第16話 松本


「朝よぉ~たくみ~。」


「朝から気色悪い声出してんなよ!」


朝一でルシウスの全く似てない母親の声で牧田は目を覚ました。


「なんだよその顔はぁ。

結構似てたと思ったのになぁ。

そもそも、そんなに寝てるから睡眠欲の悪魔の俺様に目つけられるんだぁ。」


(俺がよく寝るから睡眠欲の悪魔か…。一理あるな。)


「それより牧田ぁ、お前に良い情報だぁ。

どうやらヘクトルがこの近くまで来たらしい。

会いに行くぞぉ。」


「ヘクトールって確か前にルシウスが連絡とってた悪魔か?」


「そうだぁ。」


(確かに情報を持っている悪魔とは合流したいな。

それにこのルシウスが言うんだ。

そこそこ頭の切れる悪魔に違いない。)


「ちょっと待ってて、準備してくる。」


そう言って牧田は1階の洗面所に向かった。


牧田の家族だった父と母は中学生のころに亡くなり、この家には牧田一人しか住んでいない。


洗面所で寝ぐせを整え歯を磨いて顔を洗った牧田は、のどが渇いたのでウーロン茶を取りに冷蔵庫に向かった。


(ん?)


冷蔵庫を開けると必ず置いてあるウーロン茶がなかった。


「おいルシウス。お前ウーロン茶飲んだか?」


自分の影に向かって問うと、影からルシウスが出てきた。


「はぁ?

悪魔が人間どものゴミみたいな食糧口にするわけねえだろぉ?」


(いちいちうぜえな。)


「そうかよ。

しかし、確かにここに置いた気がしたんだけどな…。」


牧田は冷蔵庫の中を探した。


しかし、毎日置いてあるはずのウーロン茶がない。


「どうしたんだい君?

僕に解決できることがあるなら手伝うよ?」


「あぁ?」


イラつきながらも声のするほうを見た。


黒縁のメガネをかけ、髪は肩くらいまで伸びるサラサラヘアー。


そして学ランを着ている。


顔はどこにでもいそうな普通の顔だった。


一見すると真面目な好青年っぽい男がそこにはいた。


「誰だよお前!

勝手に人の家に入ってきて、警察呼ぶぞ!」


「ご、ごめんなさい!

僕、何も知らなくて。

ただ君の悪魔に呼ばれてきただけなんだ。」


それを聞いて振り返るとルシウスがニタついてこっちを見ていた。


「ルシウス、まさかこのスゲー貧弱そうなやつがヘクトールなのか?」


部屋に入ってきた男を指さしながら牧田は問う。


「あぁそうだ。

まあ、貧弱かどうかは見た目で判断するもんじゃないぜぇ?

なにを隠そう、第一期生の首席だった俺様を上回る成績をとってた唯一の存在だからなぁ。」


「まじかよ、こいつそんなやべぇ奴だったのか。」


もう一度青年のほうを見ると初見では気づかなかったが、ところどころにやばさを感じた。


なぜか腰にチェーンを垂らしてるし、全部の指にイカツイ指輪をつけている。


首にはパチモン感満載の金のネックレスをつけている。


(たしかに、いろんな意味でやばいかもな。)


「あ、あの…。

自己紹介がまだで申し訳なかったです。

僕の名前は


”松本 明 (まつもと あきら)”って言います。


先日ヘクトールっていう悪魔と契約したばっかで戸惑っていますが、よろしくお願いします。」


「あ、あぁ。

君がルシウスの言ってたヘクトールとその契約者か。」


「は、はい!

そうです!」


「・・・あのさ、ふつう勝手に他人の家はいらないよね?」


「はい!その通りです!」


「・・・あのさ、勝手に他人の家のウーロン茶も飲まないよね?」


だいぶ前から気づいてたが、松本の手にはウーロン茶のペットボトルが握られていた。


「はい!その通りです!」


静寂の部屋に松本の元気な声だけが響く。


「・・・あのさ、」


「はい!その通りです!」


「まだなんも言ってないんだけど?」


「この流れからするに、また問うてきそうだったので。」


「・・・はぁ。

とりあえず2階に上がって話をしよう。」


ルシウスに加えて、別方向にウザい奴をまた引き入れてしまったな

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