃作戦を敢行、ヒュリアによって玉砕させられた夜の事だった。ヒュリアに腕を掴まれこっそりと船に戻ると何やら話し声が聞こえるのだ。


「そろそろ俺は限界だ! アホな漕ぎ手の連中は何も感じちゃいねえが俺は違う! 子が生まれる前には戻るって嫁さんと約束しちまってんだ。そもそも約束は一週間のはずだろ? それがもう20日目だ。騎士様だかなんだか知らねーが、そもそも俺にはあんな男に仕えるなんて無理な話だったのさ!」


「馬鹿、声がでかい! 姉御がそうしろって言ってんだから俺たちゃそうするしかねーだろうが! 不満に思ってんのはお前だけじゃねーんだ。みんな島に帰りてーんだよ!」


「おい、お前らは見てねーから知らねーだろうがあのジョルジオ様は姉御に勝ったお方だぞ? 強い者には従う、それが俺達のやり方だろうが」


「それにあの時負けて、奴隷にされそうだった姉御たちを救ってくれたのもあのお方だって話じゃねーか。だからこそ俺たちはみんなの前で忠誠を誓ったんだろ? それを今更どうこう言うのは間違ってると思うぜ」


「はん! オメーらも焼きが回ったな。あの男が姉御に勝ったのは偶然に決まってる。イスラムとの一騎打ちだって相手がバランス崩して海に落っこちただけじゃねーか! それに俺は見たんだ。ジャンの奴が狙われてるってのにあの野郎は声のひとつもかけてやらなかった。漕ぎ手の連中はアホだからわかんねーだろうが、俺からしてみりゃジャンを殺したのはあの騎士様なんだよ! 大体オメーらはいつからそんな腑抜けになっちまった? 海の男ってのは言いたいことを我慢なんかしねえ! そうじゃねーのか?」


「お前の気持ちもわかんねーわけじゃねーけどよ、ジョルジオ様に文句つけるってことはそれを認めた姉御に文句付けるって事だぜ? そんなことできるはずがねーだろ?」


「アンタら、本当に腑抜けになっちまったのかい? 兄貴が言ってることは何にも間違っちゃいねーよ。そうだろ? みんな島に帰りてぇ。そしてアイツは一週間の約束でここに停泊した。約束を破ったのはアイツの方だ。なのに何で俺達が我慢しなきゃならねーんだ? 姉御だろうが誰だろうがこりゃあ通らねー話じゃねーのか?」


 その発言に皆引きずられたようで、「そうだな」とか「そりゃあもっともだ」などと相槌を打つ。聞いてる俺は耳が痛いどころか心臓を鷲掴みにされるほどショックを受けていた。そう言えば俺は彼らの都合とか考えたこと無かった。

 いつの間にかあいつらは俺の言うことを聞いて当たり前だと思っていたんだ。だが彼らも同じ人間、生の声は上に立つものに対して想像以上に厳しく、辛い。


『斬りましょう。放置すれば彼らはいつか反旗を翻します。火は小さいうちに消さねばあっという間に燃え広がりますよ』


『そんなことできるはずがないだろう? 曲がりなりにも今まで一緒にやってきた仲間なんだ。それに一週間の約束を破ったのは俺の方だ。こうして聞いてみるまで彼らの気持ちとか考えることさえしない俺に非がある』


『いいですか、彼らは貴方に忠誠を誓ったのです。例えどんな事情があろうとね。それを高々私情で反故にしようなど口にしただけでも許せませんよ。貴方ができないのであれば僕がやります』


『ダメだ! お前いつ消えるかわからない体なんだろ? こんなことで危ない橋を渡らせるわけには行かない。とにかくだ、まずはロザリアたちに相談するのが先だろ?』


『そうですか。貴方がそう言うなら従いましょう。但し、どんな結果になっても知りませんからね』


『わかった。責任を取るのが俺の仕事なんだろ? 結果はちゃんと受け止めるさ』


 とはいったものの俺は楽観的に捉えていた。話の流れから言っても彼らはロザリアには逆らわない。であればロザリアからきつめの注意を受ければ文句も出なくなるだろうと。


 いつの間にか隣にいたヒュリアが姿を消していた。退屈になって部屋に戻ったのかもしれない。俺は重たい気分で船長室のドアをノックする。


「なんだい、こんな夜中に。まさかまた懲りもせず夜這いでもかけようってんじゃないだろうね?」


 ロザリアは完全に俺を拒否している。疑いの眼差しのまま、俺を部屋に招き入れると薄手の寝巻きの上に厚い上着を羽織ってきた。


「悪いね、こんな遅くに」


「全くだよ。つまんない話なら蹴り飛ばすよ?」


「いや、つまらないのはつまらないんだけど、重大な話だ」


 俺はさっき聞いた一部始終をロザリアに語り聞かせる。島に帰れないことで船内の一部が不満を抱えていること。一週間の停泊期限を守らなかったことで俺に怒りを覚えていること、そして俺がその気持ちをもっともだと感じていることなどだ。


 最初は腕組みしながら不機嫌そうに聞いていたロザリアは、話が進むにつれて、怒りの色を濃くしていく。それが爆発したのは最後に俺の感想を聞かせた時だ。


「アンタ、相変わらず馬鹿だ! 大馬鹿だ! なんでそんな事言われて納得してんだよ! アタシはいったはずだ。慕われんのは構わないが舐められるんじゃないよってね。今のアンタは舐められてる。そのことが解らないのかい?」


「そうは言っても停泊期間を引き伸ばしてるのは俺の都合だ。皆が故郷に帰りたい気持ちもわかるし、何より約束を破ってるのは俺の方だ。彼らに非があるとは思えないんだよ」


「ここに居るのはアンタのワガママなのかい? そうじゃないだろ、アンタが仕える教皇猊下のご都合さ。それにアンタの都合は従者たるアタシ達の都合でもあるんだ。それが主従ってもんだろうが! それすらわからないアンタも、陰で文句言ってるそいつらもどいつもこいつも大馬鹿野郎だ! なんでアンタはその場で殴りつけない! 一人ぐらい見せしめに斬っちまうべきだったんだ!」


「そんな理由で殺せる訳ないだろ? 理屈は彼らの方が通っているんだ」


「だったらアンタは奴らが反乱を起こしたら黙って殺されてやるのかい? 君たちの方が正しいからねって」


「そ、そりゃあ無理だけど」


「アタシはねぇ、アタシは本気で今ほどアンタに呆れたことはないよ! ついてきな! アタシがアンタに人の上に立つってのがどういうことかきっちり教えてやるよ!」


 そう言う彼女の日焼けした顔は涙に濡れていた。なんでこれほど怒るのだろうか。理を説いて話し合うべきではないのか?


 ロザリアは部屋に戻って着替え始める。俺にも部屋に戻って剣をとってこいと言うので渋々と従った。ロザリアはちょっとヒステリーの気があるんじゃないか? いつもいつも顔を見るたび怒っている気がする。


 剣を取って船長室へと上がる階段に差し掛かった時、非常召集の鐘が打ち鳴らされる。その音を合図に船は一気に喧騒に包まれた。


 船長室のドアが乱暴に開かれ、剣を持ったロザリアが現れる。そのロザリアにいつの間にか現れたヒュリアが何事かを囁いていた。


 甲板に皆が揃ったのはそれから数分も経たないうちだった。甲板にはかがり火がいくつも焚かれ、深夜だというのに眩しいほどの明るさだ。


 俺を中心にして右にロザリア、左にヒュリアが並ぶ。その脇に副長のルチアーノ。ロザリアの脇にはダリオ修道士が並ぶ。前には部署ごとに別れて整列した船員たち。一番左は航海長のロメオが並び、その後ろには二人の航海士。そのとなりの列には新しく漕ぎ手頭となったシェラールと50名の漕ぎ手たちが2列になって並ぶ。そしてその隣に20名の甲板員。先頭に立つのは甲板長のサビーネだ。一番右端にソニアを先頭にしたこの船の家事一切を切り盛りしている女たちが15人。これがこの船に乗っている全員だ。


「今から名前を呼ぶものは前にでろ。アントニオ、クリストフ、ダニーロ、アメリア、デボラ。それにミルコとブルーノ」


 ロザリアは淡々とした調子で名前を呼ぶ。前に現れたのは甲板員の男が5人、それと女が2人。男の中には前にシェラールをマストから降ろしてもらった兄弟もいた。どうやらヒュリアが事前に容疑者を特定していたようだ。さっき耳打ちしてたのはこのことなのだろう。


「お前たちには反逆の疑いが掛かっている。違うと言うなら訳を言え」


 皆俯いたままで押し黙り、誰ひとりとして口を開こうとはしない。


「どうした? 容疑を認めるのか? アントニオ! 訳を言え。反逆の罪がどんな罰を受けるのか知らぬお前ではあるまい?」


 名指しされたアントニオは目を泳がせつつも口を開いた。


「いや、その、俺たちは愚痴を言ってただけで、反逆なんか」


「そうか、ではクリストフ! お前の意見を言え」


「俺たちは別に、ただ島に帰りたいだけで」


 次に名指しされたダニーロも似たようなことを言う。


「そうか。ではアメリア。お前はどうだ?」


「アタシは別に、ただ島に帰りたいって思っちゃいけないのかい? それが悪いことなのかい?」


「わかった。デボラ、お前も同じか?」


 デボラと呼ばれた女はコクリと頷いた。


「ではミルコ。お前はどうだ? 言いたいことがあるのならこの際だ、言っておけ」


「姉御、俺は島の女房と約束してんだ。子が生まれるまでには帰るってな! そういう約束で船にも乗ったし、そこの大将だって停泊すんのは一週間だって言ってたじゃねえか! それが今日で20日。おかしいだろ? みんなもそうは思わねえのか?」


「そうだ、兄貴の言うとおりだ。大体アンタ、アンタがこの船に来てからおかしくなっちまった。それまでみんな仲良くやってたんだよ!」


 ブルーノは俺を指差してなじる。


「それにジャンだって、俺は見ちまったんだからな、アンタがジャンを見殺しにするところを! なんであの時声をかけてやらなかった! アンタが一声かけりゃアイツだってイスラムなんかに殺されずにすんだんだよ! 何が大将だ、アンタはクソの役にも立たねえ役立たずだ! そう思わねえかみんな!」


 ブルーノの呼びかけに反応するものは誰もいない。皆一様に押し黙ったままでくしゃみの一つすら誰もしなかった。


「なるほど、そいつがアンタのいい分かい?」


「姉御! アンタはそいつと出会ってから狂っちまってる! みんなもだよ! なあ、フェデリーゴの兄貴、フリオの兄貴もそうは思わねーのかい? なあ、ルチアーノの兄貴、俺たちゃ生まれてからずっと一緒だった。そうだろ? なあ、そんなよそ者に頭下げる必要なんかねーんだよ! 昔みたいにみんなで仲良くやればいいじゃねーか! そうだろ?」


「そうだ、ブルーノの言うことは間違っちゃいねえ。違うかい姉御。俺たちゃオギャアと生まれた時からおんなじもん食って、おんなじ景色を見て育ったんだ。この船にはよそもんなんかいらねーんだ。そうじゃねーのか?」


 弟を庇うかのように兄のミルコが叫びを上げる。しかし反応するものは誰もいなかった。


「アントニオ、クリストフ、あんたらもこいつ等兄弟と同じ意見なのかい? アメリア、デボラ、あんたたちはどうなんだ?」


「俺は、ミルコの言うことは間違っちゃいねえと思う」


「俺もだ」


 アントニオとクリストフは遠慮がちにそう言った。女二人もその言葉に勇気づけられたのか大きく頷く。ロザリアに対しては遠慮がちだが俺には皆、恐ろしい程の殺意を向ける。お前さえいなければ俺たちは幸せだったのだと。


「ちょうどいいから皆にも聞いてやる。こいつ等が正しいと思うやつは前に出な」


 ロザリアはあくまでも冷静に言い放つ。一人、また一人と前に踏み出す。驚いたのは甲板長のサビーネがそこにいた事だ。


「これで全員かい? 後で文句はいいっこなしだ。腹に何か抱えてる奴は前に出てきな」


 それだけ言っても誰も前には踏み出さない。結局前に出たのは甲板員から3名と女たちから2名。元居た連中も含めると全部で12名だ。


「これで全部かい? ならアタシはこの船の掟に従い罰をくださなきゃならない」


「ちょっと待ってくれ、姉御。俺たちの意見はどうなる? あの騎士かぶれ野郎どもを船から追放すりゃ済む話じゃねーのか?まさか一緒に育ってきた俺たちよりその野郎の方が大事だとか言わねーよな?」


 サビーネが野太い声で抗議する。周りの奴らもそうだそうだと叫びだした。


「残念ながらアンタの言うとおりさ、サビーネ。アタシはジョルジオ様に仕えてんだ。何よりもジョルジオ様が優先なんだよ。それがわからなかったのがアンタの運の尽きさね」


 そう言い終わるかどうかの時にサビーネの首が飛ぶ。抜き打ちにロザリアが斬ったのだ。


「さ、言い残すことはあるかい?」


 残りの面々に向き直り、ロザリアが死刑判決を下した。


「姉御! そりゃおかしいぜ! 俺たちゃアンタに文句があるわけじゃねえ。後ろのすかした顔してやがるエセ騎士に文句言っってんだ」


 アントニオが叫ぶ。それを聞いたロザリアはさっと左手を上げた。フェデリーゴをはじめとした面々が反乱者を取り押さえ、甲板に押し付ける。


「なあ!兄貴達! 本当にいいのか? 家族である俺達を殺してまであの騎士野郎に頭を下げる価値なんてねーはずだろ?」


「なあ、アントニオ。おめえ、いい奴だったよ。だがジョルジオ様の文句を言っちゃおしまいだ。あの人はいつだって逃げなかった。姉御との決闘もイスラムとの決闘も。ジャンが死んだのだってありゃあジョルジオ様にいいカッコ見せたかったからだぜ? それを生まれた時から一緒にいるおめえに誤解されちゃアイツだって浮かばれねえよ。あの世に行ったらジャンに詫び入れとくんだな」


「なあ、嘘だろ? 嘘だって言ってくれよ、フェデリーゴの兄貴よう!」


「ここでお別れだ、アントニオ。おめえのことは忘れねーよ」


 そう言うとフェデリーゴはアントニオの首をへし折った。


 アメリアとデボラは仲間であった女たちの持っていた包丁で胸を深々と刺され、何が起こったのかわからない、と言った顔をして死んでいった。クリストフはフリオが斧で頭を割り、ダニーロはルチアーノに喉をかき切られた。次々と血の海に沈む反乱者たち。


「お、俺はこんなとこで死ぬわけにはいかねーんだ。女房が、ジーナの奴が俺を待ってくれてる。子供の名前だって考えてんだ、男ならカルロ、女ならクレオってな! だからこの目で生まれてくる子を見るまでは死ねねえんだ!」


 そう言うとミルコは走り出し、海に飛び込もうとする。その瞬間、ロメオのクロスボウで背中を射抜かれる。船べりにひっかかった海藻のように折れ曲がった格好で、ミルコは死んだ。


 最後に残ったブルーノが俺を指差し呪いの言葉を浴びせる。


「いいか!よく聞け、このエセ騎士。俺は死んでもお前を許さない! 兄貴を殺し、仲間を殺し、ジャンを見殺しにしたお前をな! せいぜい長生きするんだな。何しろあの世で俺達がお前を痛めつけるために待っててやるんだからな。ハハハ!」


「そのうるさい口を閉じるんだね。ブルーノ」


 ロザリアが剣をブルーノの腹に突き刺した。剣先が背中から顔をだし、腹には柄までしっかり埋まっている。


「へへ、姉御、俺、小さな頃からアンタに惚れてた。アンタに殺されんなら本望だよ」


「最後まで甘ったれだね、お前は」


 ブルーノの死に顔は満足げに笑っていた。ロザリアはその死体に足で蹴り、剣を引き抜いた。


「いいかい、お前たち。文句があんならアタシにいいな。ジョルジオ様にケチつけようなんぞお門違いもいいとこだ。二度とは言わないから耳の穴カッポジってよく聞きな。ジョルジオ様への文句はアタシへの文句だ。そしてそれをアタシは絶対に許さない。それだけはしっかり覚えとくんだね!」


 応!と力強い返事が返り、皆それぞれの持ち場に帰る。数を大きく減らし頭のサビーネまで失った甲板員が死体を海に捨て、血で汚れた甲板に海水を流す。


 俺はただそれを黙って見ていることしかできなかった。また、俺の判断ミスで仲間を失ったのだ。あの時シルヴァーノの言う通りにしておけば。いや、もっと早くに皆に出航が遅れる訳を話しておけばと頭の中で後悔が駆け巡る。これが上に立つものの責任。

 これが結果を受け止めるという事。頭のどこかで「俺のせいじゃねーし」という言葉が発せられたがその声は弱く、数瞬の後には消え去った。そう、誰のせいでもない。これは俺のせいなのだ。俺の無能さが12人の命を散らしたのだ。


 ははは、流石は中世。トラウマばかり作りやがる。なるほど、こんな世界に生きてりゃ神様にでもすがりたくなるってもんだ。その夜、俺は枕に顔をうずめて泣いた。


 翌日、俺はロザリアに呼ばれ、船長室に赴いた。


「ああ、呼びつけて済まないね。アンタには今後の予定を話しておかなきゃと思って」


 船長室にはロザリアの他、修道士ダリオ、副長のルチアーノ、航海長のロメオ、漕ぎ手頭のフリオ、そして新たに甲板長に任じられたエミリオが顔を揃えている。


「アンタが出発したらアタシたちはエーゲ海に舵を切る。そこのアタシたちの島でこの冬を越すつもりさ」


「冬は船に乗らないの?」


「ああ、冬は波が高くなる。船を出せないわけじゃあないけど、できる限り避けたいところだね」


「そうなんだ」


「それに人員の補充も必要だからね。アンタには悪いけどアタシたちは島でゆっくりと冬を越させてもらうよ」


「じゃあ次に会えるのはいつになる?」


「そうさねぇ。アッコンに行って、春の早いうちにはジェノヴァに戻れるとは思うけど」


「そっか、寂しくなるな」


「その時にジョルジオ殿がここににおられるとは限りません。とは言え貴方は教皇の騎士ですからな。教皇猊下のおられる場所に使いを出しましょう」


「そうですね、そうしてください。ダリオ殿」


「まあ、それはともかくとして、昨日の件は済まなかったね。あれはアンタが原因というよりアタシ達に責のあることだった」


「いや、あれは俺のせいだ。俺がもっとうまく立ち回ることができれば」


「あいつらはね、甘ったれだったのさ。アタシにねだればなんとかなる。そう思ってたんだ。今までもずっとそうだったしね」


「そうですね、船長の言うとおりです。あいつらだけでなく俺も含めた全員がジョルジオ様の事をお客か何かと勘違いしていました。何しろ俺達の島じゃ、領主様とかそういうのはいませんからね。みんな、横並びだったんです。しいて言えば船長の親父さんがまとめ役でしたけど、それだって領主というわけじゃない。

 人に仕えるって事がどういうことかすらわからなかったんですよ。今回の事はいい機会です。これで二度と馬鹿な真似をしようなんて奴はいなくなるでしょうからね」


 主を持たない難民の島。彼らにすればそれが当たり前で、俺みたいな中途半端な奴に仕えたばっかりに甘えが出てこんな結果に。冷静に語るルチアーノの口調がひどく残酷に聞こえた。


「それにしてもさ、ジョルジオ様が島の領主じゃなくてなによりだよ」


「それって、俺が頼りにならないから?」


「ああ、誤解を招く言い方だったね。アンタが領主ならアタシ達はあいつらの家族まで殺さなきゃいけないところだったって話しさ」


「どういう事? 彼らは確かに俺にとっては反逆者だけどみんなにとっちゃ仲間であり家族なんだろ?」


「だからこそさ。反逆の罪ってのはそれだけ重い。アンタが領主ならあいつらの家族も同罪さ。身内から反逆者を出したんだからね。少なくとも親兄弟ぐらいは罪を問わなきゃ示しがつかない。そうだろ? 坊さん」


「まあ、そうですな。村ごと皆殺しにあった、というのもさして珍しい話ではありません。貴族の権威を否定するものはこの世界に生きる場所など無いでしょうな」


「そういうものなのか」


「ええ、そういうものです。ジョルジオ様の優しさはこの船の全員が存じています。しかし無学の悲しさ、度を超えた優しさは甘えを生み、付け上がらせる。そうなれば処断せねば治まりません。貴方は我らと違い、青い血の流れる貴族なのですから、そのあたりの線引きはきちんとして頂かないと無用の血が流れる事にもなるのです」


「相変わらずルチアーノの言うことは小難しくてあっしにはわからねえ。だがよ、大将。あっしは大将が好きだし、漕ぎ手の連中もみんなアンタを慕ってる。だからよぉ、こう、なんつーかうまく言えねえんだけど、もっと自信を持っていいんじゃねーですかい? 大将が死ねってんならあっしらは喜んで死ねる。それだけは忘れねえでくださいや」


「フリオにしちゃあ上出来な事言うじゃないか。ま、コイツの言うとおりアンタはもっと自信を持っていいんだ。いざ戦いって時にアタシらの命を気遣ってちゃ勝てるもんも勝てなくなるからね。アンタは黙って敵刃きらめく最前線にアタシ達を送り込む。それが出来て初めて一人前の主様なんだよ」


「それに、貴方は今や教皇の騎士。諸侯に劣らぬ高い身分を得ているのです。貴方が他の貴族に辱めを受けるようなことがあれば、それはすなわち我らの恥。

 穏やかな気質は神が貴方に与えた美徳ですが、貴族はそれだけでは務まりません。貴方が他者に意を通せれば通せるほど我らも暮らしやすくなるのです。逆に貴方が押しのけられればその分我らの肩身も狭くなる。それがこの世の仕組みですからな」


「ジョルジオ様」


 とそれまで黙っていた新甲板長のエミリオが口を開いた。


「今回の件、本当に済みませんでした。俺達甲板員からミルコのような反逆者が出たこと、それに甲板長の重責にあったサビーネまで。同じ甲板員として事前にあいつらを止められなかった事、俺が仲間を代表して謝ります」


「エミリオ、いいんだ。もう済んだことだし」


「そうさ、アンタは連中に同意しなかった。それだけで十分なんだよ。いいかい、アンタは今やこの船にとっちゃ欠かすことのできない男だ。悪いと思うなら働きで返しな」


「ええ、あいつらの分まで残った奴らと共に働きます!」


「それとジョルジオ様。一つお願いが」


 ルチアーノが神妙な顔つきで俺に頭を下げる。


「なんだい?」


「その、大変申し上げにくいんですが、死んだサビーネやミルコ達、イスラムとの戦いで戦死したって事にしてはくれませんか?」


「ルチアーノ!」


 ロザリアの金切り声が走る。


「お前、それがどういう事かわかってんのかい? あいつらはアタシらの主、ジョルジオ様に反逆したんだ。そのあいつらをジャン達みたく戦って死んだことにしろだぁ? お前はアイツがどれだけの事を言ったか聞いてなかったのかい? 事もあろうにジョルジオ様に向かって、ジャンを見殺しにした、とまで言い放ったんだ。お前、ジョルジオ様がその言葉をどんな思いで受け止めたと思う?」


「おい、アゴ長。あっしも今の言葉は許せねえ。テメエだって見てたんじゃねーのか? あのイスラムとの一騎打ちを。あっしはもちろん、フェデリーゴの兄貴だって、いや姉御だってあそこまではできねえ。みんなの代表として戦ってくれた大将に言っていい事じゃあねーだろうが!」


 フリオは言葉を荒げてルチアーノの襟首を掴む。普段ちゃらけているだけにフリオの真剣な顔は迫力があった。


「わかってる。わかってんだよそんな事! 姉御やお前に言われるまでもなくな! だがあいつらの家族はどうなる? そうとでもしてやらなきゃ爪弾きにされるに決まってる! あの島で反逆者の家族なんて言われた日には生きていけるわけねーだろうが。ミルコの生まれてくる子供なんざ親父の顔すら知らねーのにそんな扱い受けるんだぞ! わかってんのかフリオ!」


「だからと言ってそいつは仕方ねーだろ。反逆したのはあいつらの方で大将じゃねえ。なんだってテメエは大将にこれ以上の我慢をさせようとしやがるんだ!」


 ルチアーノはフリオを払い除け、俺の前に跪く。


「頼みます、ジョルジオ様。あいつらは確かに反逆者で言っちゃならないことも言った。それはわかってます! けどミルコとブルーノのとこは下に小さい弟や妹がいるんです。サビーネのとこは死んじまった親父の代わりに母ちゃんが年寄りの面倒を見てる。アントニオだってクリストフだって、他の奴らもみんな両親や兄弟がたくさんいるんです! 

 俺は小さい頃に両親を無くしてみんなの世話になって生きてきた。今だって弟や妹の面倒をみんなに見てもらってる。気に入らないなら俺の首を刎ねてもらっても構いません。だから島にいるあいつらの家族だけは許してやっちゃくれませんか?」


「どきな、ルチアーノ。お前は少し頭を冷やすべきだ。フリオ、エミリオ、こいつをしばらく船倉にでも押し込めといてくれ」


 フリオとエミリオに腕を掴まれ、引きずられるルチアーノ。あの能面ヅラのルチアーノが涙を流しながら俺に慈悲を乞う。


「頼みます! 頼みますから!」


「ええい、黙りな!」


 ロザリアがルチアーノの頬を張る。しかしルチアーノはそれでも口を閉ざさなかった。


「ちょっと待ってくれ!」


 俺は思わず大声で叫んでいた。


「俺は確かに甘いかもしれない。そのことがどんな結果になるかも今回思い知らされた。けど、甘いのかもしれないけど、俺はルチアーノに賛成だ。ダリオ殿、神は死者を赦す。そうですよね?」


「ええ、神はすべての罪を赦します」


「だったら、だったらあいつらはもう、その命で罪を購った。それ以上誰かが傷つく理由はない。そうだろ?」


「理由ならあるさ。あいつらは反逆者で反逆は船乗りの最大の罪だ。神が赦してもアタシは許さない。そしてコイツはそれを庇った。十分に押し込められるだけの罪さ」


「そうじゃねーだろロザリア! あいつらが反逆したのは俺にであって船長であるお前にじゃない。そしてお前の言ったように俺はお前たちの島の領主でもなければなんでもないんだ。あいつらの罪は裁かれた。その家族が暮らしにくくなるようなことをわざわざする必要なんかない!」


「アタシは船長でもあるけどアンタの従者でもあるんだ。そのアンタに逆らうってことはアタシに逆らったも同然さ」


 フフンと鼻で笑うロザリアの顔がこの時、我慢できない程俺を苛立たせた。感情の制御を失った俺は自分でも思っても見なかった行動にでる。ロザリアの頬を叩いたのだ。

 頬を叩く空気の割れる音がして、ロザリアは数歩、たたらを踏んだ。


「ロザリア、俺がいいと言っている。それでもお前は抗うのか? なんなら命令にしてもいいんだぞ」


「…わかった。アンタがそれでいいならアタシは従う。フリオ、エミリオ、ルチアーノを放してやんな」


「ジョルジオ様、この恩は決して忘れません。このルチアーノ、命ある限り貴方に従います!」


 そうひれ伏すルチアーノに短く「ああ」とだけ答え、俺は船長室を後にした。正直なところあれ以上、あの場に留まる勇気がなかったのだ。だってそうだろ? いくら腹が立ったからとは言え、女を叩いたんだぜ? うわ、どうしよう。俺、最低だ。


「どうした? いつになく浮かねえ顔してんじゃねーか」


 部屋に戻ると退屈そうに寝転んでいたシェラールが声をかけてくる。


「ああ、ちょっとな」


「おいおい、大将と俺の間柄でそりゃねーだろ。一体何があったんだ?」


 興味を覚えたのかしつこく食い下がるシェラールに俺は仕方なく訳を話した。


「かは! やるじゃねえか大将。ああいう姉御見てーな女はバシっと叩いてやらなきゃ解らねえからな。ま、俺はいい判断だったと思うぜ」


「でもさ、女を叩くなんて流石に後味悪くない?」


「なーに。女なんてそんなもんだ。口で言ってもわからねーからな」


「だったらお前もヒュリアを叩いてみちゃどうだ? こう、兄貴を軽んじるな!ってさ」


「ハッ、そんなことしたら間違いなく殺されちまうね」


「まあ、そうだろうな」


「おっと忘れるとこだった。枢機卿の使いとやらが来て、こいつを置いていったぜ。何しろお偉方はみんな船長室に篭もりきりだ。そこで陸戦隊長たる俺が代表して受け取っておいたって訳だ」


 いつの間にか新たな役職をこさえたシェラールをよそに、俺は蝋で封印がなされた羊皮紙を広げる。枢機卿ともなれば筆も達者でなければならないのか、華麗な修飾詞で彩られていたものの、要約すれば内容はこうだ。


『3日後に出発する。午前の鐘が鳴る前に準備の一切を整えて大聖堂前の広場に来い。遅れたら殺すからな』


 まずい、こうしちゃいられない。だけど船長室に向かうのは勇気がいる。かと言ってこのまま放っておいて万一遅れでもすればそこに待ち受けるのは確実な死。どうしよう。


「なんて書いてあるんだ? 俺はこっちの文字は苦手でね」


「3日後の午前の鐘までに準備して集まれって」


「おいおい、そんなのんきにしてる場合じゃねーだろ? とっとと船長室に行けよ!」


 俺は蹴りだされるようにして部屋を出された。うーん気まずい。まるでバイトの面接にいったらそこに正社員として振られた女が働いてた、ってくらいの気まずさだ。


 恐る恐る船長室のドアを開けると未だ幹部たちが集まって何やら打ち合わせをしている。


「あの~、ちょっといいかな」


 その声に全員が俺に注視する。叩かれた頬に赤みが残るロザリアはやはりバツが悪いのかややうつむき加減だ。


「ジョルジオ殿、どうされたのですかな?」


 ダリオがそう言いながらも目ざとく俺の握りしめていた羊皮紙を見つけ、「失礼」と取り上げる。


「ふむ。なるほど」


「どうしたのさ、坊さん」


「ジョルジオ殿の出発が3日後と決まった。ならば出航もそれに合わせるべきでしょうな」


「ちっ、教皇猊下も酷なことしなさるもんだ。あと一日この文書が早く届いてさえいれば誰も死なずに済んだだろうに。あっしはこういう時に運命ってやつを呪いたくなるんでさぁ」


「済んだ事を言うんじゃないよ、フリオ」


「そうですよ、フリオの兄貴。俺たちゃ出来ることをやるだけです。出航となれば忙しくなりますよ」


「けっ、エミリオのくせに言うじゃねーか。ま、そういう事だな。おい、ルチアーノ、おめえは大将についていくんだろ? こういっちゃあなんだが大将もシェラールもフェデリーゴの兄貴もオツムの方はイマイチだ。おめえがしっかりしねえとフランスだかどこだかで迷子になっちまうんだからな。俺たちの分もしっかり頼むぜ?」


「ああ、お前に言われるまでもないさ。そもそもこの船だってまともなオツムを持ってる奴は姉御くらいなもんだったんだ。大して変わらねえよ」


「そりゃ違いねえや。まあ、島の事は俺たちに任しとけ。悪いようにはしねえさ」


「すまんなフリオ。頼む」


 フリオとエミリオは準備のため、手を振って船長室を出て行った。


「さてそうなると上陸物資の調達ですな。ルチアーノ、進捗はどうなっていますか?」


 ダリオが擦り切れそうな羊皮紙の束をめくりながら確認する。ルチアーノも同様に羊皮紙にペンを走らせる。


「まずは糧食。教会の援助が期待できるとは言え、頼り切るのは危険と思い、一応一ヶ月は食いつなげるだけの干し肉や干し魚それにパンや小麦は用意しています。それとあいつらは食物にうるさいので嗜好品として果物やワイン、エールもそれなりに」


「そうですな。いざという時糧食ほど意味をなすものはありませんからな」


「それに冬用の上着と毛布を人数分。値は張りましたがミラノの毛織物を買い求めました。教皇のおそば近くに控えるともなれば、あまり貧相な格好もできませんからね。あとは調理道具や諸々の雑貨ですね」


「いい判断です。実用価値だけでなく威儀を正すのも大切なことですからな」


「あとはそれらを積む幌付きの荷馬車を二輛。付き従う女はヒュリアの他に5人選んであります。彼女たちは荷馬車の荷物管理の意味合いあり、荷物と共に荷馬車に乗ってもらいます」


「そちらは問題ないようですな。では私の方を。まず頼んでおいた帆布は明日にも船に届くでしょう。それと武具、これは今日届く予定です。鎧に盾、それに兜。武器は片手で扱うものと両手持ちの2種類を持たせます。ジョルジオ殿が考案された盾をもった前衛と長い武器の後衛、どちらにも対応できるようになっています。それと馬。ジョルジオ殿とシェラールにはそれぞれ2頭の馬を買い求めました。いざ戦闘ともなれば替え馬は必須ですからな。あとは旗ですが、これも明日には届きます」


「あとは路銀ですね」


「なんだかんだ物入りでしたからな。とりあえず皆の遊興費として50リラ。それとは別にジョルジオ殿の個人経費として100、予備費で50。これが出せる限度ですかな」


「ちょっと厳しくありませんか? 来春までの半年、冬場であれば薪も求めねばならず、馬の餌代だって馬鹿にはなりません。ダリオ殿、最低でも予備費として150は欲しいところです」


「しかし船の方もそんなに余裕はないですぞ。頑張っても100。これ以上は無理ですな」


「仕方ありません。それでなんとかやりくりしましょう。では私は準備がありますのでこれで」


 振り向きざまに俺にウインクをしたルチアーノが部屋を出ていく。あの様子じゃいくらか余計に予算を分捕ったのだろう。ダリオも商館に行く用事があるとかで部屋を出て行った。こちらは対照的にぶすっとした顔だ。


 残されたのは俺とロザリア。気まずい空気が流れる。


「じゃ、じゃあ俺もそろそろ失礼するよ」


「あ、ああ、そうだね」


 部屋を出てパタリとドアを閉める。ふぅ。これが男同士であればもっとサバサバした感じなんだろうけど、相手は何しろ眼帯美女だ。意識するなという方が難しい。しかも過去に迫って振られたとあれば尚更だ。


 甲板ではシェラールが選抜した上陸メンバーを集めて何やら訓示を垂れていた。皆それぞれ上陸を控え、準備に余念がない。あと三日、三日後にはこの住み慣れた船を離れなければならないのか。そう思うと強烈な寂しさに襲われた。オヤジと二人、母さんが妹を連れて出て行った家に暮らした時も、オヤジの転勤で引っ越した時もこれほどの郷愁を感じたことはない。ましてや元の時代からこちらに来た時ですら感じることのない不思議な気持ちだった。


 出発の前夜、船のみんなが甲板に出揃い、ささやかな壮行会が開かれる。酒も食事も豪華なものが振舞われ、親しいものとの別れに抱き合うものや涙を流すものがあちらこちらで残された時間を惜しんでいた。少々飲みすぎた俺は風に当たるために船べりに佇む。早いものでこちらに来てからもう3ヶ月。いろんな事があったが、今までにない充実した時間であることもまた、確かだった。


『そう悪いもんでもないな、この中世ってのも』


『便利な道具がない分、他人と助け合わねば生きていけないですからね。貴方の生まれた時代のように、他者との関わりを避けてはいられないのですよ』


『その分お互いの関係が濃密になる、か。そういうのって鬱陶しいもんだとばかり思っていたけど、こうして見るとかけがえのない物だな』


『ええ、知識も技術もない、まして豊かさなどには程遠いこの時代、人々の宝は築き上げた仲間との縁。言ってみれば皆が家族ですからね』


『そうだな』


『はは、貴方もいくらかはマシになってきたようですね。僕の出番が少なくなるのはアレですが』


『お前がいつ成仏してもいいように、俺がシッカリしないといけないからな』


『成仏? ああ、神に召されるってことですか。残念ながら僕はそう簡単には消え失せませんよ、何しろジョルジオ、貴方のそばに憑いていたほうが面白いですからね』


 それだけ言うとシルヴァーノは姿を消した。口ではああは言ってるものの、その姿すら今はおぼろげだ。俺はいつか必ず訪れるであろう彼との別れを覚悟しなければならない。そう思うだけで身を切られるような切なさに襲われる。


「隣、いいかい? アタシもちょっと飲み過ぎちまってね」


 ロザリオが声をかけてくる。ジョッキには並々注がれたワイン。どう見ても飲みすぎたようには見えなかった。


「ああ、もちろんさ」


 やや気後れしながらもそう答えると、ロザリアはぐいっとワインを口に含んで笑顔を向ける。


「何しけた顔してんのさ。別れるって言ったって高々半年のことさね。春になればまた、アタシたちはこのジェノヴァの港に戻ってくるんだ。それまでアンタはしっかりと教皇様やあの素敵な枢機卿を守ってやるんだろ? 大丈夫、アンタならできるさ。

 何しろアンタはこのアタシにすら勝った男なんだからね。皇帝だろうがなんだろうが気に入らない奴はぶちのめしてやんな! アタシは海の向こうでアンタの噂が聞こえてくるのを楽しみに待ってるからさ。今度会ったときはアタシがまた、惚れ込むような立派な騎士様になっておいておくれよ」


「ああ、頑張るよ。ロザリアもみんなも無事でいてくれよ? 俺が立派な騎士になったところでその話を聞いてくれる奴がいなけりゃ意味がないからな」


「はは、言うじゃないか。安心しな、アタシたちも次に来るときは船倉一杯の積荷を積んで大儲けさ。そしたらみんなで暮らせるような立派な屋敷でも買ってやるさ。アンタこそうっかり死んだりしたら許さないからね!」


 そう言ってロザリアは俺に軽くキスをすると皆の元に戻っていった。その甘い唇の感触にこれまでのわだかまりが溶けていく。出発を前に心に刺さったトゲが抜け、さっぱりとした気持ちになれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る