第17話 苛苛


牧田は部屋のベッドに座り話し始めた。


「で、松本。

お前はどこまでそのヘクトールってやつと話した?」


キョロキョロしながら部屋に入った松本は、当たり前かのように牧田の椅子に座った。


(だいぶ図々しい奴だな。)


ややイラつきつつも牧田は我慢することにした。


「あ、あの。

僕まだ何も聞いてないんです。

よかったら教えてくれませんか?」


「・・・はぁ。

まあ、いいだろう。

ただその前に話したいやつがいる。

ヘクトールとか言ったか?

出て来いよ。」


牧田は松本の影に向かって声をかけた。


・・・・・・・。


「はじめまして、だね。

牧田君。

ルシウスからはよく君のことを聞いてるからある程度のことは知ってるよ。」


松本の影からヘクトールと思われる黒い影が浮き出てきた。


「あぁそうかい。

ただ、一つ疑問がある。

なんで今の今まででてこなかったんだ?

松本に出会った瞬間に出てきてくれれば話が早かったはずだと思わないのか?」


「いや、なんていうか、ルシウスが出てこないほうがおもしろいから出るなって…。」


「ルシウス!

てめえは何でいつもウザいんだ!」


牧田の影から黒い影が浮き出てきた。


「あぁぁん?

別に死ぬわけじゃねえんだぁ、別にいいだろぉ?」


「まじで腹立つな、クソが!」


「あ、あの…。そんなに怒らなくても…。

それよりも説明をしてほしいんですが…。」


「あぁぁ?

てめえもてめえでうぜえんだよ!!」


完全にイラつく牧田をさらにイラつかせる松本。


彼の空気の読めなさは、天然なのか、それとも狙っているのか。


それは松本のみ知る。


「・・・・・。

まあ、とりあえずなんも知らないほうがイラつくから全部教えてやるよ。」


すぐに冷静さを取り戻した牧田は松本に悪魔との契約のルールについて話した。


―――――――――。


「なるほど、完全に理解しました。」


(本当かよ…。)


アホ面した松本が理解したかは定かでないが、一応理解したといっているので良しとしよう。


「牧田さん、一つ質問があります。」


わざとイラつかせに来てるんじゃないかと思うくらい松本はピンと腕を伸ばして聞いてきた。


「なんだよ?」


「僕は一体何の悪魔と契約したんですか?

牧田さんが”睡眠欲”の悪魔なら僕はなんなんでしょう?」


「そんなん自分の悪魔に聞けよ!!!!」


「そ、そうですね。」


さすがの松本もこれ以上は牧田を怒らせると悟ったのか、おとなしくヘクトールに話しかけた。


「な、なあヘクトール。

君は何の悪魔なんだい?」


「松本君、自己紹介や説明が遅くなったこと、本当に申し訳なかったと思っている。

僕の名はヘクトール。

と」


「あーあ、こんなに待たせて自己紹介とか、よっぽどすごい欲の持ち主なんでしょうねー。

過去にヘクトールに勝ったって、すごいんだろーなー。

はやく聞きたいなー。」


(こいつ、うぜえ。)

(こいつ、うぜえ。)

(こいつ、うぜえ。)


その場にいる牧田以外全員が同じことを思っていた。


「・・・・ん、ん、ん。

そ、そうかもしれないね。」


ヘクトールが咳払いをして話し始めた。


悪魔が人間に気を使うという奇妙な空間がそこにはあった。


「僕の名前はヘクトール。

”賭博欲”の悪魔・ヘクトールです。」


「トバクヨクぅ?」

「トバクヨクぅ?」


牧田と松本の思考が合う最初で最後の瞬間だった。


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