第19話 天然
牧田の家はちょうど都会と田舎の境みたいなところにあった。
だから数分ほど走れば都会に行けるし自然に触れ合うことができる。
素晴らしい立地に住んでいる牧田たちは今、浅沼工事現場に向かっていた。
「ハァハァ、おいヘクトール!
そいつまだ生きてるか?
ていうか浅沼工事現場から移動してたりしないよな?」
息を切らしながら牧田はヘクトールに聞いた。
「いえ、あの後から連絡が返って来てないので何とも言えません。
ですがそう簡単にやられるようなやつじゃないので大丈夫だと僕の第六感が言ってます。」
「また第六感かよ…。」
胡散臭いなと思いつつ牧田は現場に向かって走り続けた。
「おい松本。
そろそろ着くから気を引き締めろよ!」
「は、はい!」
松本から力強い返事が返ってきた時だった。
ドーンドーン
「お、おい!
もう戦闘がはじまってるじゃねーか!」
「ね、ねえ牧田君。
なんかこの辺異常に寒くない?」
「確かに…。」
走ってたせいで体が温まってて気づくのが遅れたが言われてみれば異常に寒い。
「牧田ぁ、もしかしたら敵は”氷使い”かもしれねえなぁ。
凍死とかいうくだらない死に方したらお前の魂地獄送りにするからなぁ?」
「お前と契約した時点でどうせ地獄送り確定だろ!」
「ごちゃごちゃうるせぇ。
それよりも見ろよ!
尊い天子様が見えるなぁ。」
ルシウスに言われて見たが天使らしき者はいなかった。
「いねえじゃん!」
「いいやぁ、いるぞぉ。
上を見てみろぉ。」
そう言われて牧田と松本は上を見上げた。
そこには空中を動き回る人の姿があった。
「ま、牧田君。
あの人飛んでるよ?」
「そ、そうだな。
ルシウス、天使と契約した人間ってのは空も飛べるのか?」
「いやぁ、あれは完全に能力だぁ。
”氷使い”のくせに飛ぶってことは不可能だぁ。
別の能力かもしれねぇなぁ。」
キャーーー
「今の叫び声、もしかして悪魔と契約してるやつじゃないのか?」
「牧田君急ごう!」
「あぁ!」
立ち入り禁止のロープを超えて中に入ると、積まれてた木材の後ろから女の子がこっちに向かって走ってきた。
「大丈夫か君!
はやくこっちに来るんだ!」
女の子に向かって牧田が叫んだ。
「あのぉ!!
あそこにキテレツマジシャンがいます!!
危ないので逃げてください!!」
(キテレツマジシャン?
もしかして天使のことか?)
意味わからないことを叫びながらこっちに走ってくる少女。
近づいてきて分かったが歳は牧田と同じくらいに見えた。
黒のキャップをかぶり、束ねた茶髪ポニーテールが激しく揺れている。
スキニージーンズがよく似合う細くて長い足をしている。
服はブカブカで大きめのサイズの赤いパーカーを着ていて、いかにも今時女子って感じだった。
モデルや女優ではなく読モみたいな顔立ちの女だった。
「君たちバカなのー!
あのマジシャンに殺されるよ!!」
そしてこっちに着くなり、開口一番に俺らをバカ呼ばわりするネジが飛んだ女だった。
「あのな、あいつはマジシャンじゃなくて天使!
お前を殺しに来た天使なの!
お前こそバカなのか!
ていうか悪魔と契約してんじゃないのか?」
「あれ、もしかしてここ夢の中?」
(こいつバカじゃなくて天然なのかもしれないな…。)
「いいか!
ほっぺをつねってみろ!」
「う、うん。」
女はこれでもかという勢いでほっぺをつねった。
「いったーい!!
でも夢の中でも痛いものは痛いし、これってやっぱり…。」
「現実だ!」
「は、はい!」
「とりあえず空中にいるヤツから逃げるならあそこだ。」
牧田が指をさした先は近くを流れる川の橋の下だった。
「なんで夢の中で指示されなきゃいけないの!
しかも全然イケメンじゃない男に!」
「おい女、いいからついてこい!
夢の中だろうと死ぬのは嫌だろ?」
「そうよね、夢の中で死ぬと目が覚めちゃうよね。
私まだ寝たいから頑張る。」
「理由は何でもいい、行くぞ。」
牧田と松本と天然女は橋の下まで木材の影に隠れながら進んだ。
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