第9話 傲慢


晴れていた空に雨雲がかかってきた。


ポツポツと雨が降り出す。


少年は右手のひらを牧田に向けた。


その直後、ルシウスの力によって牧田の上半身が動き攻撃をかわす。


(ん?さっきまで見えなかった攻撃が少しだけ見えたぞ。

すごい高速で飛んでくる”矢”みたいななにかだったな。)


「くそっ!!なんなんだよお前!!

なんで俺を狙うんだよ!!

バカな俺には何が起こっているか分からねえんだよ!!」


今にも泣きだしそうな表情で牧田は言った。


(とりあえず時間を稼いで考えるんだ。

何でもいい、あいつから情報を奪うんだ。)


少年は牧田に向けた手を下げ、口を開いた。


「君はその悪魔からなにも聞いてないのかい?」


まるでその辺のアリを見るかのような目で彼は聞いてきた。


(きたっ、何でもいい話せ!)


「なんも聞いてねぇよ!

こいつと知り合ったのもついこの前でな、俺すごいバカだからこいつが言ってることも何も理解できてないんだよぉぉ!」


「そうか、かわいそうなやつだな。」


そう言って少年は攻撃の構えをしてきた。


(えぇぇ、それだけかよ。

もっとなんか話すところだろそこは。

プライドがどうとか言ってらんねぇ、やるしかない。)


そう決心した牧田は地面に正座した。


そのまま両手を地面につき頭を下げた。


「頼むよぉぉ、俺何も知らないんだよぉぉ!!

見逃してくれよぉぉぉ!!」


会心の土下座だった。


「・・・・・・哀れな人間だ。

今まで殺してきた人間の中で一番のゴミだな。

よく君みたいな人間が悪魔と契約できたね。」


少年はそのまま右手のひらを牧田に向け、攻撃を続行しようとした。


(クッソ、ここまでか。いや、いけるはずだ。

ただ確信が持てない。

確信が持てない以上賭けには出れない。

しかし、そうも言ってられないな。

・・・どうする。)


「かわいそうな君が死ぬ前に教えてあげよう。

僕の名は”ベル”、無欲の光・ベルだ。

僕はとある方の命令でこの世にいる悪魔と契約した人間を殺しに来た。

残念だったねぇ、君は不運なことにそこの悪魔と契約してしまった。

何も知らなくても殺さないといけないんだよ。

じゃあね。」


少年が言い終え攻撃をし始めようとした時だった。


牧田の脳内では今日得た情報すべてを処理していた。

――――――――――――――――――――――――――――――――

よけた先のコンクリートの地面に直径1センチほどの穴が開いていた。


ポツポツと雨が降り出す。


僕の名は”ベル”、無欲の光・ベルだ。

僕はとある方の命令でこの世にいる悪魔と契約した人間を殺しに来た。


さっきまで見えなかった攻撃が少しだけ見えたぞ。


――――――――――――――――――――――――――――――――


牧田は人生ゲームにおけるこのイベントの攻略法を導き出した。


「ルシウス!願いを叶えてくれ!」


「やっと俺様の出番かぁ。」


「願いは”俺の周りの物体の運動を眠らせる能力”

代償は”俺の聴力”だ。」


「汝の願い、この睡眠欲の悪魔・ルシウスが叶えよう。」


その瞬間、牧田の体を漆黒の煙が覆う。


(おっ、なんだこれ。

能力を得たってことでいいのか?)


牧田を覆っていた漆黒の煙が晴れていく。


土下座していた顔を上げると無表情の少年が手のひらをこちらに向けてきた。


「まさかこの場で願を叶えるとはね、正直驚いたよ。

だが、しょせん付焼刃の君に王国一の力を持つ僕は倒せないよ。」


「こ、これで能力発動してるのか!?」


ベルの手になにかが集まり間もなく攻撃が放たれようとする。


「お゛ぉぉぉい、牧田ぁぁぁ!!

今はまだ発動してないぞぉ!

何でもいい、その能力をイメージしながらそれっぽい呪文を唱えろぉ。」


「え、えぇと、”リリット”」


唱えた直後ベルのほうを見る。


「どうやら君の能力は発動しなかったようだね。

君は周りの物体の運動を眠らせる、つまり運動を止めると言ったが僕はこの通り動けるし話すことだってできる。

残念だったね。」


この時、ベルの声は牧田に届いていなかった。


契約の代償通り、聴力を失っていたのだ。


ベルは手のひらに何かを集めて牧田に向けて放った。


矢の形をした物体が牧田に向かって飛ぶ。


当然この近距離で避けることはできない。


ルシウスの力を使ったとしてもだ。


「君もつまらない人間だったよ。

残念だ君の負けだ。」


放たれた矢は牧田の顔面めがけ飛び、頭を貫通する。


はずだった。


それは牧田の眉間で止まった。


「残念だったなぁ、ベル。

お前の負けだ。」


そういった牧田はポケットからスマホを取り出し、矢の先端にスマホの画面を添えた。


スマホから手を放すと同時に少し後ろに下がると、停滞していた矢が牧田めがけて運動を再開し、スマホは落下運動する。


だが、スマホが落下するよりも早く”矢”は運動し、スマホの画面に当たった。


その直後。


「ぐぁぁああぁ!!

クソ悪魔風情がぁぁぁああぁ!

痛いよぉぉぉおぉおぉ!!」


ベルが牧田に向けて放った矢はベルの右腕にヒットしていた。


「クックック、お前しゃべりすぎなんだよ!

お前の力は”光”。

光は光沢物質に当たるとどうなるかわかるかぁ?

反射するんだよ、今みたいになぁ。」


「ふざけやがって、この悪魔が!」


「残念、なんか言ってるようだが今の俺には聞こえないなぁ。

さぁ、このまま勝負を続けるかぁ?

結果は見えているけどなぁ?」


不気味に微笑みながら話す牧田からはどことなく悪魔っぽさを感じられた。


「ちっ、覚えてろよ牧田ぁぁ!!

その程度で勝ったと思ったら大間違いだからなぁ。

いずれお前は殺される運命なんだよ!!」


美少年とはかけ離れた憎々しい顔をしたベルは最後に言葉を放ち一瞬にしてその場から消えてしまった。


「た、助かった、、、のか?」


「あぁ、俺様もびっくりの結果だぁ。

正直負けたと思ったからなぁ。」


普段性格が悪いルシウスが珍しく褒めてきた。




さっきまでの表情を崩し、安堵の表情を浮かべる牧田。


しかし、これから起こることを牧田はまだ知らない。


ただただ、牧田はゲームに勝ったという安心と快感で満たされていた。



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