第14話 正体


コンビニから帰るとルシウスは部屋のどこにもいなかった。


「おいルシウス!どこだよ!」


「ここだぁ。」


声は牧田の影から聞こえた。


「え、出かける前まで部屋にいたのに。

いつのまに?」


「悪魔は契約者の影にいつでも移動できるシステムなんだぁ。」


「そ、そうなんだ。

ちょっと怖いな。」


牧田は買ってきたおにぎりを食べ始めた。


「牧田ぁ、おまえには今日のことすべてを説明してやるよぉ。」


「お、早く話してくれよ。」


「まず一つ目。

今回襲ってきたあいつの正体についてだが、あいつの正体は”天使”だぁ。」


「え、まじで?

天使ってもっと優しそうなやつでみんなを幸せにするようなイメージあるけど?

どっちかって言ったらあっちのほうが悪魔に見えたぞ?」


「まぁ、これには裏話がある。

こうなったのも数年前に起こったある事件が原因なんだぁ。

事件といっても人間どもは関係ない。

もう一個上の世界、”天使界”と”悪魔界”の事件だぁ。」


「うわ、めっちゃおもしろそう。」


「こっちからしてみれば全くおもしろくないがなぁ。

話を戻すが、数年前に事件は起こったぁ。

天使界と悪魔界のすべてを収めるやつ、まあ人間界の大統領みたいなやつがいるんだが、そいつが上の世界の秩序を維持してくれてたんだぁ。

”ゼウス”っていうんだが、そいつが数年前になぜかいなくなって、代わりにその息子が”ゼウス”の役職に就いたんだぁ。

こいつが厄介で、今回の事件を起こした張本人といっても過言ではない。」


「たしかに人間界でも大統領が変わると結構な騒ぎになるしな。

で、何が起こったんだ?」


「そいつの考え方が”初代ゼウス”と全く違ったんだぁ。


初代は


”天使と悪魔、無欲と欲望の2種族がいるからこそ、この世界はバランスが取れている。

どちらも失ってはいけない、かけがえのない存在である”


とかいう考えを持ってたんだぁ。

だから俺様たち、悪魔と天使は住む世界は違っていても、お互いがお互いに悪い存在だとは思わなかったぁ。

だが、2代目は違ったぁ。


2代目は


”欲に満ちた悪魔はこの世界から滅ぼすべき。

天使だけが存在すれば世界は浄化された素晴らしき楽園になるだろう”


とか言いやがったんだぁ。

その日を境に天使族の連中は変わってしまったぁ。

交流が皆無だったとは言わねえが、たまに会って話したりすることもあったぁ。

だからあんなにやさしそうな連中が、あそこまで敵意むき出しで襲ってくるとは悪魔族はだれも思わなかったぁ。」


「て、天使が襲ってきたのか?」


「あぁ。

悪魔と天使は月に1回、軽い会談みたいな交流があったぁ。

それは天使界と悪魔界の間にある小さな島で行われるんだが、その時の出来事だったぁ。

会談に向かった悪魔たちはその場で全滅させられたんだぁ、天使たちの手によってなぁ。

そしてその後だったぁ。

天使界も悪魔界も、どちらもそこに行くにはある乗り物に乗らないといけないんだが、天使族はそれに乗って悪魔界に侵入してきたんだぁ。

当然、悪魔たちは天使族が乗り込んでくるとは思わず驚き戸惑っていたぁ。

そして一瞬、戦闘態勢に入るのが遅れた悪魔たちはそのまま殺されていったぁ。」


ここで食事を終えた牧田が口を開いた。


「あのさ、悪魔とか天使って死ぬの?」


「あぁ、もちろんだぁ。

天使は悪魔、悪魔は天使を唯一殺すことができる存在なんだぁ。

殺すというか”消滅”させるってほうが正しいかもしれないけどなぁ。」


「消滅って、そのあとはどうなるんだよ!?」


「さあなぁ、消滅してからのお楽しみってとこだろうなぁ。」


「なんだよ、お前でも知らないことってあるんだな。」


「当たり前だぁ。

全部知ってんのは”ゼウス”くらいだなぁ。

まあ、そんな感じで悪魔界は見事滅ぼされたって感じだぁ。」


「ちょっと待てよ、滅びたのになんでお前とかさっき連絡してたやつとかは生きてるんだよ?」


「それは今から説明する。」

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