第20話 手品


「おい女、とりあえず状況を説明しろ。」


橋の下に着いたは牧田は女に聞いた。


「ねえ君失礼じゃない?

女とかこっち来いとか、何様なの?」


「はあ?お前だってさっきバカとか言ってたじゃねえかよ!

初対面で失礼なんじゃねえの!?」


「あれは非常事態でしょ!」


「だったら今も非常事態だろ!」


「ま、まあまあ。

二人とも落ち着いて。」


ヒートアップする二人の間に松本が入った。


「・・・まあ確かにそうだな。

手っ取り早く自己紹介だ。

俺は牧田、でこいつが松本。

おまえは?」


「あいかわらず口が悪いわね。

私は”星野 花 (ほしの はな)”。

道に迷ってうろうろしてたら変なマジシャンに襲われたの!」


(こいつまだマジシャンとか言ってんのかよ。)


「ああそう、星野ね。

で、そのマジシャンはどんなマジックをするんだ?」


あきれた牧田はマジシャンという設定に乗ることにした。


「えぇ~どうしよっかな~。

教えてほしい~?」


「・・・教えてほしいです。」


(あ、あの牧田君が珍しくおとなしい。)


さすがの牧田もこの非常事態にキレてる場合じゃないことを悟ったのか怒らなかった。


「しょうがないな~。

あのマジシャンはね、なにもないところから氷を出せるんだよ。

ついでに空も飛べる。

まじでやばくない!?」


「・・・あ、ああ。

それはやばいな。

他にマジックはないのか?」


「ふふっ」


危機的状況にもかかわらずなぜかちょっとうれしそうに話す星野とは反対に、ニコリともせずただ情報を集めている牧田の姿が新鮮で松本はおもしろかった。


「おい松本、何笑ってるんだ?

なんならお前をおとりにしてもいいんだぞ?」


「い、いえ。思い出し笑いです。

続きをどうぞ。」


かつてない憎しみを込めた目でみられ、本当におとりにされかねないと思った松本は分かりやすい嘘でごまかした。


「君たちおもしろいね~。

でね、あ、そういえば私おもしろいチカラ持ってるんだ~。」


そう言って彼女は横に落ちてた鉄パイプを拾い上げた。


そしてその鉄パイプをサムライのように腰に差した。


ビュッン!


「どう?やばくない?」


「・・・・・・。」


牧田は驚きのあまり声が出なかった。


彼女がサムライのように腰に鉄パイプを差し、構えた直後に抜刀したパイプは目にも見えないスピードで空を割いた。


「おまえすごいな、どうやったらそんなことができるんだ?」


おそらく悪魔の力だろう。


彼女のガタイからしても、あんな速いスピードでそこそこ重い鉄パイプを振り回せるはずがない。


「ふっふーん、すごいでしょー。

夢の中ってすごいよね、思ったことが何でも叶っちゃうんだもん!」


(まだ夢だと思ってるのか。

もう理解させるのは無理だな…。)


「それってもしかして悪魔とか出てきたりしてない!?」


スイッチを切り替えた牧田は彼女の楽しそうなテンションにあわせてテンションを上げて聞いた。


「じ・つ・は~、そうなの~。

この前夢の中で何でも願いをかなえてくれるっていう悪魔が出てきて~いいよ~って言ったら願叶えてくれたの!」


「へーすごーい。

その悪魔なんていう名前なの~?」


(あぁ牧田君が壊れていく…。)


「たしかね~”抜刀欲の悪魔・ヴァン”っていってたなー。

だからね、花ね、”光速で抜刀できるようになりたい”ってお願いしたの~。」


(なるほどねぇ。)


「それでね、マジシャンの氷をパイプで跳ね返してたんだどパイプが折れちゃって逃げまわてたの!」


「お前の話はよーく分かった。

他になんかできないのか?」


「うーん・・・できない!

あ!でも花ね、剣道やってるから剣術なら自信あるよ!」


「へーすごいじゃん。」


全く感情をこめずに牧田は言った。


「他に聞きたいことある?」


当初あんなに起こっていた彼女はすっかりご機嫌だった。


(女の子ってなんであんなにすぐ感情が変わるんだろう…。)


松本がくだらないことを考えている横で牧田は黙りこんでいた。


「ねえねえ、黙ってないで他に聞きたいことないの?」


ちょっと自分に興味がなくなった感じを出されて星野は少しふてくされながら言った。


(この女うぜぇな。

でも、得られた情報は大きい。

問題はこの女をどうやって戦わせるか。

こいつの力がなきゃこの勝負勝てない…。)


「ねえねえ聞いてる?」


徐々に機嫌が悪くなる彼女を無視して牧田は黙って考え続けた。


「ま、牧田君?大丈夫?」


心配になった松本は声をかけた。


「・・・あ、ああ。大丈夫だ。

それよりも星野、せっかくの夢の中だ。

もっともおもしろいことしないか?」


「え!おもしろいこと!?

するするー!

なにするの~?」


あいかわらずコロコロと表情を変える星野。


「あのマジシャンのマジックのタネを明かそうぜ。

俺ならそれができる。

実は俺、天才マジシャンなんだよね。」


「あー花もマジックのタネ明かしたーい!

ていうか君…じゃなくて牧田君?だよね。

牧田君て天才マジシャンなの?」


(俺を名前で呼んでくるあたり、そこそこ信頼されてきたのかもしれない。

黙って話を聞いたかいがあったな。)


「ああ本当だ。

なんなら今ここでマジックを見せてやるよ。

松本、そこに落ちてる石を俺に向かって投げろ。」


そう言って牧田は松本の足もとにある石を指さした。


「だ、大丈夫なの?」


(そういえば松本にもまだ能力を見せてなかったな。

ついでだし、いい機会だろう。)


「ああ、問題ない。

俺が”リリット”って言った3秒後に思いっきり投げろ。」


「わ、わかったよ。」


松本は石を拾い上げ牧田と少し距離をとった。


牧田はそれを確認し、能力を発動した。


「リリット」


(1、2、3)


心の中でカウントを終えた松本は思いっきり振りかぶって石を投げた。


石はまっすぐ牧田の胸元めがけて飛んで行った。


「キャッ」


星野は思わず手で目を覆う。


「・・・安心しろ、俺は無傷だ。」


それを聞いた星野は指の隙間から牧田のほうを見た。


「えっ!すごーい!!すごーい!!

どうなってるの!?」


石は牧田の胸の前で停止し空中に浮いていた。


「どうだ、俺が天才マジシャンなのがわかったか?」


耳が聞こえないので星野の動きを見て牧田は言った。


カーン


石の軌道から牧田が少しずれると、そのまま石は鉄くずの山にぶつかった。


「いいかよく聞け。

いくら俺が天才マジシャンでも相手はそこそこのマジシャンだ。

俺一人だけじゃタネは明かせない。

星野、お前の協力が必要だ。

手伝ってくれないか?」


「すごいすごい!

花も手伝うよ!」


(よし、狙い通りちょろいやつだ。

あとはあの天使をどう潰すかだが…。)


「星野、お前さっきパイプ振り回してたけどあれ全力じゃないよな?」


「もちろんそうだよ。

全力でやったら危ないじゃない!」


「なら、次からは全力で頼むぜ。

そうしないとあいつをぶっ殺せないからな。」


「え?殺す?タネ明しは?」


「おやおや、大きな音がすると思ったらこんなんところに隠れてたのかいお嬢ちゃん。

それに坊やたちまで増えてるわねぇ。

死体が3倍になると思うとゾクゾクするわぁ。」


聞きなれないセクシーボイスのほうを振り向くと白銀の長髪お姉さんが立っていた。


(ちっ、さっき石が当たった音でばれちまったか。)


「とりあえず逃げるぞ!

二人ともついてこい!!」


「は、はい!」

「りょ!」


牧田たちは橋の下から抜け出し建設途中の建物のほうまで走り出した。

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