第21話 考察


「いいか星野、お前が光速で抜刀するアレ、抜刀してそのまま敵を叩くよりももっといい使い方がある。」


「え?本当?」


敵から逃げながら、牧田は簡潔に説明しはじめた。


「”衝撃波”って知ってるか?

あれの原理は簡単だ。

音速を超える速度で物体が空気中を横切ると発生するものだ。

光速で抜刀すれば、その衝撃波でヤツを打ち落とせる。」


「よくわからないけどやってみるよ。」


「あら、坊やたちやっと死んでくれる準備ができたようね~。

大丈夫よ、お姉さんが一瞬であの世に送ってあげるわ~。」


上を見上げると空中を動き回りながらこっちに話しかける天使がいた。


(だいぶ変な性格した天使だな。)


「おい星野、油断してる今がチャンスだ。

おもいっきり抜刀しろ。」


黙って星野はうなずきパイプを構える。


「あらやだ、なにかする気ね。

そうわさせないわよ。」


何かしてくるのを察した氷天使は先に攻撃を仕掛けた。


ヒュン ヒュン ヒュン


氷天使は氷のつぶてを何十個も牧田たちめがけて撃ってきた。


(氷は手から出るのか、なるほど。)


牧田は勝つための情報を集めるために冷静な分析をしている時だった。


ブンッ


隣で星野が攻撃のスキをついて光速で抜刀した。


さすが剣道をやっているだけのことはある。


攻撃のタイミングが良すぎる。


(よし、ナイスだ。)


抜刀の直後、牧田たちは敵の攻撃をよけた。


落ちてくる氷のつぶては地面に刺さり、すぐに消えた。


「よく避けられたわねぇ。

でも、その体力いつまでもつかしらぁ?」


そう言って氷天使は続けざまに攻撃をしてきた。


「ちっ」


軽く舌打ちをし、牧田と星野は同じ方向に逃げる。


松本は反対方向に走っていった。


「星野、お前ちゃんと狙ったのか?

あいつ普通に無傷だぞ?」


「狙ったもん!

ちゃんと当たったはずだよ!」


星野は全く自分は悪くないといわんばかりに牧田に言った。


「じゃあなんで無傷なんだよ!」


「そんなの知らないよ!

あっ!危ない!」


その直後、牧田の体はルシウスの能力によって大きく後ろに吹っ飛んだ。


「いたっ!

なにすんだよ…、っておいおいまじかよ。」


牧田のいたところには、2メートルほどの氷の槍が地面に突き刺さっていた。


「た、たすかった。

すまねえなルシウス。」


「いいからさっさとあのクソ天使をぶっ潰せぇ。」


「わ、わかってるよ!」


「牧田君、いいから早く逃げなさいよ!

なんだかんだであんた頭いいんだから倒す方法考えて!」


星野はそれだけ言い残し走っていった。


「おい!待てよ!」


牧田のことなど完全に無視して彼女は走っていった。


ある程度牧田から離れたところで星野は叫んだ。


「おらぁブスおんなぁ!!

あんたみたいなのはこの、かわいいかわいい花ちゃんが相手よ!!」


(いくら煽りでも自分のことかわいいとかいうってすげえな。)


牧田はイラつきを通り越して感心していた。


「この小娘がぁ!

この美しい私をブス呼ばわりしてただで済むと思うなよ!」


案の定、星野の挑発に乗った氷天使は向こうに行ってくれた。


(なるほど、星野が時間を稼いでくれるってわけか。

今のうちに倒す方法を考えないと。)


牧田は考えた。


(光速抜刀しても敵はびくともしなかった。

衝撃波が出てなかったのか?

いや、確かに出ていた。

おそらく空気抵抗が鉄パイプじゃ低すぎたのだろう。

もっと面積の大きい何かで抜刀しないとな。)


牧田は周りを見渡す。


視線の先には少し太めの木材が置いてあった。


(ちっ、あの大きさが限界かよ。

だが、あれさえあれば勝てるかもしれない。

あとは俺の考えた理論が正しければ、空中にいる氷天使の動きを止められる。

そこをブッ叩く。

あの氷天使、ずっと空中を動き回っているがどこか違和感がある。

”飛び回る”ではなく”動き回る”ってのがおかしい。

ヤツはまるで”空中を走り回っている”ように見える。

そこに見えない地面があるかのように。


おそらくヤツは一時的に”空気中の水分”を凝固させて氷の足場を作り出し、そこを踏み台にして空中を移動しているはずだ。

それなら勝てる。

星野が鉄パイプで衝撃波もどきを発した時のことを思い出すと・・・・いけるっ!)


勝算を立てた牧田は敵をひきつけてくれている星野を呼んだ。


「おい星野!あれを抜刀しろ!!

鉄パイプのような空気抵抗の弱いものじゃ大した威力にならなかったんだ!」


そう言って牧田の指さす先を見ると少し大きい木材があった。


「うそでしょ!?

あんなに重いもの振り回せないよ!」


少し大きいといっても、さすがに女の子からしてみれば到底持ち上がるそうにもないものだった。


「いや、できるはずだ。

鉄パイプだって十分に重い。

お前は抜刀時限定でどんなものでも光速で振り回せるんだ。」


牧田晴れ性に説得した。


「へー私ってなんでも持てちゃうんだー。」


「とにかく、空を飛び回るあいつを地面に落とさないと話にならない。

お前の衝撃波で撃ち落としてくれ。」


「も~しょうがないな~。

花ちゃんにまっかせなさーい!」


敵の氷のつぶてを自慢の剣術でさばきながら星野は返事をした。


「あらぁ~衝撃波で撃ち落とそうですって?

確かにできるかもしれないけど木材ごときでできる衝撃波なんてたかが知れているわぁ~。」


作戦をすべて聞いていた氷天使は勝ち誇ったかのようにしゃべっていた。


(甘いんだよクソばばあ、俺の狙いはそれじゃない。)


星野から牧田に狙いを変えた氷天使。


両手を空に掲げ、なにやら空気中の水分を集めて凍らせている。


1秒ほどでそこには2メートルを超える巨大な氷の塊ができていた。


(うおっ!やべえ!)


そう思ったと同時に氷の塊を投げ飛ばしてきた。


星野は全力ダッシュとルシウスの回避能力で避けた。


横目で星野のほうを見るとちょうど木材のところに着いたのが見えた。


(もう少秒だけ引き付けるか。)


「あれれ~?おばさん化粧が剥がれ落ちてバケモノ見たくなってるな~。」


牧田は敵をあおった。


「死ね死ね死ね死ね死ね!

このガキいい気になるんじゃないよ!」


(こいつ、簡単に感情的になるな。

おかげで戦いやすいぜ。)


無数の氷のつぶてを撃ってくるが怒りのせいか動かなくてもほとんど当たらない。


視界の端で星野が抜刀しかけているのが見えた。


(よし!)


牧田は全力で氷天使に向かって突っ込んでいった。

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