第12話 観取(後編)


「まあ分からなかったけど最後の最後で分かったって感じだな。

と、言うのもベルが自分から教えてくれたんだよね。」


「・・・マジかぁ?

自分で教えるようなアホには見えなかったぞぉ?」


「いや、確かにヤツは言ってた。

僕の名は”ベル”、無欲の光・ベルだ、ってな。」


「たしかに言ってたが・・・あ。

なるほどなぁ。」


「そう、ベルは自ら”光”というワードを出してしまったんだよ。」


「そう考えるとあいつアホだなぁ。

あんだけ俺強いですよ感出しといて、自信満々に語って、結果負けてるんだからなぁ。」


「そうだけどそうじゃないんだよね。」


「どういう意味だぁ?」


「そろそろ風呂に浸かってるのもしんどくなってきたから一旦出るね。」


そう言って牧田は風呂を出て着替え、冷蔵庫に向かった。


牧田は冷蔵庫を開けるとある飲み物を取り出し、胃に流し込んだ。


「ックウゥゥ~、風呂上がりはこれに限るぜ!」


牧田の手を見ると350ミリ缶のチェリーコークがそこにはあった。


「おい牧田ぁ、なんだその紫の飲み物はぁ?」


「ん?チェリーコークだ。

糖分取らないと頭が回らないから俺はこれを飲むんだ。」


「・・・。

コーラじゃダメなのか?」


「コーラもいいんだけど、この癖になる味がたまらないから俺はこっちだな。」


「ふーん。」


牧田は缶を持ってリビングのソファーに座った。


「さて、さっきの続きを話そうか。

実は俺はビルの間に入った時からベルのことを観察していた。

奴が放った最初の一言覚えているか?」


「・・・覚えてないなぁ。」


「ベルはこう言ったんだ。

「ねぇ、君も逃げるだけなのかな?

そろそろ僕飽きてきたよ。」ってな。

この一言から大まかな敵の性格やその時の心境が知れる。」


「この一言だけじゃ全然わからねえよぉ。」


「いいや、分かる。

奴の”君も逃げるだけ”という言葉の、”君も”というところから他にも相手がいたということがわかる。

そして、”飽きてきた”の一言で、やるのがめんどくさいが渋々やっている、という感じがわかる。


つ・ま・り、奴はこの単純作業になれが生じ、しかも飽きている。

俺は奴に付け入るスキがいくらでもあると踏んだ。」


「なるほどなぁ。」


「しかもそれだけじゃない。

俺は時間を稼ぐためにわざとバカのふりをした。

するとどうだろう、奴は完全に俺を見下し、憐れんできた。

俺は思った。

この状況に対し、奴に”完全勝利”の状況をつくれば必ずボロが出るとな。

そう考えた俺は何も知らない無知なふりをしたまま土下座をした。


もうわかるだろ?

奴は確信したんだよ、自分の勝利をな。

自分よりも劣った人間が敗北を悟って逃がしてくれと叫んでたら、勝ちを疑わないだろ?

だからうっかり自分のことをペラペラとしゃべったんだ、罠だとも知らずにな。」


「牧田、お前結構考えてたんだなぁ。」


「当たり前だろ。

で、まあ、奴は自ら”光”というワードを出してしまい、俺は対抗策を瞬時に考えて勝ったってことだ。」


牧田は終始ドヤ顔で話して満足だった。


(これでルシウスが俺のことをバカにすることもないだろう。)


全ての解説を聞き終えたルシウスが口を開いた。


「なあ牧田ぁ。

俺様はお前を契約者に選んでよかったと思うぜぇ。」


「・・・な、なんだよ気持ちわりぃな。

まあこんな感じだ。

実力じゃ完全に向こうが上だったが、精神力と思考力は俺のほうが上だったってことだ。

久しぶりに楽しかったぜ。

じゃ、もう寝るから。」


(なんでこいつ急にほめてくるんだよ、調子狂うぜ。)


走り回って疲れた牧田はまだ昼の時間だったが眠りについた。

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